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連載候補短編

何となく『惚れ薬』を錬金したら成功したわけですが、うっかり飲んだ女嫌いの王子様に溺愛されるようになりました

作者: 日之影ソラ

 惚れ薬。

 そんなものは存在しない空想上の便利な薬だ。

 よくある恋愛物語に登場して、登場人物たちを困らせたり、二人の距離を縮めるきっかけになったり。

 状況を進展、混乱させるスパイス的なもので間違いはない。

 好きな人がいるなら、一度くらいは使ってみたいと妄想するだろう。

 ただ、そんな物は存在しない。

 存在しない物なら作ってしまえばいいのではないか?

 というのが全ての始まりだった。


「……出来ちゃったんだけど」

 

 依頼されていたポーション作成が早く終わったので、暇な時間を使って適当に作ってみたら、何か出来てしまった。

 紫色の明らかに身体に悪そうな色のポーションだ。

 一見毒にも見えるけど、ちゃんと味は甘くして飲みやすくしてある。


「いやいやいや、そういう問題じゃないよね」


 自分で自分にツッコミを入れる私。

 まさかサクッと簡単に出来てしまうなんて思わなかった。

 世の中に存在しないし、誰か作ったことないのかなーなんて思っただけの思いつき。

 まぁ出来ないでしょどうせと半笑いで作ってみたら結果がこれだ。

 

「……どうしよ、これ」


 別に好きな人がいるから作ったわけじゃない。

 使いたい相手もいないのに、惚れ薬をどう使えばいいのかわからない。

 捨ててしまったほうがいいのだろうか?

 いや、せっかく作ったのに捨ててしまうなんて勿体ない。

 でも……


「好きな人……か」

 

 私には一生、そういう類の話は縁遠いだろう。

 ユーリア・インレアス、それが私の名前。

 インレアス家は王国でも有名な貴族で、王族にも意見できるほどの権力を持っている。

 一応、私はインレアス家の令嬢にはなるのだけど……残念ながら他の人たちとは扱いが違う。

 現当主のお父様は遊び好きで、よく妻以外の人と関係を持っていた。

 一回限りの関係が多かったらしいけど、そんな遊び感覚で生まれてしまったのが私だったりする。

 お相手は誰なのかわからない。

 作りたくて作った娘じゃないから、お父様としても私を認めたくない。

 だから、私は屋敷でもいない物として扱われた。


 今から思い出しても散々な扱いだったし、こうして生きていることさえ不思議に思えるほど。

 自分で言うのも恥ずかしいけど、私は頑張って生きていた。

 誰も助けてくれないから、自分で何とかするしかなかったんだ。

 成人年齢を超えるあたりで、屋敷から追い出されることもわかっていたから、それまでに何とか生活できる方法を探さなくてはならなかった。

 その時に見つけたのが、錬金術師という職業だった。


 錬金術師、別名錬成術師とも呼ばれる職業。

 ポーションを作ったり、素材同士を組み合わせて新しい物質を生み出したり。

 技術者の一人で、錬成台という特別な台座を扱える者のみがなれる職業でもあった。

 私にはその才能があったらしく、錬金術師の中には王宮でお仕事をする人もいると聞いて。


 これしかない!


 と思ったのが始まりだ。

 独学で錬金術を学び、成人前に王宮で行われた宮廷錬金術師の試験を受け、見事に合格して現在に至る。

 めでたく屋敷を出た私だけど、すでに悪い評判は広まっていた。

 もっとも、尾ひれがつきすぎて原型のない噂だけど。

 親のコネで入ったとか、本当は落ちこぼれだとか、平民の血が混じった貴族の偽物とか。

 そういう噂は広まるのが早くて、同じくらい信じる人も多かった。

 お陰で王宮でも私はハブられ者だ。

 仲のいい友達はおろか、まともに話せる相手もいない。


「そんな私に好きな人なんて……出来たって上手くいかないよね」

 

 たぶん、この薬を使う機会は訪れないだろう。

 それを悲しくは思うけど、仕方がないとも納得してしまう。

 私はポーション台の右端に惚れ薬の入った小瓶を入れ、次の仕事に取り掛かろうとする。

 ちなみにポーション台の右端は、普段なら回復系のポーションを置いておく場所だった。

 

 数分後――


 作業中、不意にノックもなく部屋の扉が開いた。

 誰だろうと思いつつ、私は作業の手を止める。

 依頼されていたポーションの納品は明日だし、今日は特に来客の予定はなかった。

 何よりノックもしないで入ってくるなんて不作法だ。

 とか思ったけど、扉の前に立っているその人を見て、私は思わず固まった。


「ぇ……フロア殿下!?」


 フロア・ウェスティ。

 ウェンディム王国に三人いらっしゃる王子様の第一。

 特に彼は、女嫌いで有名な王子様だった。

 銀色の髪と冷ややかで冷たそうな青い目で、私を睨むように見ている。


 何で王子様がここに?

 しかもよりによって女嫌いのフロア殿下が!?

 私何か悪いことしたっけ?

 身に覚えはないけど、殿下がわざわざ私の所を訪れるなんて考えられない。


「あ、あの……」

「……すまないが胃の調子が悪い。改善するポーションはあるか?」

「え、あ、はい。回復系のポーションなら、そこのポーション台の右端にあれば使って頂いて大丈夫です」

「わかった。感謝する」


 私はホッとする。

 どうやら身体の調子が悪くて、ポーションを貰いに来ただけだったみたい。

 何でわざわざ私の所なのかは不明だけど、ポーションを飲んだらすぐ……

 

 ん?

 ちょっと待って?

 今ポーション台の右端って確か――


「これか」

「あ、ちょっ――」


 ごくり、と殿下が紫色のポーションを飲み干した。

 それは回復系のポーションなのではなく、私が何となくで作ってしまった惚れ薬だ。

 効果は単純。

 飲んだ直後に異性を目にすると、その人のことを強く意識するようになる。

 胸がドキドキしたり、身体が熱くなったり。

 特定の条件下で身体が反応するようになってしまう。


「うっ、何だこの甘さ……」

「で、殿下!」


 フロア殿下が頭に手を当ててふらつく。


 まずいまずいまずい!

 殿下が惚れ薬を飲んでしまった。

 しかも身体に合わなかったのかふら付いている。


「だ、大丈夫ですか? 殿下!」

「ぅ、ああ……甘さは気に入らないが、不思議と腹の調子は……」


 目と目が合う。

 私という異性と。

 惚れ薬の発動条件は、飲んだ後に異性を見ること。

 今、その条件を満たしてしまった。


「――!」

「で、殿下?」


 無反応?

 殿下は私を見つめたまま、無表情で固まっている。


 あれ、もしかして効果が出ていない?

 まさか女嫌いの人に使っても効果が薄かったのかな。

 だとしたら助かった。

 適当に作ったポーションの所為で、殿下に迷惑をかけずに済む。


 そう思って心の中でホッとする。

 が、突然――


「お前、名前は何というんだったか?」

「え? あ、ユーリア・インレアスです」 

「ユーリアか」

「……ぇ」


 フロア殿下の手が、私の頬に優しく触れる。

 彼は今まで見せたことないような穏やかな表情で、私の眼を見つめる。


「良い名だな。覚えておこう」

「は、はい」

「ふっ、ではな。仕事中に邪魔をした」


 え?


 フロア殿下は手を降ろし、私に背を向けて部屋を出て行く。

 私はそれを、ポケーっと見送る。


「な、な……なに今の?」


 あの女嫌いのフロア殿下が、まるで愛しの女性を見えるような目で私を……

 ま、まさか普通に惚れ薬が効いちゃった?

 で、でも予想してた効果よりは薄いというか、反応は微妙だったし。

 わからない。

 わからないけど……なんか。


「ど、ドキドキしたぁ」


 男の人とあんなに近くで見つめ合うなんて経験、今までしかたことがなかったから。

 私はどんな顔をしていたのだろう。

 何となく顔が熱いし、赤くなっていたのは自分でもわかる。

 恋愛なんてする機会一生ないと思っていたけど、ちょっと興味は湧いたりした。

 ただまぁ、惚れ薬の影響でああなっているだけだと思うし。

 効果も一時的だから、きっと明日には元通り。


「ちょっと残念……でも良いよね。薬の力で好きになったって、そんなの長続きするはずないし」


 何よりフロア殿下に迷惑をかけてしまう。

 効果がキレた時も怖いから、なるべく関わらないようにしよう。



 翌日――


「で、殿下?」

「ああ、急に来てしまってすまない」


 関わらないようにしようと思った矢先、殿下の方から私の研究室に来てくれた。

 内心ちょっと嬉しいと思ってしまった自分がいる。

 でも良くない。

 これはとても良くない。

 昨日ほどじゃないけど、私を見る目が明らかに穏やかで優しい。

 効果はまだ残っているみたいだ。


「ど、どうなされたのですか?」

「特に……いや、今日も腹部に少し違和感があってな。ポーションを貰えないだろうか?」

「あ、はい。昨日と同じところにあります」

「わかった」


 今、特に用はないって言いかけなかった?

 言いかけて、用もないのに来たと思われたくないから、適当に理由を作ったように見えたけど……


「ん? 昨日のと色が違うがこれでいいのか?」

「あ、はい大丈夫です! 昨日のは少し効果が強いもので、それは普通のタイプになります」

「そうか。確かに強かった……のか」

「はい。あははははっ」


 何とか誤魔化せた。

 さすがに、実は惚れ薬だったんですよ。

 なんてふざけたことは言えない。

 バレたら最悪クビになる……どころか罪人として投獄なんてことも。

 それだけは絶対に嫌だ。

 何とか効果期間中をやり過ごして、殿下には私のことを忘れてもらうしかない。


「空いた瓶はそこに置いておいてください! 殿下もお忙しいでしょうから、すぐに戻られた方がよろしいのではありませんか?」

「……いや、今は時間がある」

「そ、そうなのですね」

「ああ、それにまぁ体調もすぐれない。悪いが、少しここで休ませてもらえないか?」


 予想外の質問が飛んでくる。

 まさかの休憩宣言。

 やっぱり惚れ薬の効果が続いている。

 これは関わるべきじゃない。

 でも……


「も、もちろんです。こんな狭くて汚い場所で良ければ」

「ありがとう。では失礼するよ」

「は、はい~」


 言えるわけない。

 殿下に向って出て行ってくださいとか。

 私は心の中で涙目になりながら、殿下の滞在を許してしまった。

 殿下がソファーに腰を下ろす。

 私は変に視線が合わないように背を向け、自分の作業に没頭するフリをした。

 内心はドキドキして集中できていない。

 昨日とはまた違ったドキドキで、こっちは心から心臓に悪いと思う。


「ユーリア」

「は、はい!」


 突然名前を呼ばれてビクッと反応する。

 勢いそのままで振り返ると、フロア殿下と目が合った。

 

「すまない。集中していたか?」

「い、いえ大丈夫です。どうされましたか?」

「どうしたというわけではないが……」

「殿下?」


 フロア殿下は黙ってしまった。

 もしかして話しかけてみたかったから話しかけただけとか?

 だとしたらちょっと可愛いと思ってしまう。


「君はいつからここで働いているんだ?」

「え、えっと、五年ほど前からです」

「五年? 君……いくつなんだ?」

「十八歳です」


 私が答えると、殿下はひどく驚かれていた。

 その理由は自分でもわかる。


「五年前……つまり君は成人前から宮廷付きとして働いていたのか?」

「はい。試験には合格したので、最初の一年間は見習いとしてでしたが」

「凄いな。成人前に宮廷付きになったのは初なんじゃないか? 君のような人材がいたのに気づけなかったとはな……我ながら恥ずかしい」

「い、いえ、私にはこれしか出来なかっただけですから」

 

 才能はあった。

 努力もした。

 でも、そのどちらも出自が違えば必要なかったかもしれない。

 いいや、仮に同じ道を進んだとしても、ここまで急ぐ必要はなかったはずだ。

 追い込まれて、切羽詰まって、やるしかなかった。

 生きるために、明日へ進むために。

 その結果が今の私で……私は、心から嬉しいとは思えない。


 表情に出ていたのだろう。

 そんな私に殿下は、少し不機嫌になって言う。


「どうして自分を卑下する?」

「え?」

「素晴らしいことだ。もっと堂々としていれば良い」

「いえ……その、私はインレアス家の……」


 女嫌いな殿下にも、私の噂は伝わっているはずだ。

 みなまでいう必要はない。

 全てが事実ではなくとも、私が出来損ないの貴族令嬢であることは確かだ。

 

「ああ、インレアス家……そうか、君があの噂の娘か」

「……」


 やっぱり殿下の耳にも入っていた。

 いくら惚れ薬の効果があっても、マイナスな印象はプラスに転じない。

 悪い所が見えてしまえば、良い所が霞んで見える。

 殿下にかかった惚れ薬の効果も、これで消えてくれるだろうか。

 そう思っていた私に、殿下は思わぬ一言を口にする。


「それが何だ?」

「え?」

「何だと言ったんだ。君の出自がどうであれ、その努力と成果は紛れもない本物だろう?」


 殿下はまっすぐに私を見つめる。

 怒っているわけではなく、真剣な眼差しを向けて言う。


「君がこうして結果を残したことは、君の才能と努力が認められた証拠だ。出自など関係ない。君が自身の力で勝ち取ったものだろう? ならば堂々していれば良い。君は優れた人間だ。少なくとも、俺はそう思う」

「――っ」


 思わず泣きそうになった。

 初めてだ。

 私の努力を、成果を、そう言って認めてくれたのは。

 フロア殿下が初めてだったんだ。

 

「あ、ありがとうございます」

「別に感謝されることじゃない。思ったことを言っただけだ」


 それでも嬉しい。

 惚れ薬の効果が続いているとしても。

 仮に全てが嘘であるとしても、ちゃんと言葉で言ってくれたことが何より嬉しくて。

 こんなに心が震えたことなんていない。

 まるで私のほうが、惚れ薬を飲んでしまったのかと錯覚するほど。

 

「ありがとうございます。フロア殿下」


 彼を見ていると、ドキドキが止まらない。

 でも、だからこそ名残惜しい。

 きっとこうして話してくれるのも今だけだ。

 効果がキレれば、またいつも通りに戻る。

 殿下は女嫌いで、私は一人ぼっちのままこの部屋で過ごす。

 

 ならもう一度……ううん、それで良い。

 薬の効果に頼っても、殿下に迷惑をかけるだけだから。

 一時でも、私のことを褒めてくれただけで十分だ。


 そう思って納得した。

 いや、納得させた。

 私がこれ以上、殿下のことを考えてしまわないように。


 それなのに……


「邪魔をするぞ、ユーリア」


 翌日も。


「今日は特に調子がよくない。休む時間をくれるか?」


 翌々日も。


「今日は……特にないが、休ませてくれると助かる」


 そのさらに次の日も、殿下は私の研究室にやってきた。

 おかしい。

 惚れ薬の効果はもっても一日が限界だったはず。

 もうとっくに効果切れだ。

 それでも殿下は毎日、私の元を訪れる。

 他愛のない話をしたり、お互いのことを話したり。

 何気ない時間を過ごしにやってくる。


 語り合ううちに、接し合ううちに、殿下の人柄がわかるようになってきた。

 王城での殿下の評判はあまり良くない。

 女嫌いという点を除いても、他人と深く関わらず、愛想笑いすらしないことで有名だった。

 取り入ろうとする多くの者が諦めてしまうほど、殿下は冷たく孤独を愛する人だと。

 私もそう思っていた。

 でも実際はおしゃべりで、少ないけど笑顔も見せてくれる。

 私の話だってちゃんと聞いてくれて、努力を認めてくれる優しさがある。

 何だか時を過ごすうちに、私のほうが殿下に惹かれていくようで。


 だからこそ、今のままは駄目だと思ったんだ。

 惚れ薬なんて卑怯な手で、殿下の心を引こうなんて。

 そんなことしちゃいけない。

 優しい殿下を裏切る行為だ。


「あ、あの殿下! 私は殿下に謝らないといけません」

「ユーリア? 突然どうしたんだ?」

「私、殿下に嘘をついていました」

「嘘……?」


 責められるのは怖かった。

 嫌われてしまうことは予想できる。

 それでも言うべきだと思って、私はあの日のことを打ち明けた。

 殿下が飲んだのは回復ポーションじゃないくて、私が気まぐれで作った惚れ薬だということを。

 こうして殿下が私を気にかけてくれるのは、すべてその効果なのだと。


「なるほど、惚れ薬か」

「申し訳ありません、殿下。私は殿下の気持ちを……」

「そうか。ようやく合点がいった」

「……え?」


 怒られると思っていた。

 怒られてしかるべき行いだ。

 にも関わらず、真実を知った殿下の表情は、どこか楽しそうだったんだ。


「いや最初から不思議だとは思っていた。あのポーションを飲んでから急に君のことが気になり始めて、気づけば君のことばかり考えていたんだ。翌日も続いて、私はここへ足を運んだ。だがその日以降、徐々に気持ちは落ち着いてきた」

「そ、それは効果が薄れてきたのだと思います。あれは一時的なもので」

「そうなのだろうな。現に翌日、君と話している中で冷静になったよ。あくまで一時の効果なのだな」

「はい。ですから……」


 私は気づく。

 殿下の話通りなら、効果はとっくにきれていたことになる。

 しかも翌日にはもう。

 だったらどうして、今日まで殿下はここに足を運ばれたんだ?

 あの時の自分がおかしいと気づいていたのに。


「どうして……殿下は今日もここに?」

「ふっ、ユーリア、君はどうして俺が女嫌いになったか知っているか?」

「い、いえ」


 様々な噂は流れている。

 しかし本当のことを知っている人はいない。

 私も首を横に振ると、殿下が答える。


「その理由は、女性が私を見る目が、私ではなく肩書きを見ているとわかってしまったからだ」


 殿下が女嫌いになった理由。

 それは彼が王子だった故の苦悩だった。

 第一王子である彼は、小さい頃から多くの人たちと関わる機会があった。

 中には当然女性も含まれていて、彼女たちはよく殿下に言い寄ったそうだ。

 多くの女性が彼に好意を伝えた。

 しかし、それは彼が王子だからであって、彼への好意ではなかった。

 彼にはそれが見え透いてしまった。

 自分を見ているようで、誰も見ていない。

 見ているのは肩書きと、先にある自分の栄光だけ。


「それが嫌で、避けるようになったのが最初だ。歳を重ねるごとに、周囲からアプローチは増え続けた。時には色仕掛けなんてものもあって……本当に参ったよ。惚れ薬を飲まされたのは初めてだったけど」

「も、申し訳ありません」

「ははっ、責めていないよ。むしろ逆だ。君は惚れ薬を飲んだ俺に取り入ろうとはしなかった。変に色目を使ったりもしない。あの状況なら簡単だったはずだし、普通ならそうする。でも……君は違った」

「そ、それは……」


 申し訳なさと、卑怯だと思う気持ちがあったから。


「理由は何でも構わない。俺にとって重要なのは、君が俺の肩書きに目がくらむような女性じゃなかったということだ。だから効果がきれた後も、君のことが気になってしまった。気付けば図々しく毎日来てしまったよ。迷惑をかけた」

「そ、そんな迷惑だなんて!」

「思わないか? なら、明日からもここへ来てもいいか?」

「は、は……」


 はい、と答えたい。

 それと同じくらい、申し訳なさも感じる。

 私は王宮でも評判が良くない。

 錬金術師としての評判ではなく、私個人の評判が。

 フロア殿下は次期王になるお方だ。

 私の関わることで悪い影響が出てしまうかもしれない。

 殿下が優しい方だからこそ、迷惑はかけたくなかった。


「先に言っておくが、評判なんて今さら気にしていないぞ?」

「え……で、でも」

「君が気にすることじゃない。それに言ったはずだ。俺は君が凄い人だと思っている。才能も努力も、こうしてここにいることも。あの日の言葉は嘘じゃない。俺の本心だ」

「殿下……」


 惚れ薬の効果は薄れていた。

 今となっては完全になくなっている。

 それでも口にする言葉は、紛れもなく彼の言葉に他ならない。


「そんな君だからこそ、俺はもっと関わりたいと思った。俺は君と仲良くしたいし、もっと色々な話がしたい。君はどうだ?」

「私は……」

「嘘はいらない。建前もいらない。君がどう思うのかを」


 そんなの考えるまでもない。

 私の努力を認めてくれた初めての人。

 優しい言葉は嬉しかったし、他愛のない話も楽しかった。

 だから――


「私……も、もっと仲良くなりたいです」

「そうか。なら、これからよろしく」

「はい」


 流れる涙が頬をつたる。

 今まで何度も涙を流してきた。

 どれも悔しさや悲しさの詰まった涙だったけど、今は違う。

 温かくて愛おしい……


 そんな涙があると知った。


 

連載候補の短編ですが、話としては一区切りついてます。

錬金術師ネタで、実はこれが最初に浮かんでいた案でした。


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