22話 飛行機雲は幸運を呼ぶ。
あの日、帰路に着いてからの記憶がほぼ無い。
本来の青春ラブコメだったら、ここでもう1人のヒロインが僕を支えてくれる展開だと思うのだが、羽乃のせいで僕にそんな女友達は皆無。
まぁ、そんな事を考えられるだけ、マシになったのだと思う。
本当に、あの日から数日は、ぽっかり穴が空いたかのように記憶が消えている。
慣れた、と言うのは少し違うが、僕の人生に羽乃の居ない生活が染み付きそうにあった。
もういっその事、忘れてしまおうか、なんて思ったりもした。
でもそれじゃ、昔の自分と変わらない。
一緒に暮らせないかと思案した。
どう考えても、家族でない同い年の少女と暮らす術など思いつかない。
どうしたら僕の心は、その虚無感を享受することが出来るのだろうか、
まぁ、考えても結論が出ないのなら、考えても無駄なのは理解してる。
羽乃の居ない、朝も、通学路も、教室も、家も、人生もそのうち何も感じずに生きていけるようになるのだろうか。
高校に入ってから、たったの3ヶ月くらいの筈なのに、どうしてこんなに羽乃の居ない生活が信じられないのだろうか、
中学までは、羽乃と会話もしなかったのに……。
まだ、7月だ。
こんなシリアスな展開、物語だとしたら冬にやってくるもんじゃないだろうか、
なんで、こんな暑くなってくる季節に、こんなに肌寒い展開を迎えなくちゃならないんだよ……。
朝なのに太陽は、その役目を全うする。
照りつける太陽を少し睨んでから学校の敷地に入る。
下駄箱に着くと、数人の同じクラスの陽キャ男子が絡んできた。
その誰もが女子を侍らせている。
いや、羨ましいとかじゃないよ?
……おっと、1人で否定していた。
こんなことを思っていると、必ず隣の少女は深い微笑みを僕に向けてきたからな……、
その羽乃さんも今は居ない。
どんなことを思おうが、自分の勝手だ。
まぁ、羨ましいとか思っていないのは事実なのだが。
情景反射で考えただけだ。
「おっはー、唐草っち!」
「おはよう。」
「あれ?今日も嫁さん居ないの?」
「……あ、風邪が長引いちゃってるっぽいんだよね、」
今更、羽乃のことを嫁と呼ばれることを否定する気にはならない。
というか、羽乃が休み始めてから1週間ぐらい経とうとしているから、流石に、誤魔化すのにも限界が来ている気がする。
「はぁー、そりゃ大変だねぇ?寂しいねぇ?」
「ああ、」
ふと、同意してしまったことに焦ったが、陽キャ達は特に気にする様子も無く去っていった。
何故か脳裏にドヤ顔で微笑む羽乃の顔が浮かんだのは、気のせいだと思う。
多分、こうやって慣れていくのだと思う。
変な話だと思うが、時々思い出して、それが当たり前になって生活の一部になる。
そうやって、僕は今後生きていく気がする。
『後日詳しい事は話す、』なんて言った、羽乃の父親は、あれ以来一切連絡を寄越さない。
僕はあちらの電話番号なんかも知らないし、羽乃に電話を掛けても繋がらない。
家にある羽乃の家具とかどうすんのよ?
あんまり、置きっぱにしとくと僕が捨てちゃうけど?
燃やすよ?
羽乃を、思い出すから。
良い匂いするから。
いや、忘れたいわけじゃないんよ?
でも、極力気にしないで生きていきたいやん?
……はぁ、僕は誰に同意を求めてるんだ、
教室に入る。
7月にもなれば友人コミュニティは、完全に形成されており、今までというもの羽乃としか、いなかった僕の入る隙など1ミリも無い。
だから、無事にぼっちはいすくーるらいふ。
隣の美少女も一人で本を読んでいるが、今更話しかける気にもならない。
なんか、話しかけたら、「なんですか?妻のいない所で浮気ですか?」とか言われそうだしね……。
それ以前に、今になって彼女が欲しいとかは思わない。
なんでだろう。
分からないな、
「おーい、唐草ー!」
ふと、いつもより早く教室に来ていた担任が、席に着いた僕を呼ぶ。
「どうしました?」
「放課後、理事長室に行くようにな、」
「は?」
「いや、先生が『は?』なんだが?何かしたのか?それとも……いや、なんでもない。まぁ、とにかく放課後忘れるなよ!」
「あ、はい。」
そういえば、いつだったか義父さんと理事長は知り合いだとか、友人だとか。
嫌な予感がしながらも、何か変わるのではないかと期待する僕がいる。
ふと、窓の外を見ると飛行機雲が見えていた。
「飛行機雲は幸運を呼ぶ」←五等分の花嫁で言ってた




