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21話 主人公のような気分だ、

「ーー羽乃の父親さ、」


男は言った。


強く吹き付ける風に眉ひとつ動かさずに、男は続ける。




「藤崎が死んだと聞いて、羽乃を引取りに来たんだ。」




“藤崎”と言うのは、僕と羽乃の義父のことだろう。


そもそも、義父さんが死んだとこで僕と羽乃が家族で無くなる必要なんて無い。


だから、羽乃の父親が今更出てきたところで、経緯はどうであれ羽乃と僕は家族であることには変わり無い。




「羽乃は、僕の家族だ」


「そうか、どういう意味で?」




は?


どうもこうも無いだろ……。


何を考えてるんだ、この男は。


そもそも、さっきから思ってたんだが、なんでそんな表情変えないんだよ、表情筋死んでんのか?


……おっと、少し落ち着こう。


彼の質問は、どういう意味での家族か、ということだった。


とにかく羽乃を取り返さないといけないので、ふざける場面ではない。


先程の質問に心から返す。




「兄妹だ。」



「そうか、残念だが君と羽乃の生活はもう終わりだ。」



「……何言ってんだよ?」




なんだよ、その僕の答えを聞いてから決めたような口振りは……。



というか、そもそも僕は現状を全くと言っていいほど理解してない。


本当に目の前のコイツが羽乃の父親なのか?


そもそも、羽乃に父親がいるのなら今まで義父さんと暮らしていたのは何故だ?


羽乃は、目の前の男を知っているようだったし、父親を自称する男を否定しなかった。


そこから考えるに、この男は本当に羽乃の父親ということで間違いないのだと思う。




「……なんでだよ、」


「悪いがそういう話なんだ。」


「話って……、」


「アイツが言ったんだ、自分が死んだら羽乃は引き取ってくれってな。」



おそらく、話の流れ的にアイツとは、義父さんのことだろう。


なんだよ、それ……、


そもそも、義父さんは僕と羽乃をくっつけたかったんじゃないのか?


なにもかも矛盾してんじゃねぇかよ……。


本当に何も理解出来ない。


羽乃の行動原理より理解不能だ。




「ん、すまない電話だ。」




そう言って、男は僕と羽乃から少し離れた所に行き、電話を始める。




「なぁ、どうなってんだよ?」


「……」


「なんか言えよ、」


「……ごめん。」



いや、いきなり謝られても……。


でも、一つハッキリしたのは、謝るということはあの男に着いていく事を決めたということだ。


いわば、藤崎家から離れるということ。


僕と寝食を共にするということは今後無いということだ。




「本当に、出てくのか?」


「……うん、……だって言ってたじゃん、お義父さんと約束してたって。」


「義父さんが死んだら、本当の家に帰るってことか?」


「そう。私もその話聞いた事ある気がするから、」




なるほど、その話があったから羽乃は義父さんが死んだことを聞いてからずっと、何かに怯えたようにしていたのか。


タクシーに乗っていた時に言おうとしていたのも、この事だったのだろう。




「なぁ、お前はどうしたいんだ?」


「……お兄ちゃんと一緒に住んでたい、」


「そうか、」




そうか。


それが聞ければ良いだろう、


覚悟は出来た。




電話を終えて、羽乃の父が戻ってくる。


僕は羽乃の前に出る。



なんだか、主人公のような気分だ。




「なぁ、オッサンよぉ、」


「は?私がオッサン?」




うお、怖ぇ、


なにその眼光……


眉ひとつ動かさない表情筋は、生きていたのか!


でも、こんなところで怯むか、




「羽乃は、俺の家族だ」


「……つまり?」


「羽乃は渡さん!」




ふふふ、言ってやった。


言ってやりましたよ!




「何を言ってるんだ?馬鹿かね君は……、あの天才の子供にしては低脳のようだ。これは、大人が決めたことなんだ。」


「はい。ごめんなさい、」




え、怖すぎ、


思わず謝っちゃったじゃん、




「そもそも君と羽乃が一緒に暮らしたところで、生活費はどうするんだい?今までは君の親に当たる藤崎が二人分の生活費を払っていたが、彼は死んでしまったんだ、君は彼の親戚だから他の親戚がどうにかしてくれるだろうが、羽乃は君の親戚からしたら赤の他人なんだよ、分かるかい?」


「ええ、仰るとおりです。」


「仮に君の親戚が、羽乃を引き取るのを拒んだら、どうするんだい?」


「……返す言葉もございません、」


「だから、私が羽乃を引き取る。分かったかい?」


「はい。」




ダメだ。


最も過ぎて何も言い返せない。




「では、私はこの後予定があるので、羽乃も連れていくが君は一人で帰れるかね?」


「ええ、」


「詳しい話や、家にある荷物の移動などは後日にさせてもらうよ、」


「分かりました。」



「行くぞ、羽乃。」




そう言って、男は車に乗り込む。




「ごめん、羽乃。」


「ううん、ありがと。お兄ちゃんがコテンパンに言い負かされてるの見てなんか、元気出た!だから、心配しないで!」


「あ、ああ」




心做しか、羽乃の背中はいつもより寂しそうに見えた。


もしかしたら、今の元気は取り繕っただけなのかもしれない。


せめて、最後は笑っていようと。




車はエンジンをかけて去っていく。



改めて、実感する。


子供であるが故に抱える問題と、主人公を気取ってしか楯突く事の出来ない無力さを。




なんで、こうやって上手くいかないのだろうか。


最初からそうだ。


僕の人生、最初から何も上手くいかない。


愛した母が死んで、満足のいく高校生活も送れず、育ててくれた父も死んだ。


そして、最後の家族さえも失った。



まぁ、高校生活に関しちゃ羽乃のせいだが……。



ため息が漏れる。


羽乃といた時とは違う意味の疲労。



羽乃の父親は詳しい話をするために、もう一度会えることを言っていた。


その時に何かしなくちゃ変わらない。


このまま羽乃との縁は切れてしまう。



良かったじゃないか、これで煩く付き纏われることも無くなったんだ。


そうだ。


これで、彼女も出来るかもしれない。


妹結婚ルートとかいう人生の道も塞がったんだ。


あぁ、良かったさ。


……良かったんだ、




いつの間にか風は止んでいた。


太陽が出ている訳でもなく、厚い雲に覆われている訳でもない。


どこか形容しがたい天気の下、僕は重い足を引き摺り独り、家に帰る。


主人公の一人称って『俺』が多いですよね。

あれ、そんなことないか……

(2023,7月10日、加筆修正済)

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