9話 王家の女性方との茶会は恙なく。 策謀の片棒を担ぎつつ、状況好転の兆しに心安らぎ、高潔なる老婦人がご用意して下さった夜会に出席した 私。
『有意義な御話』は、始終 和やかな雰囲気で終わったわ。 とその時、涼やかな御声がもう一つ。 茶会の席に向かって紡ぎ出されたの。 茶席の渦巻く思惑の総量上回る、淑やかで穢れない美しい感情の発露の様な美声。 何よりも、陰鬱とも云える重い雰囲気をも、一瞬の内に掻き消す ” 朗らかな御声 ”
御三人様と私は、その声の主を知っている。 知っているからこそ、席を立ち、深く淑女の礼と騎士の礼を捧げるのよ。
「皆様お揃いで。 お母様、何故に呼んで下さらないの?」
「これ、リリーア。 はしたない」
「お母様! わたくしを御呼び下さらないなんて、酷いでは御座いませんかッ! なにより、西部辺境伯家の御令嬢がいらっしゃると………………」
私の方を見て、第三王女 リリーア=サルド=ブラーシェス殿下が、声を失う。 絞り出す様な声で、暫くしてから言葉を紡ぎ出されたわ。
「ご、ゴブリット様?」
いえいえ…… 私は、ちい兄様の様に大きくは御座いませんわよ? それに、短い髪のせいで、漢に見えましたの? あぁ、この儀礼甲冑のせいでしたか。 顔を上げて第三王女殿下に素顔を見せたの。 また、絶句されている。 まぁね、儀礼装甲に描かれている紋章は、ちい兄様のモノとは違うしね。
「第三王女 リリーア=サルド=デ=ブラーシェス殿下の御足下にて拝謁出来ました事、心より感謝申し上げます。 西方辺境伯が次女 龍爵マロン=モルガンルースに御座います。 お見知り置きを」
「えっ、あっ、はい。 貴女がゴブリット様の…… いえ、失礼。 リリーアです。 見知り置くわ。 それにしても…… 龍爵様とはそれ程までに御覚悟が必要な…… そんなぁ……」
「この様な姿にて、お茶会のご招待を受けし事、誠に申し訳御座いません。 しかし、王城に伺候する時には、持てる最大の敬意を示さねば成りません。 故に、「龍爵」が正装にて伺候いたしました」
「ご、ごめんなさい。 貴女の姿を目にし、一瞬、ゴブリット様かと思いました。 いえ、良い意味です。 流れ出る覇気と、その甲冑を知っていた為です、 西部辺境伯様は…… 随分と思い切った叙爵をされましたのね」
「辺境の危機に於いては、断固たる決断が必要なのです。 それに応えるのも、辺境の貴族家に生まれし者の義務でも有ります」
「……『西方飛龍』 王宮にて伺った事があります。 西部辺境伯様は『二人の護国龍を従える』と。 御一方は、西方守護の要 『西方伏龍』たる、モルガンルース龍爵ヘーゲン卿。 もう御一方が、国境と西方辺境領の柔らかい下腹の管理者、『西方飛龍』たる、モルガンルース龍爵フェベルナ卿。 貴女が…… そうだったのですね」
「特段の事情がわたくしに、『その役割』を求めました。 果たさねば、フェベルナの地は…… 西方辺境の半分は混迷に沈みます。 もしそれが現実のものと成りましたならば、とりもなおさず、王国の西方に大いなる災いを引き寄せる結果と成る事は、西方辺境伯様には『自明の理』であったのでしょう。 非才にして矮小なるわたくしが、その任に付く事は、余りにも力不足。 しかし、時と状況は待ってはくれません。 フェベルナ地の者達と、御当主様、ゴブリット兄上の助力の元、何とか任を全うしておりました」
「貴女の王国と民に対する献身に感謝を。 今後も護国の龍たる貴女で居て貰いたいわ」
「御意に。 わたくしの力の及ぶ限り」
「期待しております」
リリーア殿下は、他のお三方とは既にご面識有りなのね。 軽くご挨拶を終えた後、そのままテーブルに付かれて後、私達に席に着く様に仰ったの。 困った顔をしていた正妃殿下も、お茶会の続きとばかりに、今度は柔らかな『お話』を始められたわ。
主に、貴族の御子息、御令嬢の御婚姻関連のお話。 ちょっとリリーア殿下が嫌そうな表情を浮かべられるの。
――― 理由は有るのよ。
余り大声ではお話出来ない内容の…… それでも、この国の者ならば誰もが知っているお話。 そのお話に深く関わっているのが、ちい兄様でも有るから。 私も詳細は判らないけれど、大筋は知っているのよ。 でも、それを膾炙に上げる事は無いわ。
ちい兄様が王都で一目を置かれる様になった原因は、この目の前の第三王女リリーア殿下が狙われた『誘拐事件』のせい。
リリーア殿下が王族として王都、王城城下の孤児院に慰問に訪れた時に、どこかの馬鹿がリリーア殿下の誘拐を企て、実行したのよ。 危うく成功しそうになった。 事件自体は早々に暴かれ、最速とも云える速さで解決したわ。 背後関係はかなり詳細に調べられたらしいけれど、主犯逮捕にまでは行きつかなかった。
緘口令が敷かれたにもかかわらず、情報が洩れたのが痛恨の出来事だったの。 リリーア様が一時的にでも、御身柄を拘束されたために、国として重要であった、彼女の『ご婚約』が流れたのよ。
御相手は帝国本領の王子殿下。 攫われ軟禁されたと判った場合、その純潔に疑義が差し挟まれる事態に発展するわ。 だから、リリーア殿下の御婚約は白紙に戻された。 帝国との同盟をもっと深く堅固にする為の国策であったのだけど、それも立ち消えた。 その上、リリーア殿下の御相手が、未だ決まらない事態に成ってしまったの。
事の顛末としては、誘拐劇はあっという間に収束したわ。 その立役者というか、『白馬の騎士』の役割だったのが、たまたま城下に居りていた”ちい兄様 ”だったって事。 まだ『単年度学生』だった ちい兄様が、お仲間と城下に繰り出していた時に発生したのよ、この事件が。
ちい兄様の周囲には、子飼いの辺境領兵が常に侍っていたしね。 そして、その方々はとても『良い耳』を、お持ちの方々だったの。 我が領では『夜鳴鶯』と呼ばれる辺境伯家の影の者達の事ね。 ちい兄様が暴走しない様にって、御当主様がお付けに成っていたのよ。
そんな方達が、城下にお出ましに成っている第三王女殿下の事を見逃すはずは無いわ。 不埒者共の動向は逐一ちい兄様にご報告に成り、衛兵団や近衛騎士達が動く前に、仮の軟禁場所に突撃。 お仲間様達もそれに引き摺られる様に、同様に突撃。
辺境の伏龍たるお兄様の戦闘力は、それはそれは恐ろしいほどのモノなのよ。 あっという間に手練れの不埒者達は斬り伏せられ、第三王女殿下を、お救いに成ったという訳。 不埒者達が全員切り伏せられてしまったおかげで、背後関係が判らなくなったって、溢される捜査関係者の方も居たけれど、第三王女殿下の御身を護った事には違いなかった。
強面のちい兄様は、事件については、黙して語らず。 その事を話す事は国益に反すると、ちい兄様も判っておいでだったのよね。 ちい兄様への『報償』も『誉れ』も何もかも”うやむやと成し ”、王家及び貴族院は、『事態の隠蔽』を計っていたの。
そうね、その事が帝国に知れれば、第三王女殿下の御婚約が破れてしまうのは、誰の目から見ても「自明の理」だからね。 そんな緘口令が敷かれていた状態でも、やはり何処からは事態は洩れてしまった。 ちい兄様は黙して語らないけれど、お仲間さん達がね……
で、その情報を掴んだ帝国側が、事態の真相を王家に迫り、やむを得ずお話しした結果、第三王女殿下の御婚約は白紙に戻されたという訳。 その後、王家の方も何とかしたかったらしいけれど、リリーア殿下の心情も慮り、未だ御婚約者様の選定は止まっている。
と云うよりも、リリーア殿下御自身が持ってこられた話を悉く撥ねつけられているとの御噂も有るのよね。 なんでも、心に一人の漢の方を住まわされているとかなんとか…… 誰なんだろうね? こんなに見眼麗しい『姫様』なんだもの、その方は果報者としか言えないわ。
にこやかで、穏やかな「お茶会」も、陽が傾き始めた事で終わりを迎える。 正妃殿下に今度はドレス姿で御越しなさいと云われるけれど、それは無理って云うモノよ。 お恥ずかしい限りではあったのだけど、私の事情を少々述べて、ご容赦頂いたの。 とっても、難しい御顔をされていたわ。
「宰相家は…… 自ら望んでいた事なのに、その様な不敬を成しているのですか」
呟かれる言葉に、ちょっと引いたのは、内緒。 静かな怒りと云うモノを感じたからだったのよ。 女性の最高位の方に睨まれたら、それこそ社交界に於いてとっても不具合が出る事は間違いないわ。 …………でも、まぁ、私にとっては ” 知った事では無い ” から、何も言わなかったの。
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王立学園に於いて、まぁまぁの状態に落ち着いたのは、王宮での「お茶会」が終わってから。 なにより、宰相家別邸での『お勉強』に費やされる時間が無くなったのが、私の自由時間を大幅に増やしてくれたのよ。
そうなれば、あの『お茶会』で話し合った事を実行するべき時ね。 『夜鳴鶯』の者に王都での不正売買に関する情報収集を命じ、その結果を私だけでなく、王家の『耳』にも届ける様に頼んだ。 あちらから何かしらの情報が有れば、それを開示し私と御当主様とちい兄様にお伝えする様にもね。
リッド様のお陰で、幾つかの御家の方々ともお近づきに成れたわ。 それまでは、たとえ「ご招待状」を戴いても、ご遠慮しかできなかった私だけど、大きく時間が空いたのと、御婚約者様が命じられた貴族との交流不可の御達しをお兄様が解除して下さったモノだから、リッド様のお眼鏡に叶った方々との交流が始まったと云えるのよ。
大きな事と云えば、グリモアール=エスト=バレンティーノ翁侯爵夫人の主催する「夜会」に、一度お呼ばれした事ね。 その御招待状を戴いた時に、仲良くしてもらっている『三夫人も、ご一緒しても宜しいか』と、お尋ねしたのよ。 快く申し出を受け入れて貰えたわ。 まぁ、着ていくドレスが無かったのは確かなんだけど、其処でね……
リッドが、準備してくれたのよッ!! これって、何? 賄賂? 付け届け? こんなに良くしてもらっても、穀物取引価格の年次更新は、厳しく審議するわよッ!!
でもそれは、とっても素敵なドレスだったの。 ” わたくしの商会が扱っている、既製品よ ” ってそう云われたけれど、私にとっては、私だけに与えられたドレスなんて、ほんと子供の時以来なんだからねッ! 有難くて、有難くて、思わず抱きしめてしまったほど。 アマリアに、しこたま怒られたけどね。
そのドレスを着用しての夜会。 其処にはグリモアール=エスト=バレンティーノ翁侯爵夫人、アントン=バレンティーノ君の姿は有ったけれど、実の弟妹であるフリオ、エステーナの姿は無かった。 更に言えば、バレンティーノ侯爵家の御当主も奥様であるお姉様の姿もね。
「これは、バレンティーノ翁侯爵夫人たる、わたくし『グリモアールの私的な夜会』です。 客人は、わたくしの友人と、貴女の推挙したかたしかご招待いたしておりませんわ。 どうか御ゆるりと楽しんで貰えればうれしいわ」
ってね。 まぁ、その参加者の豪華な事。 王国中枢の高位貴族の御家の方々。 一世代前ではあったのだけど、未だ王国では力持つ人達ね。 後進に席を譲られた、先の法務大官様 とか、未だ国庫を掌握している老財務卿とか……
流石、グリモアール=エスト=バレンティーノ翁侯爵夫人と思わせる、そう云った顔触れなのよ。 リッド達も最初は面食らっていたけど、其処は辺境伯家のお嬢様。 並みいる大人たちの間でも、揺るぎもせず「微笑を浮かべ」社交に邁進しているわ。
ええ、そうね。 これも、グリモアール様の御心遣い。 私も頑張って皆様と顔繫ぎの為の『社交』をしたわよ。 ええ、とっても、とっても、大事な事なんだものね。
交わされる会話と、紳士的なダンスのお誘い。 その御誘いに応え、踏むステップの最中の楽し気な『お話』 特に、財務卿とか警備局長様とか、色々と込み入ったお話をされるのよ。 コレは、きっと、正妃殿下の思召しって所かしら。 と云う事は、グリモアール翁侯爵夫人は、正妃殿下と繋がりを持っているって事ね。
如才なく、そして、淡々と歓談とダンスとに応えて行ったわ。 リッド達、三夫人様達も同じように情報の交換に余念が無かったの。 本当にこんな機会を作って下さった、グリモアール翁侯爵夫人には、何と御礼を述べて良いか判らない程。 本当の意味での『社交』を成せたと、そう思ったの。
面白かったのが、アントン=バレンティーノ君が、この夜会に於いて語られる話を、グリモアール翁侯爵夫人の横で聞いていた事。 虚々実々の遣り取りに、目を丸くして、混乱の極み。 それをお婆様であられるグリモアール翁侯爵夫人も優し気な目で見つめられ、少々の説明と、厳しい言葉でご指導されていたわ。
あんな小さな甥っ子に、「夜会」という大人の現場を踏ませるなんてね。 貴族社会の何たるかを実地で体験させ鍛えるって、エグイわ。 ええ、途轍もなくエグイ。 まだ、アントン君はたった四歳よ? 英才教育としても、エグすぎる。
他家の事とは言え、ちょっとね。 でもまぁ、グリモアール翁侯爵夫人の御考えも有るんだから、私からは何も言えない。 ちょっとだけ『お披露目』と云う割には、割と長い時間をホールでお過ごしに成った後、ぐったりとしたアントン君は、やはり、早々に退場されたわ。 ご負担に成らなければいいのだけれど……
でも、退出前にグリモアール翁侯爵夫人に付添われて私の元に来たのよ、アントン君。 不安げに私を見上げ、少しオドオドされながらも、しっかりと問いかけられたの。 少し腰を下ろし、目線を彼に合わせて彼の不安をお聞きしたの。
「マロン姉様…… 姉様はいつもこんな事を?」
「何時も…… では御座いませんわ、アントン様。 グリモアール翁侯爵夫人のお気遣いで、こうやって御国の御重臣方、力ある高位貴族の方々との面識を得られたのです。 夫人には、とても感謝しておりますの」
「……姉様は賢く強いですね。 私など、何が何だか……」
「まだ、お小さいアントン様です。 本来ならば、アントン様程の年齢の御子息は「夜会」に出席する事は叶いますまい。 礼法、作法の出来ていない者を「夜会」に出席させることは有り得ません。 グリモアール翁侯爵夫人は、アントン様の礼法、作法がこの場に出席するに「十分である」と判断されたに相違ありませんね。 御立派です」
「えっ、い、いいえ、そんなぁ…… 何時も怒られてばかりです……」
「もし、不出来ならば、グリモアール翁侯爵夫人は何も言われないでしょう。 また今宵の夜会にも一切出席をお許しには成られませんでしたでしょう。 こうやってお話する機会も無かったかもしれません。 夫人が、ご指導されるのは、ご期待に応えられた者だけだと存じます。 より高みを目指し、御研鑽あそばされませ。 その道に間違いは御座いませんわ」
「そ、そうなの? 家の者は優しくしてくれるのだけど、お婆様は何時も厳しく……」
「光に至る道は常に暗く細く狭いモノです。 研鑽を怠れば、闇に落ちますわ。 行きつく先は、横暴なる者となり、光から遠のき、国民、領民の安寧が破られるでしょう。 御家の没落に繋がるかもしれません。 グリモアール翁侯爵夫人はその事を良くご存知なのです。 アントン様にそうなって欲しくないとの思召しで御座いましょう。 時が来て、アントン様が大きく成られた時に、真に感謝を捧げるべき人が誰であるか、きっとお判りに成る事でしょうね」
「……判りました。 私も姉様のように頑張って研鑽します。 あ、あの……」
「何でしょうか?」
顔を赤らめ、両手を後ろにして、少しモジモジとされる。 なんて可愛い仕草なんでしょう。 もう、私の甥っ子は天使の生まれ変わりかしら?
「わ、私がもっと大きくなって、相応しくなれれば…… ダンスをお姉様に、所望しても?」
「まぁ、嬉しくてよ。 その時はどうぞお願いいたしますね。 その時をお待ち申しておりますわ、アントン=バレンティーノ様」
「あ、ありがとう!!」
なんて遣り取りまであったのよ。 グリモアール翁侯爵夫人はその様子をアントン君の後ろで聞いておられて、とっても、とっても、慈悲深い笑みを浮かべて居られたの。 まるで聖母像の様な慈しみ深い表情で、アントン君を見詰められていたわ。 うふふふふッ 孫は何よりも可愛いって云うモノね……
そして『夜会』は恙なく終わり、帰路に着く時間に成ったの。 皆様も三々五々お帰りに成り始めている。 私もまた、グリモアール翁侯爵夫人に御暇を告げる。
「この夜会に、ご招待して頂きました事、誠に有難うございました」
「マロン嬢、アントンへの言葉、嬉しく思いました。 まだ早いと思いましたが、決断して良かったと。 アレは時折不安に成るのです。 息子とその妻が、妻の弟妹達を慈しみ育てている事をね。 自分が バレンティーノ侯爵家の継嗣である事を疑う程に。 だから、私は殊更にあの子にその矜持を持って貰いたくて……」
「理解しておりますわ、グリモアール翁侯爵夫人。 夫人の教えと導きは、バレンティーノ侯爵家の御継嗣様にとっては無くてはならない物で在ります事は、この夜会にいらした方々には明白ですもの。 皆様は、御継嗣様の恙ない成長にご期待を寄せられますわ。 未来を担う、大切な方と認識されておられましたもの。 アントン様に嫌われる事を恐れる事無く御教育されている翁侯爵夫人の事は、皆様も、わたくしも理解しております」
「ありがとう…… そう云って貰えると、嬉しく思います。 どうも、屋敷の者達には理解されづらくて…… マロン嬢。 もし宜しければ、時間が有ればではありますが……」
「喜んで、ご訪問いたしますわ、グリモアール翁侯爵夫人」
「アレも喜びましょう。 そうして頂けると、アレも、わたくしの真意を受け取ってくれるわ」
「そうで有る事を願いましょう」
お別れのご挨拶の時に、そんなお話をしたわ。 あまり頻繁にお伺いするのもなんだから、たまに…… たまにね。 あと半年程の間に、どれ程 来訪できるか判らないけれど、敬愛するグリモアール翁侯爵夫人の御心を安んずるためにも必要な事だと、理解したわ。
高位の貴族家の皆様ともご面識を得られたし、なにより、同じ辺境伯家の皆様とも仲良くさせて頂いたわ。 これで、何事も無く過ごせれば、大過なく王都での『単年度学生』の生活も終えられると思っていたの。 でもね……
世の中そんなに、甘くは無いって事が、私の身に降りかかるのよ。




