武田家との関係を考えます。
荻 清誉が善得寺城へやって来た。
私は猛将として名を馳せている清誉が直臣となった時に荒くれ者たちを200人預けていた。
清誉は見た目は優男だったが戦になると人格が変わる。
常備兵の訓練で扱い切れない、はみ出者たちをどうしようかと考えていた。
その時に清誉から自分に任せてください。自分がその者たちを教育します。と申し出があったので清誉に任せてあった。
清誉から200人の基本教育が終わったと報告を受けたのだが、私は清誉の後ろに控える男が気になっていた…
その男は清誉に任せた荒くれ者たちの1人であった。
目は欲望を満たす為にギラギラしているが濁っており、行動はガサツで暴力的だった。
名前を【悪五郎】と名乗っていた。
身体もデカくガッチリしており、どう見ても盗賊の頭領の様な見た目だった…
そんな悪五郎が今、清誉の後ろで穏やかな表情で大人しく控えている。
柳生 家厳がこういう男は斬り捨てた方が早いと言っていたのだが、今では清誉が信頼して供として動向させるほどになっているとはな。
目の濁りも消えて、ガサツな動きも無くなっていた。
清誉は悪五郎に対して一体どんな教育を施したのだろう…
そう思いながら清誉を見ると微笑んで私を見ていた。
さて、気を取り直して、常備兵200人の基本教育が終わったと言う事はさらに常備兵が増えると言う事か…
正直、清誉に預けていた200人は当てにしていなかったがこれで常備兵は1200人になった。
この200人はこのまま清誉に指揮を任せる事にした。
清誉は200人の兵を任せられた事より200人に情が湧き、別れるのがさみしいと思っていたから良かったと喜んでいる。
これで、私の配下一の猛将と言うのだからな…
悪五郎は清誉の言葉を聞き、目に涙を浮かべていた。
最後に私は悪五郎に対して名前を呼び、清誉の事を支えてやってくれと告げた。
悪五郎は一瞬驚いた顔をしたがすぐに承知いたしましたと頭を下げた。
悪五郎はまさか自分の名前が今川家の一族の者に覚えられているとは思わず、驚いてしまった。
帰りに清誉は思い出したかのように息子の【荻 小次郎】を小姓として学ばせて欲しいと私に告げ、置いていった…
小次郎は私に挨拶が済んで清誉が見えなくなると、これで地獄の修練から解放されたと喜んでいるのだが…
残念な事に小次郎、ここにも地獄の修練が有るんだよね。
翌日、小次郎がここも地獄なのか!!と叫びながら修練に取り組んでいた。
他の者たちにしっかりと付いて行けているから相当、清誉に鍛えられたんだな。
これなら清誉に預けた200人の常備兵も期待が出来る。
お屋形様に報告の為に今川館に訪れた。
崇孚は身延山久遠寺へ行ったまま、未だ帰って来ないので今回は私と世鬼 政棟、松山 重治、私の馬廻りとなった富士 信忠、福島 元成、安部 元真、朝比奈 元智、飯富 昌景、工藤 元豊に加えて、小姓の岡部 五郎兵衛、柳生 新介、瀬名 勘十郎、荻 小次郎と文官である加賀爪 泰定の14人だ。
柳生 家厳、大林 勘助、飯富 虎昌、工藤 昌祐には今回、善徳寺城に残ってもらい武田家との戦が近いので引き続き常備兵の修練を任せている。
今回は兄上への報告には政棟と重治を連れて3人で向かった。
他の者たちは別室で待機だ。
政棟は自分のような者が畏れ多いと言い出し、政棟は私の大事な重臣だから問題無いと説得した。
部屋に向かうと母上と三浦 氏員殿と朝比奈 泰能殿がおり遅くなった事を詫びて席に着いた。
しばらくすると兄上が部屋に入って来た。
氏員殿と泰能殿がいるが正式な場ではないので兄上の意向で兄上と呼ばしてもらっている。
まずは私の領地の報告をした後、武田家への対策結果を報告を始める。
私の領地の事は報告書を送っているので疑問に思った事の質問を受ける形式になっている。
今回は特に質問は無かったので武田家への対策結果を報告を始めた。
まずは諏訪家は残念ながら武田家との和睦に動いている。
諏訪家の分家である高遠家と藤沢家も諏訪家に同調している。
しかし、高遠家の重臣である【保科 正俊】とは書状のやり取りをしているので辛うじて高遠家との繋がりは保てている。
小笠原家は信濃国の小笠原家を1つにまとめたばかりなので追放された兄である小笠原 長高が今川家にいる為、今川家と関わって長高が正当な小笠原家の当主と言い出されたら、また小笠原家が分裂してしまうと言う懸念があるらしく、今は武田家よりも今川家を警戒している。
海野家は真田 幸綱が使者としてちょくちょく善得寺城へとやって来ている。
特に用事がある訳ではないのだがご機嫌伺いの為に来ているとの事。
たまに弟である【矢沢 頼綱】を連れてやって来る。
頼綱は真田家の領地に隣接し、敵対していた矢沢家に養子に入っており矢沢家は真田家の家臣となっている。
幸綱の目当てはここで食べられる食事って事はバレているのだが…
おっと…話がそれてしまった。
海野家は隣に村上家があり当主【村上 義清】が虎視眈々と海野家の領地を狙っているので動けないとの事。
つまり、諏訪家、高遠家、藤沢家、小笠原家、海野家たちと協力して武田家に当たる計画は全滅でした。
一応、高遠家と海野家とは繋がりが出来ているが…
素直に兄上に謝罪をしたが、高遠家と海野家との繋がりが出来たのは良い事だと喜んでいた。
武田 信虎が今井 信元と栗原 信重を滅ぼし、さらに飯富 虎昌と工藤 昌祐が私の所に逃れてきたので家臣にした事も報告した。
虎昌は身延山久遠寺の住職の日伝殿の手引きによって逃れて来たので、太原 崇孚が今、そのお礼に出向いているところだ。
身延山久遠寺との関係は良い感じとも報告した。
信虎が今川家との戦の準備をしており、6月頃に今川領に攻め込む計画中とも伝えたが、流石にこの情報は知っていた。
信濃国の者たちは皆、武田家よりなのでいっその事、北条家に了承を得て武田家と同盟を締結するのも良いかも知れない。
歴史的にだいぶ早いが三国同盟を締結したら、今川家は三河国の領地かに全力を出せる。
今川よりも武田家を取った諏訪家、高遠家、藤沢家、小笠原家には悪いが武田家に滅ぼされるのが早くなるだろう…
とりあえず、兄上の意見を聞いてみよう。
信濃国の調略が上手くいかなかったので武田家との同盟を締結し、武田家と北条家との同盟も取り持てば今川家は三河国に集中出来、武田家は信濃国に集中出来、北条家は関東に集中出来るので北条家にとっても悪い話では無いと思うのだが…
しかし、信虎は扇谷上杉家の【上杉 朝昌】の娘を側室にしており、さらに上杉 朝興の娘が嫡男の武田 太郎の正室になっている。
扇谷上杉家は長年、北条家と争っており北条家との関係は最悪だ。
武田家が北条家との同盟を締結するには扇谷上杉家の存在が邪魔になる…
兄上、武田家との関係はどうしますか?
兄上に状況を説明して問いかけると兄上は目を閉じて考え込んでしまった。
泰能殿は武田家との同盟に賛成の意見を出した。
甲斐国は石高も低く、水害も多いので旨味が少ない。
それに比べて三河国は石高も高く、その先にはさらに石高が高い尾張国が有る。
三河国、尾張国と湊もあるので物資の輸送も楽に行えるので今川家に有利だ。
氏員殿も武田家との同盟には賛成したが果たして今川家、武田家、北条家の三家での三国同盟が成立するかが疑問だと言う。
武田家と同盟を締結すると北条家が今川家との手切れを選択する可能性が高いのでは?との意見だ。
うん、氏員殿の意見は正しいと思う。
私は武田家との同盟を締結した為に北条家と手切れになり河東全域を北条家に奪われてしまっている…
兄上は皆の意見を聞いた後、北条家の了解を得てから武田家との同盟を締結する事を宣言した。