13話 溜め息しか出ない一日だ。
「これ似合う?」
「ああ、似合う。」
僕は羽乃と共にショッピングモールを散策していた。
まあ、僕が羽乃の買い物に付き添っているような状況と言った方が正しい気がするのだが。
「何その、投げやりな言い方…」
僕の大して感情の籠もってない同意に、羽乃は不満そうに呟く。
いや、そうは言ってもね…
羽乃のファッションセンスに口を出す気は無いし、本当に似合ってるのは事実だし、実際興味ないのも事実だ。
投げやりになるのも無理は無いと思う。
それと、羽乃はどんな服を着ても普通に似合うと思う。
チマチョゴリとかポンチョとかを着ても可愛いと思う。
「いや、実際似合ってるし…」
「ホント!?」
「あ、ああ」
僕に似合ってると言われたのが、余程嬉しかったのか、羽乃は直ぐに機嫌を直す。
えー、チョロ…。
チョロQやん…。
ん?チョロQって玩具か…。
自分でも、よく意味のわからない事を考えながら、前を足早に歩く羽乃についていく。
すると、羽乃が、あるマネキンの前で立ち止まった。
「ん!この服、お兄ちゃんに合うんじゃない?」
そう言って、一枚のコートを指差す。
いや、確かに形は良いけどさ…。
「それ、レディースじゃないんか?」
「ん?今なんて?」
僕は羽乃が放った謎のオーラに気付かずに、もう一度言う。
恐らく、時代遅れな言葉を。
「いや、だからその服ってレディースじゃない?」
「はぁ〜、お兄ちゃんさ〜…」
え?
なんか、ため息吐かれたんですけど……。
いや、マネキンは女性を象ってるから…そう思っただけで、
本当はメンズなの?
「あのねぇ、」
「お、おう」
「今はね、女性でもメンズを着るし、男性でもレディースを着るんだよ?」
「ほ、ほう…」
確かにそうか、一概に男性はメンズ、女性はレディースと決めつけるというのは良くないのか…。
何と言っても、ジェンダーなんとかの時代だ。
彼女が出来たら活用しよう…、
……彼女が出来たら、ね。
なんか、悲しくなってきた。
「だめだよ、固定概念に捕らわれてちゃ、」
「す、すまん」
「まあ、今後気をつけな!」
「お、おう」
なんというか、僕より子供だと思っていた少女に咎められた。
でも、何故か悔しさと言うよりは誇らしさが上に来た。
しかし、流石だな羽乃は…。
博識というか、常識に疎くないというか。
いや、常識なのか?
普段、服を自分で買わない僕には到底分かりそうに無い話だった。
「ん!これ可愛い!」
そう言って、羽乃は他の店の服に駆け寄っていく。
なんというか、無邪気なんだか、しっかり者なんだか…。
どちらかハッキリしてくれた方が可愛げがあるってものなんだけど……。
まぁ、どっちでも可愛いけど。
「ん、そうだ羽乃。」
「何?」
「お腹空かないか?」
「ほほう、気が利きますね兄上。」
「ふふふ、時計を見たら11時半だったものでね……」
よく分からないテンションになった僕と羽乃は、そのまま、今度は昼食を探しに出る。
そろそろ飲食店も、混み始めてしまう。
「何食べる?」
「フードコート行くか?」
「名案!流石、兄上!」
「ふふふ、案内板があったものでね……」
ノリだけは良い僕達は、フードコートへ向かう。
すると、
「ん!羽乃ちゃんじゃぁん!」
誰かが羽乃に話しかけた。
男だ。DQNだ。
チャラそうな外見に、上級生に見える背丈。
センター分けの子分みたいな人を連れて、僕と羽乃の傍に来た。
「こんなところで会えるなんて!いやぁー偶然だねぇ!」
「……えっと、」
「ところで羽乃ちゃんは、買い物?」
「え、はい…」
「ふーん、」
チャラ男が、僕の方を向いた。
鋭い眼光が僕を貫く。
いや、なに?
てか、だれ?
羽乃に男の知り合いなんているのか……。
僕には女の知り合いがいないのに……。
「こちらは、お兄さん?」
すると、羽乃にチャラ男は僕を指を指して聞く。
な!?やるな!
僕を羽乃の兄だと一発で見抜きやがった。
僕を兄だと思っている辺り、コヤツ才能があるぞ!?
てか、話変わるが人を指で指すなや。
目ん玉刺すぞ、
嘘です。
こんなチャラ男と戦う勇気はありません。
「えっと……」
その質問に羽乃はたじろく。
何だか、いつもの羽乃と様子が違う。
歯切れが悪い。
てか、羽乃は、僕についてお兄さんか聞かれたら何て答えるんだ?
彼氏です、って答えるのか?
「え?もし、良かったらさ!お兄さんには、待っててもらってさ!二人で遊ばない?」
チャラ男は、羽乃に言った。
話の進みが速いな、
リニアモーターカー並だ……。
てか、二人で遊ぼうって……僕は良いとしても、君の後ろのセンター分けはどうすんだよ……。
僕がセンター分けと二人でお茶でもするのか?
嫌だね。
チャラ男達とは、極力関わりたくないんだ。
特にセンター分けほどキモ……おっと、ここまでにしておこう。
そんなことを考えていると、チャラ男が羽乃と遊ぶ路線の話を始める。
気が早すぎだろ……。
それに対して、羽乃はたじろぐように苦笑いを浮かべて小さく首肯を繰り返す。
助けないとかなぁ、
はぁ、なんというか溜め息しか出ない一日だ。
やるしか無いか、センター分けと二人は、ヤダしな……。
僕はチャラ男と羽乃の間に入る。
そして、口を開く。
何ともベタな展開だと思うが、まぁ最善はコレだろう。
「僕は羽乃の彼氏です。貴方は、誰ですか?」
後ろで羽乃が、驚く気配を感じる。
はぁ、やっちまったよ。
これで、シスコン兄貴確定だ。
「え?あ、彼氏さん……。あ、いやいや、デート邪魔してすんません!いやぁ、カッコイイから兄弟かと……あはは、」
そう言って、チャラ男はセンター分けを連れて早足に去っていった。
何なんだ……アイツらは……?
……いや、待てよ。
いつも元気な羽乃が、こんなに人に対して萎縮することなんてあるのか?
考えてみろ、あんなに人に対して返答しない羽乃を今まで見たことがあっただろうか?
……まさか、策士羽乃は健在!?
全て作戦の内……?
恐る恐る後ろを見る。
羽乃は、笑いを堪えるように肩を震わせていた。
やられた。
そうだ、最初から羽乃が追い払わない訳が無いんだ……。
くそ、こんなことだったら……。
大きく溜め息を吐く。
やっぱりだ。
やっぱり、今日は溜め息しか出ない。
「笑うなよ、彼氏って言ったのは言葉の綾で……」
「ふふふ、」
羽乃は、笑いで目に溜まった涙を手で拭き取り、言った。
「助けてくれてありがとう!お兄ちゃん!」
まぁ、この笑顔が見れたから良いか、なんて思ってしまった僕はいよいよ羽乃の手中の中なのかもしれない。
ドキュンッ!!!(心臓がロンギヌスの槍に穿たれる音)
(2023,7月9日、加筆修正済)




