33話 嫌な予感
いつものように羽乃と昼ごはんを僕の教室で食べ終える。
トイレ行ってくる、と一言断ってから、僕は立ち上がる。
「……置いてくの?」
「……いや、トイレな?」
「……置いてくの?」
「……いや、すぐ帰ってくるから」
時々、羽乃が発作的に起こす訳分からんノリが始まった。
僕はそれを適当にあしらい、トイレへ向かう。
廊下を歩いていると、数人の知らない男子が話しかけてきた。
新学年になったばかりの頃は、よくあったが、2年になって半月ほど経った今では、話しかけてくる人は少なくなった。
なんか、この感覚懐かしーなー
話しかけてきた男子たちは……
……僕的には今後話に出てくるとは思わないので、数人のそれぞれの特徴は割愛させてもらう。
一人が言った。
「藤崎さんと付き合ってるってホントなんですか?」
「……うん。まぁ、」
質問の内容はいつも決まってこれだ。
羽乃は人気だから、僕みたいなのと付き合ってると思うのが信じられないのだろう。
僕が肯定すると、すぐに男子たちは、ほら言ったじゃん、などと内輪で話し始める。
「あの?もう行っていい?」
もう、彼らが僕に聞くことはなさそうなので、すぐに去る。
僕は、彼らとこれ以上話したくないので、答えを聞く前に、さっさとトイレに向けて歩き出した。
あんまり、根掘り葉掘り聞かれても困るし、羽乃も待たせてるしな。
僕が歩き出すと、後ろから背中を刺されるような発言が聞こえた。
「兄妹なのに?」
僕は、焦りを隠すように振り返る。
振り返る間にも、僕の思考は急激に回転を始める。
誰だ?誰が言ったんだ?
それを知ってるのは。
でも、思い返してみれば、僕の中学と、この高校は距離がかなり近いのだ。
僕と羽乃の関係を知っているであろう、元は同じ中学の人も少なからずいる。
でも、そういう人はいつも決まって、こっそり僕に、どうなってんの?と聞いてきた。
まぁ、今思えば、それこそが幸運だったと言えるだろう。
誰かにバラされない保証なんてどこにもないんだ。
僕は振り返って、発言者の顔を見る。
後から思うと、振り返ってしまったのが、間違いだったのだろう。
いつものように、無視すれば終わる話だったのだ。
でも、どうしてもその発言の主を知りたかった。
果たして、発言した男は、僕の知らない奴だった。
同じ中学では見た事ない。
僕の中学は群馬の中でも、小さめの中学だった。一学年80人くらいだ。
大体の人の、名前は覚えていなくても、顔は覚えている。
それと、こんなキモスなセンター分けのヤツは一度顔を見たら忘れない。
だから、同じ中学にはいなかった。
なんなら、人生において初見だ。
初見さんいらっしゃいっ!!
彼は僕の反応を見て、にやりと微笑む。
そして、言った。
「なーんてね、」
からかうように。
何かを悟ったように、理解したように、こちらを見てから、すぐに踵を返し、歩き始める。
なんか負けた気分だ。
アイツは僕と羽乃の元の関係を知っていて、口を出してきた。
でも、他の奴にはバラす気は無いようだ。
他の男子たちが、センター分けに着いていく。
あのグループの中心核はアイツらしい。
「待てよ〜、咲人〜」
……へー、咲人くんねー
覚えたかんな、許さないかんな、橋〇かーんな!
しかし、なんで僕と羽乃の関係を、あんなヤツが知ってるんだ?
まぁ、同じ中学のヤツから聞いたのだろう。
僕と羽乃が兄妹だったことは公開してないものの、別に隠しているという訳でもない。
それと、僕と羽乃は、もう兄妹ではないしな……。
トイレで用を済ませて、足早に待たせていた羽乃の所に戻る。
なんだかんだ、僕も羽乃の事が好きらしい。
こうやって、羽乃の元に戻るのに、自然と足が早くなる。
まぁ、認めたくは無いが。
「ただいま」
「おかえりー」
ふと、先程のことが頭にチラついたので聞いてみた。
「……そういえば、咲人っていう名前の知り合いいる?」
「ん?どこに?」
「この学校に」
「咲人?んー、いないよ。それがどうかしたの?」
「そっか、ならいいよ」
うーん、やっぱり杞憂で終わったようだ。
ほんとに羽乃は何も知らなそうだ。
考えすぎだな。
嫌な予感がしていたが、どうやら何も無さそうだ。
でも、この時の俺はすっかり忘れていた。
最初からそうだった。
僕の嫌な予感ってのは、良く当たるんだ。
僕のセンター分けへのヘイトの高さはどこからやってくるのでしょうか……たぶん本能的なものでしょうね、




