詐欺師と疑われた
最推しが一緒だからか冒険者登録テストはなしになった白ブタです。ぷぎぃー!あれ、私いつの間にブタの鳴き声やるようになったんだろ?
……今後気をつけよう、私は美女!
というか、流石最推しだよね!テストなしにしてくれるとか神様の生まれ変わりかな?拝んでおこう。
「あー……何、してるか聞いていいか?」
「テスト免除のお礼ですわ!」
「うん、それはミシェルの魔力量のおかげだから。」
「あら?そうなんですの?」
そういえば何か変な水晶触らされたけどあれかな。
触ったらレインボーに光って凄い綺麗だった。
登録おめでとうの演出だと思ってたんだけど違ったらしい。
知らなかった!知ってたらもっとあの場で喜んだのに!
まぁ、いい。だって今から最推しとダンジョン攻略!
Fランク冒険者向けだから簡単らしいけど、最推しとの初ダンジョン!
「レベル的には問題ないと思うけど、ダンジョンは初めて、だよな?」
「はい!ダンジョンから出てきたモンスターはそれなりに倒したことがありますが、ダンジョン内に入ったことはありませんわ!」
「……ん?倒した?」
「えぇ。羽の生えた黄色い蜥蜴みたいなのや青い鶏みたいなのがよくシーボルト領内に来るんですの。」
「えーと……、それこんな姿だったか?」
「まぁ!その通りですわ!」
「……俺必要ないんじゃないか?」
差し出されたギルドの討伐依頼書には私が領内で魔法の練習台にしていたモンスターたち。
CとかBランクって書いてるけど、おかしいな。
アニメの中じゃあれは初級モンスターだからDとかFのはずなんだけど……。
「倒したモンスターは因みにどうしたんだ?」
「あぁ、それでしたら空間魔法でこのポーチの中ですわ!ギルドに行ったら換金しようと思ってたのですけど、色々あって忘れてしまいましたわね。あとで換金したらアレン様に授業料としてお渡ししますわ!」
白ブタには体力がないので一番最初に覚えたのは空間魔法だった。
他にも体力がないから移動魔法とか覚えまくったな。
……動かないから白ブタから子ブタに進化できないの?
「凄いな……流石は聖女様、か。」
「重いのが持てないので工夫しただけですわ。」
「あぁ、あと、ステータスは誰にも見せない方がいいぞ。聖女に加え2つの加護持ちで伯爵令嬢だったら王家に引き抜かれるからな。まあ、王太子妃になるというのも女性の夢らしいから判断はミシェルに任せるけど……。」
「……!い、いえ!誰にも見せませんわ!アレン様だけにしか見せません!ここで魔法契約をしても……っ!」
「いやいやいや、そこまで必要ないだろ。」
王太子。いや、無理。絶対無理。嫁ぎたくない。
巷じゃ天は二物を与えたと騒がれる殿方ではあるけど、イケメンだよ!?
私にも負けず劣らずの白ブタだよ!!??
遠目で見ただけで意識飛ばしたもん。
いや、そのおかげで屋敷に引きこもってても許されたのだから、そこだけは感謝するけど。
白ブタと白ブタの結婚なんて胃もたれしちゃうよ。
「まぁ、まずは基本ダンジョンをクリアできるか行ってみようか。危なかったら俺が助けるから、ミシェルはとりあえず自由にやってみてくれ。」
「はい!分かりましたわ!」
俺が助けてやる……!きゃぁぁ!カッコイイ!
最推しが最推しの声で!私を助けるって言ってくれた!!
これはあれですね?ご褒美タイム!
生きててよかった!白ブタは嫌だけど生まれてきてよかった!
フンスフンスと鼻息が荒くなるが、叫ぶのを我慢しているので許して欲しい。
あ、最推し!そんな優しそうな目で見ないでぇぇー。
「大丈夫だ、ミシェルなら。」
あぎゃーす。あ、あ、あ、頭撫でられた。
え、これはもう私最推しに嫁ぐしかないのでは?
最推しの隣も、頭なでなでも、最推し関わる全ての権利を私のものにするべきなのでは!?
みんないらなさそうにしてるから貰っていいのではっ!!??
「目指せ最推しの嫁ですわね。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も!さぁ、行きましょう!」
これは頑張ってSランク冒険者になって、世の中で夢物語として語られるドラゴンの核を渡しながらプロポーズをするしかない。
最推しのためなら私はSランクにだってなれるはず!
前世の私だって最推しのためにCEOになったのだから、やれないことはない!
「……って言ったけどちょっとこれは無理ぃぃぃぃ!やだァァァァァ!!」
「み、ミシェル!落ち着け!」
「気持ち悪いぃぃぃ!黒い悪魔は無理ぃぃぃ!こっち来るなバカァァァっ!」
悲しくないのに涙がでます。
でも本当アイツらは無理です。
カサカサいってるし、黒いし、黒光りだし!
きーもーちーわーるーいー、むーりー!!
「ミシェルっっ!」
「ほわっ……!」
え、これは据え膳?
最推しにハグされてますが。
ふぁ、すごい。最推しは香りまでフルーティー。
てかこれあれじゃん?
キャラクター香水の香りじゃん!!
完全受注生産のあの香水じゃん!!
私が貯金の半分を投資したあれじゃん!!
最推しの体臭と混ざるとこんなにいい香りなのか。抱き枕やねそぬいに振りかけて時と全然違う!流石です!
スーハースーハー!うん、最高。
私の肺を最推しの香りで満たさねばならないのである。
「落ち着いた?」
「いえ、まったく。」
黒い悪魔よりも大事なことが今はここにあるんです。
あと24時間ハグしてて欲しい。切実に。
「今日はやめとこうか。」
「嫌ですわっ!!!」
「え?大丈夫か?虫っぽいの苦手なんだろ?」
……間違った。今日はやめとこうかのセリフでほら、ちょっとやましい事考えた私のを恥じます。
最推しのセリフは私に良いように脳内変換されるから困る。
いや、やましくなくても止めないけどね?
基本ダンジョンをクリアできなきゃ最推しの隣に立つ資格なんてない。
よし、殺ろう。最推しのためなら私はなんでもやれちゃう子。
「結界魔法、結界魔法、結界魔法、結界魔法!」
「過剰な結界……しかもモンスターの方に。」
「これでもう逃げられませんわ!さっきうっかり落とした魔石を起点に雷属性魔法!」
はっはっはっ!見たかね、この最推しへの愛のカタチを!運すら味方にするのです!
最推しのためなら黒い悪魔如き瞬殺です!
でも結界内で粉々になる黒い悪魔は控えめに言って気持ち悪い。
ここは最推しの香りを嗅いで落ち着こう、そうだ、そうしよう。
「アレン様!やりましたわっ!」
「え、あ、あぁ。オーバーキルだったけど、よくやったな。」
嬉しさを体全体で表現するように最推しへ抱きつく。
何か頭上で慌てる声が聞こえるけど、聞こえない振りで行こう。
「あ、のさ。」
「はい?」
「ミシェルは俺のこと気持ち悪く思わないのか?モンスターにはあれだけ気持ち悪がってたのに。」
未だ抱きついたまま額を擦りつけながら匂いを嗅いでいれば、小さな声で問いかけられる。
顔を上げてまっすぐと最推しの顔を見れば、そこにあったのは、私が好きな笑顔でもなければ、興奮する赤面でもないし、泣きそうな顔でもなかった。
ただ、無表情で私を見ている。
「……俺はSランク冒険者でも、他の奴らとは違う。金だってきっと思ってるより持ってない。あるのはこの身一つだ。」
「んん?どういうことですの?」
え、ちょっと待って。
最推しの言ってることが分からない。
愛?愛が足りないの!?前世から愛してる最推しなのに足りないの!?
由々しき事態!!前世の私!どうしてもっと貢がなかった!
いや、足りないなら今から貢げば良いの!?
「何が欲しい?装備?それともやっぱり宝石とかドレスとか?」
……これは、あれですか。
私は詐欺師的なヤツと思われてる系ですか?
そりゃあ最推しからプレゼントを貰ったら家宝にするほど嬉しいけど、違う。そうじゃない。
Sランク冒険者まで登り詰めたのに、周りはあんなんで。きっと苦しかったと思う。
ただ、不細工だからってだけで、虐げられるなんて辛いと思う。
多少捻くれるのも分かる、分かるけど。
私の愛が否定されたことが悔しい。悲しい。
でもここで私が怒ったり泣いたりしたら駄目だ。
最推しには心から笑って欲しいのだ。
アニメの時のようになんて言わない。
多少違くたって良い。だって世界が違うから。
パーティメンツに追放されかけても、咄嗟に私を守ろうとしてくれた優しさは同じだから。
この世界でもアレンが最推しなのは変わらぬ事実!
ならば、私は最推しが健やかに、穏やかに、幸せに暮らせるお手伝いをするべきなのだ!
「じゃあ、ずーっと私とパーティを組んで下さい!報酬はアレン様が5割で私が3割。パーティ用資金として残り2割を積み立てましょう!」
「どうしてそうなるんだ。」
「私が足でまといになるのは事実ですわ。それにパーティを組むとなるとやはりアレン様は前衛になりますので危険手当を含む報酬が必要かと考えるのが普通かと。」
「いや、だからっ!!」
「私が昔憧れた冒険者様はアレン様ですもの。憧れた冒険者様とパーティを組みたいと思うのは当然のことですわ!」
前世からだからすっごい昔だけどね。
憧れというか愛だけどね。
まぁ、ここは黙っておこう。
お口にチャック!
「お……れ、に?……そう、か。本当に俺で良いのか。」
「アレン様がいいのですわ。」
「俺が、か。ありがとう、ミシェル。」
小さなお礼は聞こえないフリ。
きっといつか半信半疑じゃなく、本当の意味で最推しの信頼を勝ち取ってみせる!
待ってて、最推しアレン様!
・詐欺師ではなく未来の嫁(願望
このあとまずは強さを手に入れるべく黒い悪魔を惨殺する。
最推しのためなら苦手克服など朝飯前。
・憧れの冒険者だけど人間不信
騙された数は数え切れない。
騙されてても良いと思って欲しいもの聞いたのに予想の斜め上で狼狽えた。
このあと顔を青くしながら黒い悪魔をぶっ倒していく未来の嫁(笑)を見守る。
・黒い悪魔
女の子からの嫌われるランク200年連続No.1。
美醜逆転しても変わらぬ気持ち悪さ。
嫌われたくてこの見た目で生まれてきたわけではない。