反論と冒険者登録してみた
最推しとギルドの新規登録受付の前へ行けば、カエル顔の女性が顔を赤くしたり青くしたり大忙し。
あからさまに最推しと目を合わさないね、貴女。
こんなにもイケメンなのに理解されないとは嘆かわしい。
「冒険者登録をしたいのですが、よろしくて?」
「は、はい!えーと……この紙に記載をお願いします!」
「ありがとう。」
「め、女神様っ……!」
うん、違う。私女神じゃない。
そう言いたいけど夢を壊さないであげるのも大人の役目である。
ブスマイルを一つあげてから近くにあったテーブルへ。
「えぇと……。あ、そういえば自己紹介がまだでしたわね。私ったら一方的にアレン様と呼ばせていただいて、失礼でしたわ。」
「い、いや。そんなことはない、です。」
「私、シーボルト伯爵の娘。ミシェルですわ。」
「え!?あ、あの深窓の令嬢ので、絶景の美女と言われる!?」
「噂は私には分かりかねますが……アレン様身分は気にせず是非ミシェルとお呼びください。」
「そ、そんなわけには!俺はSランク冒険者ではある……ありますが、平民です。それに見た目だってこんなんでしょう?シーボルト伯爵令嬢と呼ばせて下さい。」
か、悲しそうな笑顔。こ、これはこれで素敵!
でもちがーう!
ここで押し負けたら私は一生名前で呼んでもらえない気がする!
せっかく最推しがいるのに!最推しの中の人だって最推しなのに!
名前呼びしてもらわないでどうするの!!
「私は教えてもらうなら立場ですわ。ですから気を使わないでくださいな。」
「え……。いや、でも、ですね。」
「それに敬語だって必要ありませんわ。いつものアレン様らしく話しかけてくださいませ。」
困った顔をする最推し。
ふむ。あとひと押しとみた。
「それとも私のような者とはお話しもしたくないのでしょうか……。」
悲しそうな声で俯き、顔が見えないようにすれば。
「あ、いや!ーーっ、分かった、ミシェル。だから泣かないでくれ。」
はい落ちたー!
ありがと前世の友!
歌舞伎町でNo.1キャバ嬢!流石だ!
君の客の話しをちゃんと聞いてて助かった!
今後も前世の友のテクニックは活用させていただこう。
だって私は美女ですし!
「ふふっ、泣いてませんよ?」
「だ、騙したのか?」
「悲しかったのは本当ですわ。」
「そ、そうか。」
改めて登録用紙を見てペンを握る。
……わ、分からない。
文字は読めるけれど、どこに何を書くのが正解なのかサッパリ。
書けるのは名前と年齢と性別ぐらいである。
「アレン様、これはどうやって書くのです?」
「ん?……ここの新規登録用紙は分かりにくいな。ミシェルのステータスが分かれば楽だけど、流石になぁ。」
「はい、いいですよ。」
「いいのか!?普通家族か婚約者だけだろ!?」
「アレン様ならいいですわ。」
「深窓の令嬢は騙されやすそうだな。」
ため息をつかれても困る。
だってステータスの常識なんて知らないもの。
なんだったら親にすら見せたことないのに。
……ということは、これは私の初体験!
最推しに貰っていただけるとは、流石美女だ!
「じゃあ、ステータスを開いたら俺の閲覧許可を言葉にしてくれ。」
「はい!ステータスオープン、アレン様に閲覧許可いたします。」
言われた通りにすれば周りがザワついた。
あの不細工にステータスを見せるなんてとかごちゃごちゃ言っているが、どうでもいい。
ステータスを他人に見せるのが裸になると同意義ならば、私は喜んでアレン様だけに見せる所存!
イケメンになんぞ、見せてやるものか!
「ちょ、ミシェル。」
「はい?」
「これって……。」
美しくも男らしい指が私のステータスを指す。
……あ、忘れてた。
そりゃそうだよね、私なんで家族にもステータス見せなかったかって言ったら【聖女】だからじゃん!
美女だって知らなかったから、みんなの聖女イコール美女のイメージを壊したくなくて黙ってたんだった。
「……えへ。」
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ミシェル=シーボルト 18歳 Lv.28
職業:聖女
属性:聖Lv.20・雷Lv.8
HP:532/532・MP:3142/3152
【加護】
聖母ラリスの加護10
雷帝アルマニーの加護10
~以下レベル未到達のため閲覧不可~
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「えへ、で済む問題じゃないぞ。これは。」
「んんっ……!」
問題があるのは分かります!周りに聞かれたくないのも分かってます!!
でも最推しが最推しの声で耳打ち……!
こ、腰が抜けそう!誰か、白ブタを助けて!
あ、イケメンが来るのか、やっぱり来なくていい。
「だ、大丈夫か?」
「え、ええ。えーと……どうしましょうか。」
「俺が代わりに書いても良いか?」
「あ、はい。大丈夫ですわ。」
サラサラと少し角張った文字で用紙の2行目以降が埋まっていく。
職業は魔法使いで詳細は回復職。特筆事項は初級結界魔法と無詠唱魔法が初級なら可能、と。
だいぶ省略されてますね!これぐらいならすぐ覚えられる!
「あとは提出して終わりだな。ステータスは閉じても大丈夫だ。ありがとう。」
「いえ!お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます、アレン様。」
「……そう、だな。」
くしゃりと笑う最推し悶えたくなるのを堪え、カエルお姉さんに渡しに行こうとすれば誰かに腕を掴まれた。
え、何このクリームパン!手が茶色でリアルクリームパンっ!!
そして私の腕も太い!絶対最推しの2倍はある!
や、痩せなくては!!痩せなくてはいけないのでは!?
「おい!離せっ!」
「なんだよ、アレン。ちょーっと優しくしてもらったからってこの子の騎士気取りかよ?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「へぇ、ミシェルさんは回復職なんですね。私が優しく教えてあげますよ。」
「え、じゃあ僕練習台になるよー!ミシェルちゃんからの愛を受け取る役!」
「さっきは恥ずかしかっただけだよな、ミシェル。」
クリームパンの持ち主からの名前呼びに鳥肌がたった。
別にイケメンが嫌いってわけじゃないよ?
ほら、生まれ持った顔を否定とかは普通はしないじゃない。
そりゃ、見た目が良いに越したことはないけど、イケメンだったら何を言ってもいいと思う、その心が苛立つ。
なんだ、その差別。不細工は生きてちゃいけないとでも言うようなその目。
「ありえませんわ。」
「ん?どうしたの?ミシェル。」
「離してくださいませ。」
令嬢らしからぬ動作で手を振りほどき、最推しの隣へ。
逞しい二の腕にヨダレを垂らしそうになるが我慢する。
最推しが悔しそうに拳を握りしめているのだ。
私が助けないでどうするの!?
最推しには笑顔が一番似合うのだから!
やるのだ美女!蹴散らせ美女!
「私は貴方たちに教わることなど何もありませんわ。幼い頃憧れた冒険者様たちは、いつだって困った民たちのため剣を、弓を、魔法を、盾を使い守ってきました。それなのに、貴方たちは仲間であるはずのアレン様を虐げ、あまつさえ正当な報酬も与えず、パーティを抜ければ良いと仰いました。それは、私の目指す冒険者ではありませんもの。命を預ける仲間を大切に、弱きを救う。それが冒険者だと私は思いますの。……だから今すぐ私の目の前から消えて下さらないかしら?」
よし、言ってやったぞ!
元推したちなんざ、知らないもんね!
イケメンになっただけならまだしも性格最悪とか推すわけないじゃーん!
……ヤンデレはありだけどね。
いや、でもこの見た目でヤンデレはないな。
ホラー映画になっちゃう。
「ちっ……、なんだよ、お高く止まりやがって。」
「あら、それは貴方たちではありませんこと?」
「アンタぐらいの女の子なら他にいっぱいいるもんねー!」
「なら、どうぞ。私は貴方たちに興味もないのでチヤホヤしてくれる女性たちの所に行けばよろしいじゃないですか。」
「アレンのどこが良いのか理解できませんね。シーボルト家も令嬢の躾を間違ったようで。」
「それは正式に貴方の家からの抗議と受け取ってもよろしいかしら?男爵家でしたわよね?」
嫌味一つ一つを言い返してあげれば、元推したちは完全に黙り込んだ。
伯爵令嬢ですからね。私知ってますよ。
最推し以外は貴族だけど伯爵以下ってことをね!
ふふん、どやぁっ!
「さぁ、アレン様。早速登録しに行きましょう。」
「え、あぁ。って、う、腕!」
「あぁ、これですか?どうやら野蛮な方が多いようなので、Sランク冒険者様の腕の中なら安心できますでしょ?」
「そ、そうかもしれないが!」
これ以上は無駄な時間を過ごしたくなくて半ば強引ではあるけれど、最推しの腕に抱きつき受付へ向かう。
こ、これが最推しの体温!
予想より体温高めですね!?
これは心の中でメモっておこう!後で日記にも書いておかなきゃ!
ちらりと顔を見れば顔も真っ赤……。照れてる!?
美女に生まれてよかった!
って!え、やっぱり私腕太っっ!
何この脂肪の塊!や、痩せなきゃ!
ダイエットしよう、今日から私は草食動物になる!
・腕が太い子
元推したちが今後話しかけてきてもきっと懐くことはない。
寧ろ喜んで喧嘩を売りに行く。
・騎士様
ヒロイン(笑)が喧嘩を売ってる最中悔しいけど、嬉しいし、心配もして色々心中大変だった。
ヒロイン(笑)への好感度はうなぎ登りである。
・クリームパン
前世の世界じゃ褐色肌に黒髪イケメン。
今はただのクリームパンの手の持ち主。
因みに子爵家次男。
・その他ヘイト役
男爵家三男のインテリメガネと子爵家長男のチャラ男。
・カエル顔受付嬢
この世界じゃ上の下の顔である。
用紙受け取ったときの記憶が曖昧。
ヒロイン(笑)のやり取りを全て見ていたせい。
・真のクリームパン
安い、甘い、美味しい。
大きいの1個より5個入りのヤツが作者は好きである。