バレンタインは製菓会社の陰謀だとしても全力で踊る
バレンタインが近づいてくると嫌でもチョコレートが目に付くようになる。上杉龍也もクラスメイトがチョコレートの話題をするたびにバレンタインが近づいてきたんだなと思った。それはともかく少しあからさますぎるとは思う。しかし自分にはあまり関係ない話だと思った。妹の美那からチョコレートをもらうくらいだ。龍也に日常はバレンタインが来ようがあまり関係ないと思っていた。
「上杉くん、もうすぐバレンタインだね」
いつものような笑顔で錫川若菜が上杉龍也にバレンタインの話題を振ってきた。
「バレンタインと言っても、俺は妹の美那からチョコレートをもらうくらいだからあまり関係ないよ」
「ふーん……じゃあ、上杉くんにバレンタインチョコあげようか?」
その言葉を聞いて龍也はぎょっとした。
「錫川さん!? 一体何を言っているの!?」
「わたしが上杉くんにバレンタインチョコをあげるから、上杉くんもわたしにバレンタインチョコをちょうだいね。それでいいでしょ?」
「えっ、バレンタインチョコを交換するの」
「ホワイトデーは1ヶ月後だし、それまで待ちきれないんだ」
「そんな理由なんだ」
「上杉くん、バレンタインチョコ期待しているよ」
そういう風に龍也は若菜に押し切られてしまいバレンタインチョコを作ることになったのだ。
◆◆◆◆◆
龍也はバレンタインチョコについて頭を悩ませていたころ、妹の美那がふらりと龍也のもとにやってきた。
「お兄ちゃん、バレンタインチョコを作りたいから手伝って」
そのとき龍也は渡りに船だと思った。
「美那、バレンタインチョコを作りたいというけど……何を作りたいんだい?」
「えーっとね、チョコレートクッキーを作りたいの」
「あぁ……クッキーね。じゃあ俺も一緒に作りたいから一緒に作ろうか」
このようにして上杉兄妹はチョコレートクッキーを作ることになった。
上杉兄妹はまずスーパーマーケットに行きチョコレートクッキーの材料を買い集めた。そしてキッチンで悪戦苦闘しながらもチョコレートクッキー作りを黙々と進めていく。途中、クッキー型が行方不明になっていて探すのに苦労したというアクシデントもあったが何とかクッキーを完成までこぎつけることができた。
「お兄ちゃん、チョコレートクッキー作りを手伝ってくれてありがとう」
美那は龍也に感謝の意を表明する。龍也は少し冷や汗を流しながら美那に微笑みかける。
(なんとかバレンタインチョコレートを確保することができたぞ……まぁ、チョコレートクッキーなんだけどね)
龍也はあとはバレンタインを待つのみだと思った。
◆◆◆◆◆
――バレンタイン当日の放課後の教室。
上杉龍也は少しそわそわしていた。錫川若菜はまだバレンタインチョコについて話しかけてこなかったからだ。常識的に考えてバレンタインチョコの受け渡しに最適な時間は放課後と相場と決まっているとしても、今日は話しかけてこないなんてとんでもないサプライズを企んでないだろうかという不安が龍也を襲っていた。
そんな悶々とした放課後
「ヤッホー、上杉くん。バレンタインチョコ、楽しみにしてたかな?」
「錫川さん。ちゃんとバレンタインチョコを用意してきたよ」
「そう、それはよかった。私も上杉くんにちゃんとバレンタインチョコを用意してきたよ」
そういって若菜は丁寧にラッピングされたバレンタインチョコが入った袋を龍也に手渡した。
「中身はチョコタルトだよ。ちゃんと美那ちゃんの分も用意してあるんだ」
そう言って龍也に向かって微笑みかける若菜。龍也はバレンタインチョコ袋を受け取ると学生カバンからチョコクッキーが入ったしっかりラッピングされた袋を取り出し若菜に渡す。
「上杉くん、これはチョコクッキーかな?」
「昨日、妹の美那と一緒に作ったんだ」
「チョコクッキーありがとね……それと上杉くん、ハッピーバレンタイン!」
「はいはい、ハッピーバレンタイン」
このようにして上杉龍也はチョコタルトを、錫川若菜はチョコクッキーを交換することができたのであった。
HAPPY VALENTINE!