はじまりの街《ルーラ》
舞は楽しい。いつも舞う度に思う。ひとつひとつの動きが綺麗に見えるように、指先から足の先まで意識して、丁寧に丁寧に……
そうして、気づけば最後の1拍になっていた。
舞い終わり、余韻に浸っているとパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、いつも元気なレナが目に涙を浮かべて一生懸命拍手をしてくれていた。
「最後まで見てくれてありがとう。お陰で楽しく舞えたよ」
『こ、こちらこそなのー!!!
とっっっっても素敵な舞を見せてくれてありがとーなの!感動して泣いちゃったなの!』
涙が出る程感動してもらえるなんて嬉しいな。レナの反応が、僕が初めて最後まで舞うことが出来た時の姉さんの反応そっくりでちょっと面白い。本当によく似てるよ。
「ありがとう。そう言って貰えると自信がつくよ」
それからしばらくの間、2人でのんびりとお喋りをして過ごした。レナの話は同僚の愚痴や面白エピソードばかりではあったが、妙にリアルで聞いていて飽きなかった。
特に、普段生真面目でレナもよく怒られるという人が、実は超がつくほどの甘党でお菓子を食べる女子をチラチラと見てはため息をついていたという話は実際に見てみたくて仕方なかった。
楽しい時間とはあっという間に過ぎるもので、とうとうサービス開始の時間になった。
『ではでは!カグヤが紡ぐもうひとつの物語に祝福を!なの!!この世界をたっくさん楽しんで欲しいなの!
またね!ミーの友だち!!』
「またね、レナ」
目の前が淡い光に包まれて、レナの姿も見えなくなった。
そして、次に目を開けた時……
『ようこそ!はじまりの街“ルーラ”へ!』
そう大きく書かれた垂れ幕が目に入った。
周りを見ると、どうやらここは街の外らしい。垂れ幕の下には門があり、門番らしき人が立っている。
「これは、あの街に入れって事でいいのかな?」
さっき、レナと話していて分かったことだが、どうやらこのゲームには所謂“チュートリアル”というものが存在しないらしい。『分からないことは住民に聞け』だそうだ。
ちなみに来訪者と住民を区別できるようなアイコンも無いため、誰が来訪者で誰が住民かは話してみないと分からない仕様になっているそうだ。
という訳で、とりあえず門番らしき人に話しかけて街に入ってみようと思う。
「すみません。少しいいですか?」
「はい、何でしょう?」
おぉ!凄い。
レナと話していても感じたことだけど、お巡りさんみたいな雰囲気といい、やっぱりAIだとは思えないリアリティだね。
「はじめてこの街に来たんですけど、入っても大丈夫ですか?」
「もちろん!ようこそ、ルーラへ。
犯罪歴の確認だけさせて頂くので、この水晶に手をかざしていただいてもよろしいですか?」
そう言って彼が指し示したのは門の前にある台座に置かれた水晶だった。
近づいて手をかざすと水晶は緑色に光った。
それを見た彼はピクリと眉を跳ねさせたが、一瞬で元のにこやかな表情で話し出した。
「ありがとうございます。問題ありません。
では改めて、ようこそはじまりの街、ルーラへ。この街での時間が楽しく過ごせますように。」
「こちらこそありがとうございます。
お仕事頑張って下さいね。」
僕の返答に笑みを深めた彼は一礼してまた門の外へ視線を向けた。
僕も礼を返して街に入ろうと一歩踏み出した瞬間、彼は世間話でもするように話しかけてきた。
「あ、そうだ。冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ行った先の噴水の前にありますよ」
既に背を向けた彼の顔を見ることは出来なかったけど、きっとそこに行った方がいいと言うことなんだろう。
「親切に、どうもありがとう」
新しい場所、新しい人、全てが新鮮なこの世界への期待を胸に……
あの水晶は犯罪歴は赤、一般人は青、そして、来訪者は緑に光るということは大分後になってから知ることになるのであった。
やっとゲームがはじまりました!
さて、街に入ったカグヤの第一声とは!?
たくさん応援して頂けてとっても嬉しいです!
これからもよろしくお願いします(_ _)




