27話 人生最盛期
業務用スーパーで買い出しを終え、私は両手に荷物を持つ。
「うっ、重たい……」
山岸さんの孤児院にいる子供は、未就学児を含めて現在18名。
田舎の分校なんかだったら、こんなくらいのクラスの規模の学校もあるのでないだろうか。
そんな人数分の食事の調達だ。
到底、私の両手に収まる量ではない。
ただ、今回は、孤児院に務める先輩おばさんの西条さんに頼まれて、18人分のネギと豆腐を買ってきたところだ。
まさか、2種類だけでこんなに大量になるとは思いもしなかった。
まぁ、中には私と歳の変わらないような人も居るから、食べ盛りなんだろう……。
少し日が沈みかけてきたのに、まだ気温は下がりそうにない。
てか、かなり暑い。
これが、地球温暖化か?
詳しいことは分からないけど、よく考えてみたら、まだ7月だ。
なんというか、こんな肌寒い展開なのに、季節はそんなことも露知らず、私とどこかにいる頼を照らす。
なんで同じ太陽の下にいるのに、会えないんだろう。
実は、会えないかと思案したこともあった。
でも、私が居なくなったら西条さんと山岸さんに迷惑をかけることは確実だ。
そういう罪悪感を感じることは、私には出来そうに無い。
重い足を引きづりながら、なんとか孤児院に帰ってくる。
「おかえり!羽乃姉ちゃん!あのさ!」
ふと、玄関前で砂遊びをしていた健太という少年が私に声をかける。
「ただいま。どうしたん?」
「なんか、変なの来てる!」
「変なの?」
「新聞でも、水道でも、ジジイ達でもない!」
ジジイ、というのは孤児院を支援してくれている自治会のおじさん達の総称だ。
まぁ、そんなふうに呼んで許されるのは、健太くらいの小学生だけだが。
「だれ?」
「だから分かんねぇんだって!」
「ふーん、」
そんなことより、早く両手を塞いでいる袋を置きに行きたい。
ドアを開けて中に入る。
確かに、いつもは無い靴が一足置いてあった。
知ってるけど、知らない靴。
ふと、ある考えが浮かんだが、直ぐに否定する。
まぁ、この運動靴なら履いてる人は少なくないでしょ……
NIKEだし……
まぁ、たまたま被っただけだよ、ね?
いてもたってもいられなくなって、直ぐにキッチンにいる西条さんの所へ向かう。
「あら、おかえり!」
「たっ、ただいま!西条さん!あ、あの!」
「ふふ、」
私の焦り様を見て、西条さんは薄く微笑む。
これは、確信犯かもしれない。
「あの、今来てるお客さんって?」
「さぁ、誰だったかしら?」
「ねぇ!勿体ぶらずに教えてよ!」
「さぁ、確か……羽乃ちゃんの彼氏さんだったかしら?」
「っ!もしかして、」
「うん。多分、そのもしかしてだと思うわよ。」
私は駆け出す。
家の中はホコリがたつから、走るなと散々子供たちに注意しておいて私が走っている。
階段を一弾飛ばしで登る。
途中、同い年の男の子に話掛けられたが、断って山岸さんの部屋に向かう。
山岸さんの部屋の前に着くと、ドアを開けるのは違う気がして、ドアに耳を付ける。
中からは案の定、頼の声。
本当に来てくれたんだ……、
なんで?とか、どうやって?とか、はどうでも良いくらいに嬉しい。
中からの声に耳を傾ける。
「……愛しています。」
頼がそう言った。
それが今はとんでもなく嬉しい。
天にも昇る気分、というのはこんな感情な気がする。
でも、それじゃ今までと変わらない。
今までだって、愛してる、ってことは言ってきている。
家族として。
「それはーー」
「どういう意味か分かりません。」
やっぱり、なんて声が漏れた気がする。
頼は、私を妹として見ているから。
今までと変わらない、筈だった。
「でも、考えてみたら、この感情が妹に向ける感情では無いことは確かです。」
「っ!」
え?
え?
へ?
へへっ、
なんだ?この気持ち。
これが、本物の天にも昇る気分ってヤツか!
でも、これで終わりだと思ってた私に追い打ちをかけるように、頼は言う。
「だから……娘さんを僕にください!」
「ふぇ、」
変な声が出た。
顔が暑い。
気温のせいだと思いたいけど、ガンガンにクーラーの効いたここはそんな言い訳を通してくれない。
歯が震える。
カチカチと歯が鳴る。
いや、なんか傍から見たらヤバい奴だな。
でも、なんか私の今までが報われたことに対する嬉しさのせいで、羞恥心とか言うのは消え去ってしまった気がする。
私が、頼に貰われちゃう!?
お兄ちゃんに?
私が!?
あぁ、これが私の人生の最盛期ってヤツか。
このまま、人生転落へ……、
「ほら、居るんだろ?羽乃。入ってきなさい、」
山岸さんの声がした。
え、どうしよ。
心の準備が出来てないんだけど……、
頼の顔を直視できる自信が無い。
でも、そんなことどうでも良いくらいに、今は頼の顔を見たくて仕方無かった。
ドアを開く。
私は直ぐに、彼の胸に飛び込んだ。
私は、涙で酷い顔だったかもしれない。
でも、彼は私を強く抱きしめてくれた。
私も彼を強く抱きしめる。
このまま、一生離さないと誓いながら。
ねぇ、お義父さん?
見てるかな。
全部、上手くいったかな?
思い通りだったかな?
お義父さんの作った道を私と頼は、歩き始めたかな?
それとも、最初から歩いていたのかな?
私と頼を生んだ父親は、例え貴方でなくても、私たちの父親は、一人しかいないよ。
ありがとう。
お父さん。
物語は一段落。
二章で待ってますよ…
星をつけてくれると作者の細胞運動が活発化し、光合成が盛んになります。地球に優男




