12話 缶ビール箱5箱
「これじゃ、カップルみたいじゃないか?」
歩いていると、羽乃がいきなり手を繋いできた。
しかも、指の隙間に指を入れるとかいう、なんか卑猥な繋ぎ方。
通称、恋人繋ぎ。俗称、卑猥繋ぎ。
これを、兄妹でするのはどうかと思うが……。
「ん?何おかしなこと言ってんの?私たち将来を約束した仲じゃん!」
なにを言ってるんだ、コイツは。
「僕は、羽乃と将来を約束した覚えは無いがな、」
そんなことを言ったら、羽乃がいきなり立ち止まった。
そして、驚きの声を出す。
「え!?」
その過剰な反応に、背中を冷や汗が垂れる。
え?
え、約束なんかしてないよね?
なんで、固まってんの?
なんで、驚いてるの?
沈黙が辛いんですけど?
えっと、羽乃さーん?
約束なんて何もしてないですよー?
「え、なんもしてないよ僕…」
してない、してない。
ほんとに!
僕の知らないところで婚約届けが予約されてるとか、無いよね!?
え、怖いよ、義父さんと羽乃ならやりかねない……。
「私たち誓いのキスをしたじゃん、」
「……。」
すぐに思い立った。
あー…
いや、確かにキスされたよ?
でも、僕からは一切しようとしてないし……てか、キスされたのも頬だし。
誓いというよりは、親が子供にするような感じに近いものだと思っていたんだが……。
てか、それを本気で誓いのキスだと思ってるなら羽乃君さー、君ちょっとマズイよ?
なんていうか、社会に出て厳しいんじゃない??わらわら、
「ふふ、嘘だよ。何も約束なんかしてないよ。ところで、頬にキスしたくらいで顔真っ赤にして部屋出てった人はどこかなー?」
「う、……」
やめてくれ、あの時はいきなりキスされたからビビって部屋を出てしまっただけだ。
さっき、親が子にするキス、なんて言ったが、照れてるなんて思われたらブーメランすぎる。
それと言っておくが、決して照れたりなんかしていない!
おい、そんな勝ち誇ったような顔で僕を上目遣いで覗くな!
ドヤ顔も可愛いのは、何かムカつくな…。
もう、話を変えよう。
「……ところで、何頼まれたんだっけ?」
「えっと、」
僕らは、今、義父さんに頼まれて近くのショッピングモールに来ていた。
地元のショッピングモールではあるのだが、普段は映画を見るくらいしか、利用しないので少し新鮮だ。
いざ、入ってみると広いもので、他のショッピングモールよりは狭い気もするが、生活品を揃えるには十分な気がする。
「あれ、何買うんだっけ?」
羽乃が、首を傾げた。
「そこの、メモ帳に書いてある筈だよ?」
「いや、それが……」
メモ帳に書いてある買ってくる物を見て絶句した。
「缶ビール箱を5箱……って、」
なにを考えてるんだ?
あの父親は……。
僕らは未成年だぞ?
「ちょっと、電話するね?」
「ああ、」
「ん、充電ないかも…」
「じゃあ、僕が電話するよ。」
義父さんに電話する為に僕は、近くのベンチに座る。
僕の後をひょこひょこ羽乃が着いてくる。
電話をかけて数コールすると音声が流れた。
《ただいま、取り込み中です。録音音声に切り替えます。》
「録音音声?」
すると、直ぐに義父さんの声がする。
《えっと、羽乃かな?頼かな?分からないけど、どちらかの携帯から電話があったら、この録音が流れると思うんだよね?》
どうやら、本当に録音らしい。
《いやー、俺も2人が出ていってから気付いたんだけど、ビールは子供は買えないんだったな、》
嘘つけ、どうせ何か裏があるんだろ。
《だからさ!メモ帳に2万円挟んであるからさ、遊んできなよ!》
は?
2万円?大金過ぎないか?
おいおい、裏どうこうより一人一万の事実に驚きだよ。
てか、父上は何の仕事をしてらっしゃるんだ?
まあ、定期的にお小遣いを貰っているというわけでもないし、このぐらいの額を渡すのは抵抗がないのかもしれない。
《ほら、鍵閉めちゃったから俺が帰るまで家の中入れないしさ!》
やってるな、確信犯だ。
意図して僕と羽乃を2人にしているぞ…。
てか、僕と羽乃が結婚することを義父さんは、将来的に見据えてるようだが。
何のメリットがあるんだ?
なんだ、羽乃を預けるのに僕だと安心だと思ってるか?
いや、羽乃は可愛いから、しっかり選べば、良い男が見つかると思うがな……。
《じゃあ、帰りは5時くらいかな?楽しんできてね!》
「はぁ、」
何か嫌になってスマホを電源ごと落とす。
「どうだった?」
「ちょっと、メモ帳見せてくれるか?」
「ん?良いけど?」
マジだ。
ほんとに2万円入ってやがる。
「で?どうだったの?」
自分の口から説明するのは、何か嫌だったので、意味も無く電源ごと消したスマホの電源を付け直す。
「ほれ、この留守電聞きな。」
「ん?…うん、」
ダメだ。
ため息しか出ない。
留守電を聴き終わったのだろう。
羽乃がいきなり立ち上がる。
なんか、ホクホクした顔なんですけど…。
「ほら!何してんの!早く回るよ!」
「はぁ、」
溜息ごと全て吹き飛んでくれれば苦労なんてしないのに……なんて思いながら羽乃に手を引かれベンチを後にする。
背後で二人の影が交差した。
次回はドキドキウィンドゥショッピングです!
乞うご期待!
(2023,7月9日加筆修正済)




