23話 どうせだから叶わせてやる、
「結婚するんだろ?」
「……は?」
放課後、僕は理事長に呼ばれた為、足早に理事長室に向かった。
そこまで良いとしよう。
いや、理事長室に着いて、礼儀正しくノックをしてから中に入ったところまでも問題無かった。
問題はここから。
自分が理事長室に入ったのを確認してから初老の男は開口一番そう言った。
意味の分からないことを聞いてきた。
「……結婚?」
「ん?違うのかい?」
「えっと、念の為聞きますけど、結婚というのは誰と?」
「そりゃ、羽乃ちゃんと。」
「そりゃ、デマ情報ですね。」
こりゃ、この学校はマズイですねぇ…。
理事長の情報リテラシーがなってないですねぇ…。
情報リテラシーの使い方合ってるかな?
いや、クリティカルシンキングか?
まぁ、いっか。
「死ぬ前に藤崎は言ってたぞ?」
「藤崎というのは?」
「君と羽乃ちゃんの育ての親だよ?」
マジか。
僕は必死に、外に出ようとするため息を堪える。
昔、義父さんの言っていた、理事長と友人説は本当だったのか……。
これで、今回僕を呼んだ理由は、十中八九羽乃の事だと分かる。
「そういえば、羽乃ちゃんは風邪なんだって?」
ん?
今、卿は何と仰いましたか?
「いやぁー、羽乃ちゃんとも話したかったんだけどねー。」
……待てよ。
なんだ、こやつまさか何も知らないのか?
ということは、羽乃が本当の父親に連れていかれたことを知らない!?
使えねぇじゃねぇか!
期待してたんだぞ!
何か突破口を提供してくれるんじゃないかって……。
「あ、あの、羽乃は風邪じゃないですよ?」
「ん?そうなのか、じゃあなんだい?あ、もしかして藤崎が死んでしまったことに凹んでいるのかい?それなら少し心配だねぇ、まあ親が死んだら子供は立ち直るのに時間が掛かるとよく言うからね。実際、頼くんもーーー」
そう言って、僕に聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソボソ独り言を呟き始める。
もう、この人に頼るのはダメな気がしてきた。
「いや、実は羽乃の本当の父親が引取りに来て……、」
「ほんとうのちちおや?」
「あ、はい。」
「あーーー、ちょっと待てよ。本当の父親かぁ……ん?」
そう言って、理事長は黙る。
何かを考えているようだ。
義父さんとの会話でも思い出しているのだろうか?
理事長と義父さんの会話の中で羽乃の父親について触れていたかを確かめているのだろう。
「本当の父親ってのは……山岸のことか?」
山岸さん?
どちらさんでしょうか?
いや、待て。
僕は羽乃を連れていった人の名前を知らない。
もしかしたら、
「えっと、実は名前を知らなくて…会ったことあるので特徴を言ってくれれば…、」
「特徴ねぇ……簡単に言うなら、表情筋とその周辺の細胞が仕事してない感じの男だな!」
「その人です。」
まぁ、これだけ一致してれば間違いないだろう。
ん?1つしか特徴を提示されてないのに、決めるつけるの尚早だって?
いやぁ、でもねぇ、あんなに顔の表情が変わらない人は見たことないというか……。
でも、これでどうにかできるかもしれない!
「あ、あの!その人に会えないでしょうか!」
「んーと、会えると思うよ。」
「どうすれば?」
「ちょっと待ってね、」
そう言って理事長は、パソコンをいじり始める。
少し経つと、今度はメモ帳らしきものにペンを走らせる。
「よし、ここに行きな!」
そう言って、ちぎったメモ帳を1枚渡してきた。
そこには、なんとも言えない微妙な簡略化された地図のような物が描かれていた。
「えっと、ここは?」
「会いたいんだろ?」
「あ、はい。」
「好きなんだろ?」
「……はい。」
そうだ。
僕は羽乃の事が好きだ。
それは、家族としてか、家族以外としてか、というのはまだ分からない。
でも、僕はまだ羽乃と牛すじを食べに行ってない。
学校帰りに部活がないからと言って、イチャイチャしてない。
深く関わるようになってから、数ヶ月しか経ってない!
あぁ、真ん中のはふざけて言ったが、これは羽乃が願ったことだ。
どうせだから、叶わせてやる。
さぁ、始めるか。
今度は主人公なんかじゃなくていい。
モブでも、構わない。
そんな役柄に囚われてなんかやるものか。
主人公を気取って“俺”なんてもう言わない。
「なら、ここに向かえ。終わりたくないだろ?」
「ありがとうございます!僕はこれで!」
「ん、あ、ああ。もっと話したかったが、羽乃ちゃんを連れて帰ってからで良いか、行ってらっしゃい。」
「失礼します、」
なんでだろう、と考えていた。
羽乃がいなくなってから、日常に戻った。
羽乃が傍にいる、という非日常が戻ったのだ。
なのに、どうしてこんなにも日常に戻った筈であるのに、心の中に穴が空くのだろうか?
こんなにも日常をつまらないと、物足りないと感じたことは無かったのに。
なんでだろう?
考えても分からなかったが、今なら分かった気がする。
いや、完全に理解した。
羽乃が傍に居るという非日常が、日常に成り代わっていたのだと。
今なら分かる、もはや羽乃が傍に居ることが日常になっていたのだと。
さぁ、僕の、羽乃の、日常を取り戻しに行こう。
羽乃がいない非日常をぶち壊そう。
僕は学校を出て、駆け出した。
アスファルトから昇る陽炎と、天土を照らす太陽は、彼を応援するかの如く、熱気を孕んで彼を貫く。
迫る結末と、彼の将来を知る者は、まだ居ない。
でも、結末も将来も決まっていることなんて無い。
全てをも変えて、決めるのは彼自身だ。
終わりが近い、かもしれない!!




