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とりあえず冷静に考えよう。

ふと、目が覚めた。


視界の先には見慣れた天井が広がっている。

いや、初めて見る天井か??


私の中に2人分の自分の記憶があるようで、何やら気持ち悪い感覚だと思いながら身体を起こした。


深呼吸をして自分を落ち着かせてから、ゆっくりと自分の中に有る記憶を辿る。


この場所は駿河国の善得院だ。

そして【栴岳承芳】が今の私の名前だ。


山城国京の妙心寺で修行中であったが、今川家当主である【今川 氏輝】の書状により、駿河国に帰って来た。


氏輝の弟であり、のちの【今川 義元】である。


……のちの今川 義元??


義元は1560年に桶狭間の戦いで【織田 信長】と戦って討死して、生涯を終える。


その後、今川家は滅亡を迎える……。


もう1人の自分の記憶か??

何者だ……未来の記憶を持っているのか?

もう1人の自分名前は思い出せない……思い出そうとすると、頭の中が白い靄で覆われて名前が思い出せないが、確かに私では無いもう1人の自分がいる……。


……まぁ、深く考えてもしょうがないか……。


今の自分で有る栴岳承芳の記憶は、しっかりと持っている様だから問題は無いだろう。

もう1人の自分の記憶は有っても、意思の類は感じられ無い。


そんな事を考えていると、廊下からこちらに近づいてくる足音が聞こえて来た。


部屋に1人の男が入って来た。

【九英承菊】のちの【太原 崇孚】、私の師だった。

こめかみに青筋を浮かべて、私に今に至る事の経緯を説明する。


武芸の修練中に頭を打ち付けて気を失っていたらしい。

それを思い出すと、恥ずかしさが込み上げて来た。


男ならド派手な必殺技に憧れる!!

必殺技を編みだそうとして自爆して吹っ飛び、思いっきり頭を打ち付けて気を失った……。


九英承菊の教育方針は文武両道であり、武芸に関しては家臣の【柳生 家厳】を師と仰ぎ、剣術の手解きを受けている。


その切っ掛けは、上洛して妙心寺で修行中の身である時にひょんな事から頻繁に会う機会があり、親しくなって気が付いたら剣術を教わる様になっていた。


そんな時、兄である【今川 氏輝】から駿河国へ帰国するようにと、書状が届けられた。

私に還俗して一門衆として自分を支えて欲しいとの事で、私は九英承菊と相談して承諾する書状を返した。

帰国するにあたり、こちらで知り合った者を家臣として召し抱える許可もお願いした。


許可が出たので4人を家臣として召抱える事にした。


その1人が家厳だ。

ダメ元で話をしたが、すんなりと承諾してくれた。

大和国の柳生城主であったが、他の者に譲って妻子と数名の者を連れて駿河国へ来てくれるそうだ!!


家厳を思い浮かべると、他の者たちも想起されて来たのだが【松永 久秀】、まさか私の家臣となるとは……。

まだ【三好 長慶】に仕える前に知り合っていたので、これも運命だったのだろうかな……。


山城国西岡の出身で、商家の生まれと本人は言っており、油の取引きをする事で知り合い、交流を深めて親密になっていった。


私の家臣にならないかと誘ったら、忠誠を誓いますと満面の笑みで告げられたので、私も笑顔で頼りにしてるぞ!!と伝えた。

この笑顔を見ていると、後に梟雄や悪人と呼ばれる様な男とは思えなかったのだよなぁ……。


まあ、久秀の悪行は濡れ衣だらけなのはわかっているから、家臣にと誘ったのだが。


もう1人は堺で知り合った男で【松山 重治】だ。


弁も立ち、尺八、小鼓、早歌など芸能の才に溢れ、しかも剣の達人でもある堺の名物男として有名だった。

のちに長慶と久秀の元で出世する有能な男なのだが、ちょっと軽い所がある。


楽しそうだね〜!!良いね、家臣となろう。とすんなりと家臣となってくれた。

自分が楽になるように、何人か使える者を一緒に連れて行くそうだ。


最後の1人は【世鬼 政棟】だ。

この男も堺で知り合った。


世鬼と言えば【毛利 元就】配下の忍びの世鬼一族が有名で、今川の末裔と言われている。

弟の【世鬼 政時】に全てを押し付けて、自分は先祖の生まれ故郷を見る為に、駿河国へと向かう途上との事だった。


そこで私は今川家の者だと名乗り、意気投合したのだ!!

そこに私に駿河国へ戻り、還俗する事になったので私の家臣にならないか?と提案したら、泣いて喜ばれた。


私の知る記憶では、この後尾張国の【織田 信秀】に雇われる未来だけど、この出会いは運命だと思った。

一度実家に戻り、何人か使える者を連れて来るそうだ。


家族がいる者は家族も連れて来るようにと告げておいた。


この4人を家臣に出来た事は運が良かった。


思いっきり今川 義元の歴史が変わってしまっておるな……良いのか、これ、と思わざるを得ない。

よく思い出してみても、今までの私の記憶は画像が鮮明では無い事に気付いた。

何か夢を見ている様な感覚なのだ。

もう1人の自分が表に出ていたのか?


そんな事を考えていたが私は我に帰り、目の前にいる九英承菊に心配をかけた事を謝罪した。

九英承菊はホッとした表情を一瞬浮かべ、すぐに鬼の様な表情に変じて気を抜き、突拍子ない事をするからこういう事になると散々説教された。


散々説教を受けて後、九英承菊は今日はゆっくりと身体を休めるようにと言い、部屋から退出して行った。


また1人になった私は、ゆっくりと今の状況を整理する事にした。


私は今川家の前当主であった【今川 氏親】の五男である。

幼少の頃から仏門に入り、駿河国富士郡にある善得寺の【琴渓承舜】元で修行していたが、琴渓承舜が亡くなった後に琴渓承舜の弟子であった九英承菊が私の師となり、私は修行を続けた。


その後、九英承菊に見聞を広げる為にと言われて上洛し、建仁寺、妙心寺で修行を続けていた。

この間、堺など畿内に足を運ぶ事で人脈を広げていった。


今は氏輝の兄上の要請で帰国し、善得寺と善得寺の別院である善得院を行き来する生活を送っているが、還俗する事になっている。


父親である氏親は『今川仮名目録』を制定し、今川家を守護大名から戦国大名へと移行させた人物だ。


長男は氏輝で現当主であり、私の知る史実より1年早く駿河国へと呼び戻された。

兄は病弱であったのだが、私が食事改善などを書状にて促し、そのおかげも有ってか体力も付き、健康な身体になって寝込まないようになっている様だ。


色々と書状でこちらの情報や助言などを副えたやり取りを重ねた事から、私の事を信頼してくれているようなのだ。


次男は【今川 彦五郎】と言い、私より年上ですでに元服しているが、父である氏親は20歳前後まで幼名である【龍王丸】を名乗っていたから、問題は無い筈だがな?


今川家は足利将軍家に習う様に嫡男以外は仏門に入っているが、氏輝の兄上が病弱で在った為にもしもの時に家督を継げる様に教育を施されており、その兄は回復の兆しが差したので喜ばしいが、残念ながら能力の方は……。


その彦五郎兄は氏輝の兄上が見違えるほど健康になってきた事で、周囲に不満を漏らしているとの噂が私の所まで聞こてくる程に高まっているのである。


私の事も余計な事をした奴と嫌っているとの事だ。


三男は【玄広恵探】で花倉の遍照光寺に早くから仏門に入っている。

書状を出すのを好む兄弟はもちろん、私とは異母兄弟となるのだが、私の母上とも書状のやり取りをしているらしい。


私の記憶では、私と玄広恵探は今川家の当主の座を巡って争い、っ自害させる事になる。


四男は【象耳泉奘】であり、やはり幼少の頃から仏門に入っている。

武将よりも僧侶の人生に魅力を感じているらしく、結局最後まで還俗することなく僧侶として人生を全うしている。


六男は【今川 氏豊】で、幼い頃に今川那古野家に養子として入っている。

武芸に関しては全く才は無いが、連歌を非常に好んでおり、私によく書状を送って駿河国へと帰りたいと訴えているらしい。


改めて記憶を思い出してみると、私は色々やらかしている。

完全に幼い頃から、もう1人の自分の意思が表に出て生きて来ているな。


明日は氏輝の兄上に呼ばれているから、ゆっくりと身体を休める事にしよう。


義元と言ったらお歯黒か…

お歯黒は嫌だ!!


私の記憶の中には前世で海苔を歯につけて『お歯黒!!』と遊んでいた記憶が有るが……。


やっぱり、貴族的な生活より武士らしい生活を目指していこう。


私は武芸に生きて行きたい。


おやすみなさい……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作品の題名を根底から否定する事実をいくつか お歯黒はこの頃のある程度富裕な日本の人はみんなしてた とうぜん織田信長もしてた してないと歯槽膿漏でどんどん歯が抜けていくから お歯黒をしている…
[一言] 家臣が豪華すぎるww
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