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私は私の道を行く。 構って貰えなくても結構です! 【完結】  作者: 梨子間 推人
第二幕 夜の闇を駆け、明日への光に向かう、私の疾走。
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20話 アグリカル龍爵の名。 その重き名跡の責務を背負う覚悟を強いられるも、その名による「あの方」との繋がりを得られる事に歓喜する、私。



 …………その夜の事。



 窓から差し込む月の光を見ながら、何かを思い出そうとしていたのよ。 とても、大切な何かを。 引っ掛かるモノがあって、それが何なのかすら、朧気で掴めないもどかしさ…… 儀礼装甲の鎧下を部屋衣にして、ベットの上で思い出そうとしていたわ。


 陛下の突然の御言葉で、御下賜して頂いた新しいクラバットが、蓋の開いた箱の中に鎮座しているのを、ぼんやりと眺めながら、忘れている何かを必死に思い出そうとしていたの。


 思考が月光に揺らめく様に、定まらない。


 龍爵か…… 思えばとても、重い責務を背負わされたものね。 お母様から継いだ、フェベルナの戦乙女の称号も、西部辺境領の者達が口にする『西方飛龍』の二つ名も…… 私の肩に背負うには重すぎるモノなのよ。


 そして、今日。 陛下に更なる錘を背負わされたわ。


 ちい兄様の様に強く無いわよ…… 西部辺境伯家の従爵である『龍爵』の爵位を、王国の正爵に格上げしてしまわれた。 それも、辺境伯家に次ぐ爵位にと。 重すぎる『(責務)』と、なるわ。 膝を抱え、ちらりと龍爵のクラバットに視線を流す。 月の光を受けキラリと輝く美しいとも云える、その佇まいに、私はとても背負えない『重責』を見たのよ。


 混乱と、困惑が未だに私を掴んで離さない。 思考がどうにも定まらない。 


 視線が下がる。 膝と膝の間に顔を埋める。 漏れた言葉は、少しだけの弱音。 与えられた貴族の責務と重責が、重く私に圧し掛かるの。 息を吐き、締め付けられるような思いに抗う。 でも…… ちょっと、無理っぽいわ。 弱音が、思わず口から洩れるの。 膝の間に頭を捻じ込んで、誰にも聞こえない様に、小声で一人弱音を吐くの。



「誰か…… 誰か…… 助けて。 一緒に…… 重き荷を…… 担って欲しい……」



 それは誰にも聞かれる筈の無い言葉。 私一人が知る言葉なのよ。 はぁぁ…… 正爵かぁ…… その上、一家を立てる事に成ってしまったわ。 ちい兄様がリリーア殿下を迎える為に行われた、今回の爵位追加と、名家名跡の下賜…… 


 同じ龍爵である私には、とばっちりとしか、思えなかったんだもの。 私はただ、状況に危機感を覚えて、西部辺境フェベルナ龍爵として、為すべきを成しただけ。 其処には、フェベルナの戦乙女の意地はあった。 西部辺境伯家の一員としての矜持も有った。 でも、それだけなのよ。 ただ、大兄様に与えられた『龍爵』の責務を…… シェスの民の安寧を護ると云う、『責務』を果たしただけだったのよ。


 なのにね…… 陛下は褒賞として、色々なモノを御下賜されたの。 それは、決して私が欲した訳じゃないわ。 いえ、余りに大きな栄誉に、私自身がどうしていいか、判らないのよ。


 私の『名前』…… 変わっちゃったんだ……



 ――― マロン=ファス=モルガンルース=アグリカル龍爵 



 もう、マロン=モルガンルースじゃないのよ。 こんな小娘な私が、爵位順位では、公爵家より上に相当するの? 一体、何を御考えなのか、国王陛下の御宸襟に何があったのよ。 西部辺境伯家の娘である、陛下の忠実な一臣下としては計り知れないわ。


 アグリカル龍爵…… かぁ……



           アグリカル家?




  えっと…… どこかで聞いたわよね。 たしか。 とても大切な事柄で、思い出せなかった事柄に繋がる、最後の一欠けらが『カチリ』と音を立てて、嵌った様な気がしたの。 そうよ、アグリカル公爵家よ。 今は無き高家。 王国の大切な名跡。 その名家を再興せよと、陛下は思召したのよ! 



 私に下賜されたのは、旧公爵家アグリカルの名跡よッ!



 音を立てて思考が回る。 抑え込んでいた、たまらなく愛しい思い出が吹き上がる。 そうよ…… そうなのよ!!  耳に蘇る、あの方の御言葉。




”……我がウイートバーレイ伯爵家は、今は途絶えてしまった、アグリカル公爵家の連枝に当たります。 寄り親たる、公爵家には並々ならぬ恩が御座います。 父である、伯爵エスクワイア=ファス=ウイートバーレイを含め、公爵家の恩を受けた家は未だにその恩を返すべく、この国の農事に於いて、日々研鑽に努めると、亡きアグリカル公爵閣下に、『お約束』しております。 違えられぬ『お約束』なのです。 ……ウイートバーレイ伯爵家に生まれた私にとっても、その約束は自身の『お約束』でも有るのです ”




 今のアグリカル家の当主は私。 アグリカル龍爵なのよ。 王国を代表する、陛下より下賜された、家名なのよ。 膝の間から顔を上げる。 そっと、ベッドを抜け出さし、手紙を綴るの。 大切な貴方に。 どうしてもフェベルナの地に来て頂きたい貴方に。 ちい兄様にも逢って頂きたい。


 ささやかな…… ほんの『ささやかな希望』は…… 条件さえ整えば、わたしの気持ちも、伝えられるかもしれないわ。


 だから、お手紙を出そうと思ったの。 文面は、ちい兄様にも見て頂くわ。 差し出すタイミングもご相談させて貰う。 けれども、一度、キッチリとお話をしなくてはいけない。 そう、思ったのよ。



 ――――



 私に関して言えば、もうお役御免の筈だったのだけど、何故か辺境領に戻る事は許されなかった。 何時でも帰れるように、用意はしていたのだけど、その御許しは未だ出ていない。 仕方なく、王宮特別室の中に逼塞する様にしていたのよ。


 三夫人もお帰りに成られるご様子も無かった。 と云うのも、私が居る特別室に、度々見えられ、お茶をご一緒してたから。 流石に鎧下でお出迎えする訳にもいかず、その度に一番質素なドレスをお借りする羽目に成ったの。 


 ホントにご迷惑ばかりを掛けてしまって、王宮女官様方には申し訳なかったわ。


 三夫人の皆さんは、一様に、今までとは違い、簡単には口をお開きに成られなくなった。 ちょっぴり寂しかったから、その旨を伝え、今まで通りに過ごして欲しいと、懇願したの。


 一番最初に乗って来たのは、思った通り アンジェ様。 ”言ったでしょ! マロンは、爵位なんて、気にもしないって ” と、お口に出され、バーバラ様とリット様が顔を青白くされたのが、ちょっと心外だった。 彼女達にとって、爵位の序列は、相当に叩き込まれた側なのよ。 奔放な東部辺境伯様とは違い、北部、南部の辺境伯家は、その辺りとても厳格なのよ。



「わたくしを『(とも)』と、呼んで下さった方々に、冷たくされると寂しく思いますわ」



 何て、特大の猫を被ったら、皆さん、声を上げて笑って下さったの。 まぁ、そんな感じで、どうにか今まで通りのお付き合いをして貰える事に成ったわ。

 

 でも、未だ、『懸案事項』は、解決できていない。


 ちい兄様と、お話する機会を見出せていなかったからね。 ちい兄様はとてもお忙しそう。 朝食をご一緒しようとしても、その前にお部屋を出ていかれるし、晩餐をご一緒しようとしても、日付の変わる前に帰ってこられた事も無いんだから。


 かなりの時間を 国王陛下や辺境伯様達との『正龍会議』で、拘束されていた ちい兄様と、やっと纏まった時間でお話出来たのは、あの事前会議から五日も経た日の朝。 疲れ切った様相のちい兄様と、朝食をご一緒させて頂けた時にね、お願いしてみたの。


 その前に色々と推敲した(ふみ)を、やっとの事で、ちい兄様の眼前に差し出し、意見を求めたわ。




「…………旧アグリカル公爵家の御連枝の方か。 良かろう、一度、会ってみる。 これは、フェベルナの地だけにと云う話では無いな。 旧アグリカル公爵家は農事に長けた方々の御連枝。 マロンのいう方が、農事の専門家であれば、広く西部辺境伯家の領地にとっても、またとない人物と成るだろうな。 マロン、良く繋ぎを付けた。 農事の発展は、兄上も必要不可欠な事だと認識されている。 しかしな……」


「”しかし ” とは?」


「お前が此処に、彼の御仁をこの部屋に、お一人で『呼び出す』のは、少々障りがある。 依って、西部辺境伯様の名代の私が、ウイートバーレイ伯爵家 御当主エスクワイア=ファス=ウイートバーレイ卿、及び、ランドルフ=ウイートバーレイ殿に面会しにあちらへ出向き、お話をしよう。 こちらに…… 王宮特別室に向かえるのは、いささか、問題が有るのだ。 一番の理由は、目立つ。 有力貴族達の目も煩い。 何より、この御仁との接触を、お前が望んでいると、宰相家に知れれば、ちと厄介だ」


「…………はい」


「残念そうな顔をするな。 マロン。 お前が『今』表立って動けぬ事は、理解しておるであろう? 『 龍爵 』が爵位を、陛下の命により ”正爵 ” と、規定されたのだ。 それも、公爵家よりも上位の家格としてな。 既に広報官により、『公示』もされてしまわれた。 俺や、マロンが領地に帰ってからならばいざ知らず、昨日付けにて王国広報官よりの、正式な公示だ。 王都の貴族に動くなと云う方が無理だ」


「……はい。 ご配慮、有難く」



 そっかぁ…… お招きして、私の口から西部辺境領へ御招聘したいって事は、言えないのかぁ…… 正爵となった、独身女性の龍爵の元に、独身の男性を呼ぶことは出来ないものね。 ましてや、私は婚約者持ち。 いくら他の人がいるからって、この部屋に『お招きする事』が含む、意味は……


 そうね、出来ないわよね。 ふぅぅ…… と、大きめの溜息が落ち、視線が床に向かう。 そんな私を面白そうに見つつ、ちい兄様が小声で言葉を紡ぎ出されれるの。




「マロン、お前…… 好いたな、ランドルフ殿の事を」


「えっ‼ な、何を、仰いますかッ!」


「お前が俺を良く知るのと同じに、俺もお前を良く知るのだ。 他の者は表情が読めないとよく云うが、俺にとっては判りやす過ぎぞ? 王都に於いて、知己を得た方々も居られるのであろう? 表情が出てきたでは無いか。 王都にて、さらに『表情』を失うかと懸念して居ったが、良き方向に変われたようだな。 安堵したぞ」


「ちい兄様……」




 困惑の表情を浮かべる私に、ちい兄様はさして重要では無い事だと云わんばかりに言葉を紡がれるの。 その内容に、かなり驚いたわ。




「……あぁ、それとな。 兄上が御決断され、『正龍会議(ムートス)』にて、承認された事がある。 先の西部辺境伯様が『 () 』、アルフレード=モルガンルース従伯爵の西部辺境伯家の籍を抜き、その妻子の『籍』諸共 『御生家』のベンハム子爵家の籍に戻された。 辺境伯家より下賜された『従爵位』共々、あの方々の辺境伯家に於ける『権能』は全て辺境伯家に返上される事となった」


「えっ…… 放逐と云う事なのですか?」


「あぁ、王都にて、やり過ぎたのだよ。 あの御仁等は。 よって、あの方は今回の『正龍会議(ムートス)』にも、一切、呼ばれてはいない。 エリザベート継母様も、その同肚実子たる者達も、辺境伯家の籍を抜かれる事となった。 理由は……、判るな」


「……何となくですが、兄弟姉妹の方々は、『西方辺境の子』では、無かったと云う事でしょうか」


「まさしくな。 マルガレート姉上に関して言えば、問題は無い。 バレンティーノ侯爵夫人であるからな。 また、メイビン兄上に関しても、王都守護隊に属し、己の力で今後もその地位を維持する事は出来る…… かもしれん」


「しかし、フリオと、エステーナは? あの子達は、まだ第一成人に達したばかり。 『全過程学生』である限り、わたくしは弟妹(あの子達)に、関わりを持てませんが、あの子達が不幸に成るのは忍びないのです」


「エステーナは、バレンティーノ侯爵家の養女になるな。 あの方も乗り気であると、お教え下さった。 姉上の根回しの結果だろうな。 だから、案ずるな。 エステーナは既に、第三王子殿下の御婚約者に内定している。 子爵家令嬢では、第三王子と云えど、釣り合わないのでな。 バレンティーノ侯爵もエステーナを可愛がっている。 失態を犯さぬ限り、承認される。 フリオは………… 御当主様(兄上)の逆鱗に触れてしまったので、如何ともしがたい。 アレには、相応の能力と、野心があると見える。 『 たとえ ” バレンティーノ侯爵家の従子爵 ” であっても、這い上がってくるだろうよ 』 と、兄上が冷たく仰っておいでであった」


「例の従子爵の叙爵で、相当に御怒りだと云う事なのですね…… 浅慮を成されましたね、お父様も、フリオも。 お父様に於かれてましても、大兄様の逆鱗に?」


「王都での振舞いは、『王都の仕来り』を勘案しても、余りに傍若無人。 さらに、シェス王国の貴族序列を無視した行動は、王家と辺境伯家の在り方に『大きな禍根を残す』と判断された」


「……まぁ! 大兄様が、そう仰ったのですか?」


「王都での ”あの方(・・・) ” の生活ぶり。 そして、その後に入ってくる マロンに対する仕打ち。 「夜鳴鶯(ナイチンゲール)」達が、事細かく報告を寄越して来たぞ。 今、あの方々が住んでおられる御邸は、バレンティーノ侯爵家の持ち物だが、あの方々の生活に支出される『経費と費用』は、全て西方辺境伯からの支出だ。 相当額を使われている。 まったく…… マロン。 絶縁に際し、あの方々が御作りになった『全ての借財』を、兄上が当主の義務として、お支払いに成られる。 その為に、『借財の総額を算定』された時の兄上の顔…… お前にも見せてやりたかったよ」


「……相当な事の様ですね」


「相当な『事と額』だったぞ。 先日の公示で、その旨も合わせて発表されている。 『負債の清算』も終わった。 領都ではかなりの無理を成されたと聞く。 此方では手に余る事態に、王都に支店がある、『大商会』に取り纏めを頼んだ。 西部辺境伯ですら手に余り、なかなかに難しいのでな。 その様な事に抜きんでた力を持っている、彼の商会に依頼できた事で、事無きを得た」


「それは…… 南方辺境領の『パスタイ商会』ですの? ……そんな気がするのですが?」


「あぁ、ご明察だな。 南方辺境伯が連枝…… いや御令嬢が現在の御当主である『パスタイ伯爵家の(ゆかり)の者達』が興し育てた、『パスタイ商会』だ。 南方辺境伯様が、その存続を憂いた、商家群。 後継者が失われ、パスタイ伯爵家断絶の危機に南部辺境伯様が、優秀な御令嬢に継爵させ、統合せしめたのは、有名な話ぞ。 御令嬢の能力の高さ故、今やシェス王国最大の商工ギルドの盟主にも推され、渋々とは言え、引き受けられた事でもあるしな」


「やっぱり…… リッドがなにやら、思案深げにしていらしたのは、そのせいだったのですね」


「ん? リッド? あぁ、アストリッド殿か。 今、話したとおり、パスタイ商会の商会長、そして、南方辺境領 商工ギルドのギルマスであられる、優秀な女性伯爵だな。 南方辺境伯の御三女、フェベルナの隣領の領主であり、『正龍の間』にも御越しだったな、そう云えば」


「幾つも肩書をお持ちの才女ですわ。 仲良くさせて頂いております」


「重畳。 フェベルナとの交易に於いて、かなり遣り合ったそうでは無いか。 アマリアより、そんな話を聞いているぞ?」


「えぇ…… まぁ…… そうなのですが…… で、でも、此方ではとても良くして頂いておりますわ。 あちらでの彼女と違い、とても柔らかな雰囲気をお纏いになっておりましてよ?」


「それは、既に御結婚されておられるからだろうな。 重き荷を背負う者は、その重圧に負け感情の起伏が荒くなる。 しかし、共にその荷を背負うてくれる者が居らば、幾らでも立ち向かえるようになる。 母上がそのような事を、お教え下さった。 『辺境の子』が何よりも必要なのは、心安らぐ配偶者であるとな。 アノ母がそう云うのだ。 重き言葉であるな」


「はい…… ちい兄様。 重い御言葉ですわね」




 今は無きお母様は、そんな配偶者を持てなかった。 私達に同じ轍を踏んでもらいたくないとお思いなのは、身を切る様に理解できる。 お母様の心の支えは、フェベルナの大地にしか無かったのですからね。 だから、彼の地で果てられた事を、心から満足しておいでだったのよ……



「……マロンにもキチンとした、心通わす事が出来る『配』を整えねば、いけないな。 キチン(・・・)とした、『 配 』 をな。 あんな馬鹿者では無く、お前を愛して、フェベルナを愛する者をな。 これは、兄上の『懸案事項』でも有り、俺の願いでもあるのだからな」


「大兄様のお気遣い、そして、ちい兄様…… 有難うございます」



  ―――――



 早速、ちい兄様は動かれたご様子。 ちい兄様の副官殿を次に見た時、とても良い(・・・・・)笑顔で、親指を上げてらしたし、アマリアに至っては、王宮侍女の方々に特選された『化粧品』での化粧方法を伝授して頂きながら、ニヤリと私の方を向いて笑っていたのよ。


 えっと…… えっと…… 何よ……  私だって、もう十八歳よ? 心に秘める方くらい、居てもいいじゃない。 それが、御婚約者でなくってもッ! 表沙汰になってなければ、この想いは、私だけの物なんだものッ!


 二日後の夕刻。 晩餐の時。 ちい兄様がダイニングで私の前に座って難しい顔をされていたわ。 副官殿、なんとも言えない笑みを浮かべているのが気にかかるの。 ちい兄様は、ちょっと居住まいを正されて、私に向かって言葉を紡がれたのよ。 キョトンとしている私にね。




「マロン。 おまえ、トンデモナイ御仁と友誼を結んでおったのだな。 あちらで詳しくお話を伺った。 農事の専門家であった、アグリカル公爵様の秘蔵の家臣団。 その取り纏めをなさっていたのが、ウイートバーレイ伯爵家だったのだよ。 御三男であり、農務官の職位しか取得されては居らぬランドルフ殿も、農事に関しては相当な専門家。 そして、常に大地に対して真摯に居られるのか、俺の威圧感(鬼気)など『そよ風』が吹くのも同じと云う風であった。 ……なかなかどうして、外見にそぐわぬ、『心根』凄まじき方であった。 アノ見た目に騙される者も多かろう。 そして、地味な御研究は、中々に評価しにくい面もある。 が、しかし、あの御家の方々の力、何としても西部辺境伯家に招聘せねば成らない。 幸いにして…… マロン。 お前が受け継ぎし家名は、あちらに於いてとても大切なモノであった。 御当主が ”お約束を果たせそうです”と、仰っておいでだった。 最終的に、御当主殿より、ランドルフ殿を招聘する事に関して、ご理解を戴け お許しを得た」


「誠ですかッ! ちい兄様ッ!!」


「その後の事は、これからどう転ぶか判らぬ。 陛下の条件を満たさぬ限り、彼の御仁との(えにし)は、主従の関係性に留まると思え。 それでも良いか?」




 そうね…… そうなの。 陛下がお出しに成られた条件を満たさぬ限り、私の配は、今の御婚約者様以外には許されないのよ。 例え、大兄様にお願いしても、国王陛下の御様子から、覆る事は無いと思えたから…… 深く息を吸い、少しづつ吐き出す様に、ちい兄様にお応えするの。





「えぇ、あの方をフェベルナにお招きできるのであれば、西部辺境域は豊かな大地に成りましょう。 マロン=ファス=モルガンルース=アグリカル龍爵として、大切にその身を安んじ、西部辺境領を、そして、フェベルナを、導いて下さると確信いたしております」


「お前の『心』は………… 別にか?」


「その事は…… また、別の『思案』となります故。 戦闘馬鹿で、垢抜けぬ、田舎令嬢のわたくしで御座いますれば、あの方には、『女』として見て頂けぬ事くらい…… 判っております」


「マロン…… 成らんぞ。 自分を卑下するのは、お前の悪い癖だ。 お前はフェベルナの地にあって、無二の存在。 そのお前が卑下してどうするのか。 フェベルナの地を侮辱するか。 しかしな…… そうか……。 あちらバカ者次第か。 わかった。 方々に、様々な思惑があろう。 我等(辺境伯家)は、敢えて手出しはせぬ。 マロン。 お前はお前が思うままに…… な」


「はい…… ちい兄様」




 そうよ。 私は『公人』として…… やらねば成らない事が山積しているの。 私人としての私の想いは、二の次になるのよ。 だけど、少しでも…… 愛しい方を近くに感じたいの。 その位の我儘は…… って、ダメよね。


 お母様は、どうされていたのかしら? お母様の御心に有った方って…… いらっしゃったのかしら? もし仮にそんな方がいらっしゃったとして、お母様御自身の想いを覆い隠し、貴族の責務を果たせる様な、そんな『責任感』を、私は持てるのかしら?


 この先の行く末を思うと、すこし…… ちょっぴり、自分に自信が持てなくなるわ。


 『正龍会議(ムートス)』 も佳境に入り、あの準備会議から、既に一週間以上も経っていたわ。 相当に様々な事柄が話し合われた様ね。 王国広報官様からの公示も細々とした王国法の変更が示されていたの。


 特に多かったのが、商務法。 色々と新たに登用された高級官僚(あちらの手)により、細々と変更されていた『モノ』が旧に復されると同時に、ちょっとした法改正も同時に行われていたわ。


 それは、税務法。


 かなりの『強権』を税務諸官に付与され、商会やら、ギルドやらの経理実態を調べられる様に改正されたわ。 不正蓄財やら、違法送金なんかを掘り起こす為の処置って所かしら? 変な事をしていたあちらの商会はきっと王国から逃げ出すわ。 大手であってもね。


 そして、軍務関連にも手は入ったの。


 本領軍は、まぁ、今は表立っての再編はされてない様なんだけれど、東方辺境伯家の商船隊の武装船とか、海上警備隊の警備艇なんかの、指揮権を一本化し王国海軍の設立を宣言されたわ。 所管は東部辺境伯。 そして、海軍総督にアンジェ様が指名されたのよ。


 海賊狩りとか、対外海上戦とかに特化した軍に成るわね。 頑張ってね。 お茶会の席で、アンジェがカラカラと笑いながら、いつもやっている事と同じだから、制度だけが変わっただけよって、云っていたわ。 でもね、王国が正式な軍組織にしたって事は、王国全土から上がる税収から、相当の資金も拠出されるわ。 その辺りは、どうなるのかしらね。


 生暖かく、見ててあげましょうか。


 北部辺境伯の治める、北側の国境からは、常に何かしらの情報が王国に伝えられていたらしいわ。 主に、帝国の副帝領反乱に関する事ね。 シェス王国は、帝国本領側に付く事になったって。 色々と混乱に晒されていた王都も、この『正龍会議(ムートス)』で、挙国一致が望めそうだから、正式に立場を表明出来るんですって。


 まぁ、その前に、王国本領に於いての大掃除が必要って事で、『正龍会議(ムートス)』の合意は取れた様ね。 ちい兄様が、こっそりと特別室の中で、教えてくれたのよ。





 その大掃除に選ばれた機会がね……






  『 擾乱鎮定 祝賀大舞踏会 』 って云うのが、また……


 




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