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25話 お別れ


「久しぶり、羽乃。」


「うん。」


「悪かったな、頼君とあんな形でお別れになってしまって、」


「うん。」




お別れ、なんて言うが、そんな気は一切しないのが、お兄ちゃんを好きになった理由の一つでもある気がする。


それと、



「あのさ、山岸さんが、お義父さんと例の約束したのっていつの話?」


「藤崎との約束か?」


「うん。」


「それは、羽乃を預けた日だが?」




やっぱりか、


私でさえ、朧気にしか覚えてないような大事な約束を、あんな昔の約束を、お義父さんは覚えてる筈が無い。


そんなの覚えてるのは、生真面目で律儀なこの人だけだ。


だから、多分だけどこの話は、無くなる気がする。




「私はこれからどうするの?」


「そうだな、働ける場所を探すか、」


「私、まだ高校生だよ?」


「それなら、ウチで働けば良い。」


「えー、」


「子供の世話は得意だろ?」


「だって、西条さんいるじゃん、」





西条さんというのは、彼の孤児院で勤める孤児の母的存在だ。


あそこでは、山岸というこの男が父として、西条さんが母として、パパ・ママと呼ばれる。


私は小さくして、藤崎家に移り住んでしまったから父と母という感覚は無いが、




「アイツだって、もう歳だ。」


「まだ、元気でしょ?」


「まぁ、だが跡取りを考えておく必要はあるんだ。」


「ふーん、」




跡取りねぇ……、


そんなもの、求人でもすれば世話好きな人がいくらでも集まると思うけどね……、




「それか、藤崎の会社にお願いして、働かせてもらうか?高校生のうちはバイトとして。」


「前から思ってたんだけど、お義父さんの会社って何の会社なの?」




これは、昔からの疑問だ。


初めて山岸さんとお義父さんが会ったのは、孤児院の娘が、お義父さんの会社で働き始めたからだという。


孤児院を出て、働けるというのはどうなっているのだろう?


そういうのに、寛容なのか?

孤児院出なんて言ったら、普通の会社は表は普通に接するが、無意識的に面接などで落とすのが、暗黙の了解。


お義父さんの会社に受かったコだって、初めはどこの会社にも受からなかったと聞いた。




「YouTuberだ。」


「は?」


「正確には、確かVTuberと言ったかな?初め、あの会社はIT関係の会社だったが、VTuber企業に手を出してから、飛躍的に世界的企業になったんだ。」


「え、」




……は?

いや、VTuberってのは聞いたことはあるけども、

なにそれ?

お義父さんが、VTuber企業の社長?


え、それお兄ちゃんも知らないと思うよ?




「えっと、念の為聞くけど、孤児院出でそこに受かったコってのは……」


「VTuberになった。」


「えぇ、なにそれ……」


「今は、もう辞めたがな。あういうのは、声が命らしくてな、私にはよく分からないが、数年前に喉を壊して、辞めたんだ。それでも、一生暮らせる金は手に入ったらしくて、今は元気に東京で暮らしてるよ。」




なにそれ?


いや、衝撃すぎてお兄ちゃんとの悲しい別れの余韻も吹き飛んじゃったよ……、


色々、訳分からないんだけど?




「てか、そんなところでバイトって何するの?」


「ん、それはプログラミングとか、じゃないのか?」


「そんなの私出来ないよ?」


「む、そうなのか。」




そりゃ、そうだ。


今どきの人間が誰でもインターネット関係に強いと思ったら大間違いだ。




「ところで、忙しいんでしょ?コンビニなんて寄っていて良いの?」




ふと、乗っている車がコンビニの敷地に入るのを見る。


先程、お兄ちゃんに『私は忙しい』みたいなこと言っといて、随分余裕そうだ。




「ああ、忙しいというのは嘘だ。」


「え?」


「流石に、そうやって言わないと頼君は引かない気がしたからね。あの調子じゃ何度も羽乃の返却を求めてくる。」


「でも、口でコテンパンにしてたじゃん、」


「勢いで行かないと、このまま羽乃を連れてくる事は出来なかっただろうからな。」


「私を連れてこなくちゃいかなかったの?」


「ああ。それが、今回一番大切なことなんだ。」


「ん、どゆこと?」




その質問に答えずに、山岸さんは車を降りてしまう。



私はそのまま車で一人、思考を巡らせる。




私を連れてこなくちゃいけない理由があったのかな?


確かに、連れてきてるのは明らかに不自然だよね、

お兄ちゃんと一度、一緒に帰ってから、引取りに来るとかでも、良かったんだもん。


VTuberに衝撃を受けすぎていたが、確かに考えてみるとおかしい事が沢山ある。



一つ、あることを思いついて、直ぐに否定する。


いや、それだったら最初の発言は……、



山岸さんが車に戻ってくる。


手には、コーヒーと、




「なにそれ?」


「腹減っていないか?」


「いや、別に。」


「なにそれ?」


「おでんだ。美味しそうだったものでね、」




えー、こんな時期におでん売ってんの?


確かに見たことの無い、コンビニだとは思っていたけどぉ……。




「何か食べるか?」


「ん、何もいらない。」


「そうか、」




ふと、頬を何かが伝った。


バカみたいだ。

私のふとした会話のせいで、忘れていたものを起こしてしまった。


いや、忘れていたと言うよりは、忘れたと思い込んでいた事を。


なんでだろう。


こんなにも、一日一日を、彼に振り向いて貰える為に、頑張っていたのに……。


もしかしたら、このまま変わらないかもしれない。


このまま、お兄ちゃんとは会えないかもしれない。


そう思うと、思ってしまうと、決壊は崩れて目頭が熱くなる。




「……、羽乃。」


「な、何?」




山岸さんの呼び掛けに、必死に平静を取り繕って応える。


もしかしたら、声が上擦っていたかもしれない。




「頼君には、詳しい話は後でする、と言ったが、多分もう私から頼君に会いに行くことは無い。」


「え、」




それじゃあ、いよいよ。


私の生きる意味を零しそうになる。


テープで止めていた割れたグラスが、生きる意味を零しながら、割れていく。




「……だから、聞く。」


「な、なに?」


「お前は、藤崎羽乃は唐草頼のことが好きなんだな?」


「……うん、」


「どうなりたい?」




そんな質問卑怯だと思う。


そんなの私が答えて良い話じゃない。


でも、この人らしい質問だ。




「まだ、お兄ちゃんと、頼と、一緒にいたい!」


「……わかったよ。」




どういうことだろう?


これを私に言わせて、何のメリットがあるのだろうか?



「最初に言っただろ?頼君とはお別れだ、と。」


「うん。」


「あれは嘘だ。私から頼君に会うことは無い。だが、彼から私に会うことは出来る。」



訳が分からない。


だから、何?



「電話があったんだ。孤児院に留守電が入っていたと、西条からの連絡が。」


「電話?」



そういえば、電話が来たとか、なんとかで一回、私と頼を置き去りにした時が……。



「どうやら、昔の事を忘れていると思ったらしい。」


「え、それってどうゆう、」


「羽乃を引取りに来い、という内容の留守電が孤児院に君の父からあったんだ。」


「は、」



それは、お義父さんが頼と私を離れさようとしたってことかな?


だとしたら、なんで?


私と頼の仲をあんなにも応援してくれたのに……。



「それから、こう付け加えたらしい。頼が羽乃の元に来たなら、その時は返してやって欲しいと。」


「え、」


「ただし、条件があってね。」


「ん?」


「頼君が、羽乃の事を好きということが証明出来れば良いらしい。」


「へ、」




これは、困った。

パンナコッタ。


どうしよう。


頼は、私のことを恋愛対象として見ていない。


それこそ、私の過剰な愛を拒絶し続ける程に。



「頼君は、きっと来るんだろ?情報は何も伝えていないが、どうにかなるだろう。な?」



いや、同意を求められましても。


それには、大きな問題が。


……え、



「どうしよう、」






私の小さな独り言は、空に放たれすぐに消えた。


誰の、もはや彼女自身の耳にすら届かぬ程、小さな呟きで。



このまま、どうなるの!?と思っている方々、乞うご期待!

いくつか張っていた伏線の回収には気づけましたか?こんなの伏線なんて言わねぇよ、と思った貴方。申し訳ありまへん。善処します。善処しまくります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] その愛が過剰なものだと分かっていても、それでも素直に、積極的に、相手のことを考えて想いを伝えてくれるなら、誰だって戸惑いはすれど、嬉しいものだと思う。応えるかどうかは別として。そして、そん…
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