19話 奇跡。
ずっと、昔の話だ。
いまから、10数年前。
私は、病気になった。
手術の成功率は僅か2、3%。
運命を呪った。
まだ、起業してから波に乗り始めたばっかりの会社を捨てることを恐怖した。
でも、少しだけ神は微笑んだ。
私が生きることを許してくれた。
いつ、再発してもおかしくない。
医者は言った、恐らく次は無いと。
だから、生きてる間に何かをしなくちゃダメだと思った。
人の命の儚さを知った。
数年後には私の会社は、国内でも屈指の大企業に成長した。
与えられた命だと噛み締めながら手を出した一大プロジェクトが芽を見せた。
IT系列の物で、その存在を知った時に直ぐに手を出した。
最初は小規模だった会社も、2年経った頃には全国規模の認知を得た。
そして、残された命で出来ることを考えた。
そこで私は跡取りの必要性を感じた。
今思うと馬鹿馬鹿しい話だが、その頃は社員を信じていなかったため、跡取りを考え始めたのだ。
そんな時に、親戚、正確には弟の妻の姉が死んだ。
そこには、父も母も居ない、一人の男の子が残されたという。
好機だと思った。
これも、神が与えた産物なのだと。
でも、そんな簡単な話では無かった。
男の子はすっかり憔悴しきってた。
母の死に、小さくして直面した少年は、塞ぎ込んで涙を流していた。
初めて会ったのは、少年の祖父母の家。
その時も目を赤くして泣いていた。
だから、言った。
「今日から私が君の父親だ。」
少年は何事にも頷いた。
私が父親になることに一切の関心を持たなかった。
されるがままに、私を父として認めた。
いや、認めていないと思うが、表面では一切反論しなかった。
少し会社の業務を教えてあげようと考えた事もあったが、少年の顔を見る度にそんな気は失せてしまった。
生きる意味を見失ったような、瞳。
だから、言ってしまった。
「なぁ、頼。お母さんの事は忘れな、」
少年は、それにも黙って頷いた。
それと同時に、彼に必要なものを探した。
小さいからゲームにハマるのは良くないのかもしれない、一緒に遊べる友達でも居れば、なんて常に考えるようになった。
そんな時に、ある伝手で、友人の管理する孤児院を知った。
孤児というのは正式な手続きを踏めば、子供にできるのだと知った。
私は、それを利用した。
頼と同い年の少女を引き受けた。
「今日から私が君の父親だ。」
「そして、彼が君の兄さ。」
羽乃と頼は、共に過ごしていくうちに打ち解けて言って、仲の良い兄妹になった。
少し面倒臭かったというのもあった為、羽乃の誕生日は頼と同じにした。
まぁ、どうせ同い年なら双子の方が怪しまれないだろうと思って。
その頃からかもしれない。
違和感を感じたのは、ただ単に私が気付いていなかったからかもしれないが、頼は完全に自身の母について忘れてしまったようだった。
数年がたった。
二人は中学生になったと言う。
いつものように二人で行動していた筈の羽乃と頼は、いつも一人で居ることが多くなった。
そんなある日、気になって聞いた。
「頼、羽乃とは上手くやってるか?」
「最近は話もしないよ、」
マズいと思った。
頼は、忘れている。
それは、羽乃がいるからだと思った。
だから、二人が離れることを私は恐れた。
だか、それも杞憂だった。
杞憂というのは変な話だが、中学校三年間で頼が過去のことを思い出している様子は無かった。
それでも、頼が思い出してしまうのを恐れていた私は考えた。
二人を常に一緒にしておくことは出来ないのかと。
そんなある日。
高校入学を残り一月程に構えた日。
羽乃が私に言った。
「私と、お兄ちゃんってさ、兄妹じゃないじゃん?」
「あ、ああ」
まぁ、羽乃は覚えてるようだ。
それもそうか、
「でもさ、お兄ちゃんは兄妹だと思ってるのよ、」
「本当か?」
「うん。」
そうか、
少しホッとしたのを今でも覚えている。
そして、羽乃は言った。
一気に吐き出すように。
「あのさっ!私とお兄ちゃんって、結婚できるの?」
「は?おぉ、」
最初こそ、困惑したものの考えると良い案だと思った。
これは、また二人を共にいさせるための良い解決策だと確信した。
「お義父さんに考えがある。」
少し羽乃は、震えていた。
もしかしたら、頼を思う気持ちを咎めて貰おうと思っていたのかもしれない。
だから、私は言った。
「二人を結婚させてやる。」
「……え、本当!?」
「ああ、お父さんに任せとけ。」
恥ずかしいことに私は初めて、父親として頼られた気がした。
そこから、色々なことに手回しした。
知り合いだった高校の理事長と話をつけ、わざわざ頼の苗字を旧姓に直したりした。
二人の距離は高校入学を機に近くなった。
私としては、これで良いのか、と思うと所も多々あったが、頼も中学の時より楽しそうにしているのを見て、そのうち何も感じなくなった。
いつだったか、仕事中に倒れた。
ああ、1ヶ月くらい前の話だったな、
若い頃の病気が再発した。
いくら医療が進歩していても、死が近いことは、過去に医者も言った通り、明確だった。
医者は10数年も再発しなかったことを、奇跡だと言った。
あぁ、そうなのかもしれない。
奇跡だ。
何もかも全て。
私が生きていたことも、頼と羽乃が僕の元に来たことも、全て奇跡でこの星は回っている。
「私が死んだことは、二人には私が死んでから伝えてくれ。合わせる顔が無いものでね…」
部下と医師に言った。
途切れ途切れに電子音が病室に響いて鳴る。
まるで、鼓動を示すかのように。
やがて、止まる。
「はぁ、最期の最期まで私は……嫌な嫌な父親だ。」
倒れてから、私は1度しか家に帰らなかった。
二人が付き合っているかもしれないという思いも、自分ではなく人を使って調べた。
結局、分からなかった話なのだが。
まぁ、そんな父親だから。
私は、最期までそれを演じる。
最期の力で、ある人に電話する。
私が残す、最期の試練。
嫌な父親の嫌な試練だ。
「もしもし、久しぶり。少しお願いがあるんだ……。」
これで、私の思うように行くならば。
それこそ、本当の奇跡だな。
思うようにいかなかったら、それはそれで良いケジメになる。
電話を終えて、眠りにつく。
深い深い眠りに。
電子音が、長く響いた。
ーーーーーーーーーーーーー
いつか、人は死ぬ。
分かりきったことだ。
でも、人が死ぬのも誰もが悲しむ。
なんで、分かりきったことを悲しむのだろうか。
なぜ、決められた運命に、逆らおうとするのだろうか?
果たして、決められた運命に、二人は逆らえるのだろうか。
そして、逆らえたとしたら。
それは、本当に奇跡なのだろうか?
いいや、奇跡なんてものじゃないな…それはきっとーーー
最期の最後にそんな事が脳裏をよぎった。
作中で意味の分からないことがあったら、感想とかで聞いてね!
出来る限り答えるよ!ネタバレにならなければ!!




