ドロ甘に耐え抜いた
シリアス展開終了のお知らせ。
最推しが泣いてしまって戸惑っている白ブタこと美女です。
どうしてこうなった?
私は最推しを不快にさせた従業員へ地味な嫌がらせである減給を命じただけなのに。権力者バンザーイってやっただけなのに!
泣き顔に母性本能が擽られます。
そしてめっちゃ抱きしめられてるよ!?
ダンジョンのときなんか比じゃないぐらい力強く。
ご褒美!ご褒美です!好感度MAXのイベント発生やったぁぁぁ!
いや、ここ乙女ゲーの中じゃないし違うか。
泣いて体温が上がってるせいか、さっきと違ってフルーティーというよりは最推し本来の体臭がする。
うん、普通に好き。遺伝子レベルで相性がいいってことですね!?
個人的には泣き顔うまうま、ずっとハグしててもらっても構わないのだけれども。
ドアの前に気配が2つ。副料理長たちだよね。
入りづらいよね、分かる。
最推しの泣き顔は独り占めしたいしなぁ。同担拒否最推しガチ勢なので、そこは譲れない。
仕方ない、泣き止んでいただくことにしましょう。
「アレン様?」
「──っ。み、しぇるっ。」
うぐぐぐぐっ。み、耳元でかすれ声で名前を呼ばれるのはちょっとシンドいぃぃぃ!
肉食系女子になってしまうっ!!
押し倒せってこと?白ブタが不細工を押し倒すの?
何それ、超やりたい、けど、我慢!!!
「落ち着きましたか?お食事にしましょう?」
「嫌だ。このまま……。」
……うん。据え膳?据え膳だよね、これ。
なんなの。なんで我慢しなきゃいけないの。
全年齢指定だから仕方ない?
うぅ、世知辛いよぅ。
人生の酸いも甘いも分かってる精神年齢なのにっ!くっ!
「じゃあこのまま食べますか?少し食べ辛いかもしれませんが……。」
「あぁ、それがいいな。」
ちょっとバカなこと言ってるなって思ったんだけど、まさかそれにはいと答えるとは思ってないじゃん?
最推しが私を抱き上げてそのまま椅子に座るとか思わないじゃん!?
お米様抱っこならともかくお膝抱っこになるとは予想だにしなかったよ!!!
お米様抱っこじゃご飯なんて食べれないけどさ!
うわー、凄い。
会って1日も経ってないのに好感度カンストさせる私は乙女ゲー玄人かよ。最短ルートかよ。
……って違う、現実逃避いくない。
「あ、アレン様?」
「これならミシェルと一緒に食えるな。」
「んんんっ!そ、そう、です、わね。」
「……嫌か?」
あぁぁぁぁあぁあっ!!い、犬耳が見える。
これは幻覚ですか!?そうですかっ!!
もういい。私の羞恥心や穢れた欲望よりも最推しの笑顔を守る、それが使命だ。
例え鼻血が出そうでも、尊死しそうでも最推しの願いは叶えるべき。
「アレン様が重くないのなら良いのですが。」
「ミシェルは軽すぎる。もっと食べた方がいい。」
「そ、そうですか?これでもちゃんと食べてますわよ。」
「もっとだ。」
「ん゛ん゛ん゛んっ。」
あー、もー。
何だろう。セリフが全てピンクな方向に変換される。
ううっ……。最推しを穢してる気分。
聖女なのに穢れすぎ。剥奪されるんじゃ、これ。
落ち着け、落ち着くんだ私。
すってー、はいてー、すってー。
「ミシェル様。料理をお持ちしました。」
「あ、え、えぇ。入ってちょうだい。」
「失礼します。」
「「……は?」」
流石にもう待っていられなかったのか、入室許可を出したが、そうだよね、驚くよね。
目を見開いた2人に乾いた笑いを返す。
後でお父様に報告しないように念入りに、それはもう念入りかつ賄賂を渡しながら説得しなくては。
「……このことは内密に。色をつけたお給金渡しますから。さ、料理を並べて下さる?」
「は、はぁ……。」
「ふふっ、ミシェル様もついに、ですわね!」
何だろう、多分だけどさ。
副料理長は美醜感覚はこの世界で普通だろうけど、奥さんの方は私よりな気がするんだよね。
まさか同じく前世持ちなのではと思うのだが未だに聞けていない。
秋田でハマったかりんとうを再現した日も、大坂ソウルフードのいか焼きを再現した日も、博多名物もつ鍋を再現した日も。
どれも偏見なく美味しそうに食べてたからワンチャン有り得るんだよね。
うーん……いつかは解明しなきゃなぁ。
「じゃんじゃん並べていきますわ!たくさん召し上がってくださいね!」
「えぇ。あとこの間お父様からいただいたワインもだしてちょうだい。」
「あー……今日のメニューだと赤も白も合いますけど。どうします?」
「じゃあ赤をお願い。アレン様は?」
「ミシェルと一緒でいい。」
この世界だと成人は15歳からなので私もお酒が飲めるのが嬉しい。
おっさっけっが大好き大好きー!な前世の記憶を持つと15年の断酒は辛かった……!
あ、決してパリピとかではないよ。
最推しを誕生日とか勝利とか祝って飲んでたらお酒に飲まれただけであって、断じて違う。
「見たことない料理ばかりだ。」
「えぇ、マンジェーズでは色々な創作料理を提供しているのでアレン様のお口にあえばいいのですが。苦手なものがあれば残していただいて大丈夫ですわ。」
「あぁ。……これは?」
「それはコカトリスと野菜の煮物ですわ。」
興味津々なアレン様に料理の説明をしていく。
因みにコカトリスは鴨肉そっくりな味だった。
他に天ぷら、お寿司、あら汁に卵焼き。
あ、小さい冷し蕎麦もある。
今日は和風攻めか。不健康な量が並んでるけど健康的に感じるのは日本食マジックなんだろうか。
「……はい。」
「えぇえ!?」
「いらない?」
「え、あ、はい。」
フォークで煮物を刺したと思えば、私に差し出してくる最推し。
こ、これは俗に言うあーん。普通に口開けて咀嚼するけど、良いのかな。
最推し、私に甘すぎない?どっかのネジ外れた?
「美味しい?」
「え、えぇ。とっても。アレン様もどうぞお食べください。」
「あぁ。」
お口いっぱい頬張り、もぐもぐしてるの可愛いっ!可愛いけど!!
これ食べ終わるまで私は永遠あーんさせられるの?フォーク取ろうとすると邪魔されるんですけど!
悪役令嬢による暗殺前に最推しに殺されそう。
「美味しい、な。」
「……そうですわねぇ。」
な、なんだろ。
こう、なんて言うの?
パパみを感じる。おかしいな。確か年齢3歳しか離れてないよね?
なんでそんなに慈愛に満ちたような目をしてるんでしょうか。
え、私娘ポジ?いーやーだー。私は嫁になるの!!断られたら娘ポジで我慢するからぁぁ!
「あ、あの。」
「ん?」
「わ、私はっ!むぐっ。」
「俺が食べさせる。嫌?」
むしゃむしゃ……。
ま、負けだ。完敗だ。戦う意思が私にはない。
もういいよ。
最推しに挑もうなんぞ100億年早かったわ。
「もう、お好きになさって下さい。」
「あぁ、そうする。はい、開けて。」
「あーん……。」
まあ、最推しが楽しそうだから何でも良いのだ。そこの生温かい目で見てる夫婦がいなければ。
後で質問攻めにあうんだろうな。私この2人の上司なはずなのに口じゃあ勝てないんだよなぁ。
いつもお見合い話し持ってくるし、お父様とも仲が良いし、お母様と副料理長は幼馴染だし。
割と逃げ道が少ない。
この人たちが変なことを両親に知らせた瞬間、私は家に呼び戻され、イケメンたちとお見合い三昧だ。
それだけは回避しなくては。
「アレン様。少しだけお時間よろしくて?」
「ん。」
「マンジェーズの従業員で私の家族とも仲のいい2人なのでご紹介したいのですが。」
目線を2人向ければ、最推しもゆっくりと視線を向けてから目線を下に向けた。
目を合わせないようにしているのだろうか。
「副料理長のジェフだ。」
「会計兼給仕のアリーナですわ。」
「アレン。ただのアレンだ。」
小さめな声は2人には届いたのだろう。
そして副料理長も最推しの気持ちはよくわかるはず。
彼も私が雇うと言ったとき、こんな不細工を雇うなんてと悪態をつかれた。
個人的には不細工だからオッケー的にしか思ってなかったんだけど、それは置いておこう。
「たらふく食ってデカくなれよ、アレン。」
「そうですわよ。旦那の料理、美味しいでしょう?たくさん食べなさいな。」
あぁ、そう言えばアリーナは子供が出来ない体だって言ってたな。
だからかな。私を可愛がるのは。最推しも是非とも親のように、今みたいな感じで構い倒していただきたい。
きっと、最推しに必要なのは人から愛されることなのだから。
誰も愛さないなら私のが全人類分愛しますけどね!任せろ!
「……あんたたちは気にならないのか。俺の顔。」
「あー……まぁ、お世辞にも整ってるなんざ言えねぇな。」
「あら?ハッキリ言うわね、アナタ。」
ジェフ、もっとオブラートに包んでくれてもいいと思うの。そしてアリーナは旦那を躾ておいて欲しかった!
「いや、悪気はねぇぞ?俺もこんなんだから色々言われたけどよ、今は別嬪なかみさん貰えたし、プロポーズするときお嬢、ちげえ、ミシェル様にガツンと言われたからな。」
「あぁ、あのときのお嬢様は素敵でしたわね。女ながらに惚れてしまうかと思いましたわ。」
んん?私なんて言ったっけ?
「見た目気にして愛を伝えられないならそんなん愛じゃないって言ったの覚えてないんですか?」
「続けて顔で振る女だったら大した女じゃないからさっさと行けって叫んでましたわね。私も聞こえちゃったものだから吃驚でしたわよ。」
……黒歴史ぃぃぃ!!
思い出した。あんまりにもジェフがウジウジしてるから頭引っ叩いてつい令嬢という立場も忘れて叫んだんだった。
結果オーライで2人は早々に婚姻を結んだし?
距離のあったジェフは親戚の叔父さんレベルに仲良くなれたし?
アリーナは……怖かったなぁ。
私が顔で旦那を選ぶとでも?って言われたとき絶対後ろに般若とか魔王とかそういうのが見えたもん。
逆らっちゃいけない人だ。
「ま、そういうわけで、アレン。お前も頑張れ。」
「相談ならいつでものりますからね。」
「……あぁ。ありがとう。頼むよ。」
最推しがふわりと笑う。この2人には今後も会わせても大丈夫だな。
じわじわと人と関わり合うことに慣れてもらおう。
まずは私の権力が届くこのマンジェースから。
高難易度ダンジョンをクリアすればギルドや冒険者たちも見方は多少変わるはず。
あとは、そうだなぁ。国にも認めてもらおうか。
誰もに認められる存在になったら、最推しが1人でも生きていられるようになったら、私は満を持してプロポーズをしよう。
全てを手に入れても、この美女を選んでくれるかなんて分からないけど、選んでもらえように私も精一杯の努力をしよう。
・花嫁修業を計画中
ブレない変態。脳内はお遊びと欲望でいっぱい。
最推しのドロ甘具合には白旗を振る。
黒歴史は忘れていただきたい。
・目も鼻も真っ赤
夢じゃないと思いたいだけ。ご飯うまい。
途中スンスン言ってるといい。可愛いから。
夫妻と話してみて類は友を呼ぶのかなって思ってる。ヒロイン(笑)の周り凄い。
・8歳児に頭叩かれた
わりと痛かった。タンコブが3日も治らなかった。
でも勇気をくれたヒロイン(笑)だから許す。
次回殴るときは前もって言って欲しい。鍋を被るから。
・怒ると怖い
元々プロポーズされたら受けるつもりだった。
あんなの聞こえたから断りづらくて受けたんじゃないかと周りに言われてちょっと(?)八つ当たりしただけ。