1話 「私、お兄ちゃんと結婚する!」「は?」
「君たちは本当の兄妹ではないんだ、」
父さん…いや、義父さんは言った。
僕と妹の血が繋がってない事を重々しく言い放った。
確かに、双子というのに顔が似ても似つかないことには違和感を持っていたし、妹には父の面影がある気がするが僕には父の面影の欠片も無い。
決定的なのは小さい頃の二人の写真が無いことか、母が小さい頃に死んでしまったという、恐らく建前の話。
今、考えてみると小さい頃の二人揃った写真を見たことが無いし、生前の母の顔も見たことない。
では、なぜ、義父さんは今になって伝えたのだろうか。
高校生になったタイミングで、良い節目だと思ったのだろうか。
それにしても唐突すぎる。
本心を言ってしまうと、墓まで持って行って欲しかった。
まぁ、別に妹の羽乃との関係が変わるとは思っていないので、大して気にしてはいないのだが。
しかし、どうも落ち着かないのだ。
なんでだろう。
こんなに、厄介に感じるのは。
何か嫌な予感がする。
最近、というか中学生になってからというもの部活や勉強で羽乃とは、ほぼ関わりの無かったと言っても過言では無い。
これから、どうやって接すれば良いんだ?
いや、そんなこと考えても仕方ないな、
このまま特に今まで通り、関わること無く、平穏に過ごしていこう。
今更だが、同じ高校になってしまったことを少し鬱陶しい事に思ってしまう。
「まぁ、今まで通り関わるから気にしないでいいよ、父さん。」
「あ、ああ。そうか……」
なんとも歯切れの悪い義父さんと、無言の羽乃を残して居間を出る。
こういう空気は嫌いだ。
息を吸うのさえ辛い。
いいさ、今までだって特に関わりは無かったんだ。
いつも通りに生活すれば良い。
春休みが終われば高校が始まる。
高校は中学とは訳が違う。
期待に胸を踊らせながら、甘酸っぱい青春を求めて胸を高鳴らせることで、なんともいえない不安は、心の奥に仕舞い込んだ。
自室に戻ると、スマホが通知を伝えるために振動した。
同じ高校に通う予定の、ある友人からメッセージが届いていた。
そこには、1枚の写真があるメッセージと共に添付されていた。
その写真を見て思い出した、入学式当日に学校で提出しなくてはならない書類だ。
《この書類って親のサインじゃないとダメなん?》
書類の保護者名を書く欄に親直筆で名前を書かなくてはならないのかという、少し違和感のある異常な日にしては、ありふれた普通の質問。
《あー、多分そうかも》
一応、質問には答えるべく同意のメッセージを送る。
ふと、自分も親のサインを貰ってないことに気付いて、ファイルからその紙を取り出して、不本意ながら、もう一度居間に戻る。
今、居間に戻るのはなんとなく気が引けたが、忘れてしまう前にサインを貰わなくてはならないと思うと、後回しにすることは出来なかった。
階段を降りて、居間に入るドアの前に立つ。
義父と義妹の会話の音がドアを隔ててくぐもって聞こえる。
まだ、居たのか。
内容は聞こえないが、何をそんなに話すことがあるのだろうか、今後の僕との関わりについて話しているのだろうか。
それなら、今まで通りで別に構わないのだが……。
どうせだから、そういう意志であるということも、二人にしっかり伝えておこう。
そんなことを考えて、居間の扉の取っ手に手を掛け、ひねる。
なんて、タイミングが悪いのだろう。
神様というものがいるのなら、僕は憎まれてでもいるのだろうかと、つくづく思う。
羽乃の義父との会話で、羽乃の口から想像を絶する言葉が出た。
予想もしていなかった、義妹になった少女の異常な一手。
ドアを開けた。
「これで、お兄ちゃんと結婚できるね!」
「は?」
これがはじまり。
僕の甘酸っぱい高校生活は、たった今幕を閉じ、かわりに僕の悩み多き人生の一部の幕が上がった。
面白かったらいいねとかしてね!
誰かの琴線に触れて欲しい。
(追記・2023,7月8日、加筆修正済・200pt ありがとござざ)