3話 お兄ちゃんと呼ばないあたり悪意ある、
教室のドアの手前に来た。
1年3組。
これから、一年間僕が勤勉と青春に励む学び舎だ。
それなのに、なんでこんなにも教室のドアを重く感じるのだろう。
原因は間違いなく、隣で幸せそうにぼくの腕を抱える羽乃だ。
幸せそうな微笑みを見ると、ついつい僕も頬が緩みそうになる。
でも、この少女恐るべき策士。
全てが計画の内だと考えないと、いつ足元を掬われるか分かったもんじゃない。
平常心を保つだけで精一杯。
こんなの傍から見たら、登校初日に身の程も弁えず何かを勘違いしてしまったバカップルのようではないか、
「あ、あのさ羽乃……そろそろ、腕離してくれない?」
「うーん、わかった……」
教室に入る前に何とか腕を離して貰えた。
流石に教室に入る時までは、束縛する気は無いようだ。
……無いのかな?多分、無い。
まだ、何か考えが有るようにも思えなくは無いが、考えるだけ無駄だ。
策士羽乃の聡明さには、僕の頭脳では敵わないと、今さっき知ったところだ。
自分の席に着き、鞄を机脇のフックに掛ける。
流石に出席番号は遠いので、座る席は隣だとかいう偶然は無い。
羽乃は、唯一の誤算だ不覚…、なんて呟きながら自らの席に行った。
なんか、発言が軍師っぽいのは、さっきからの策士っぷり故の解釈な気がする。
でも、朝から女子と登校してきたからか、僕への男子諸君の目線は勿論冷たい。
これだから、嫌だったんだ。
クラスでの地位を盤石にしてから、クラスの皆に祝福されるが如くカップル成立といきたかった。
やはり僕の完璧なスクールライフ計画は、すでに破綻しているようだ。
この際だ、隣の人に自己紹介でも…、
隣の人は運良く女子だ。
長い髪の毛に、遠くからでもわかる長いまつ毛、静かに本を読む仕草はまさに眉目秀麗!
是非、お近づきになって……。
「頼くん!」
羽乃が来た。
いや、来てしまった、と言うべきか。
お兄ちゃんと呼ばない辺り悪意がある。
そのまま、入学式まで羽乃の話に適当に相槌を打ちながら、どうやったら青春を邪魔されずに謳歌できるのかを、僕の全思考回路をもって思案していたが、いい案は思いつきそうに無かった。
こればっかりは、策士羽乃の脳をかりたいものだ。
「前途多難だ…」
「ん?なんか言った?」
「いいや、なんでも無いさ。」
この、外堀を着々と埋められている感じがくすぐったい。
いや、くすぐったいなんて甘いもんじゃないな。なんなら、痛いまである。
神がいるなら僕に青春をお与えください…、
「入学式だよ!早く体育館に行こ!」
「いや、クラスごとに並んでいくからな、」
「あ、そうなん?」
どうして、こういう無邪気で可愛らしい少女と一度、血縁関係になってしまったんだろうか。
妹でなかったら、喜んで結婚するんだがな、
考えても無意味なことを考えながら、羽乃と二人並んで歩き出す。
(2023,7月9日、加筆修正済)誤字脱字ありましたら教えてクレメンス。