勇者の戻らない国
勇者一行が命令違反で、帰ってこないと言う報告を受けた天空連盟は慎重に協議をしたすえ、勇者一行の心臓をつぶすことにした。
異議を申し立てたのは、女好きのドラグヘイムの若い王子だけだった。
呪術師5人で、それぞれの勇者一行の心臓へと伸びる魔方陣にナイフを突き立てる。
ドラグヘイムの王子は最後まで、反対していた。
5人の呪術師が、破裂する。
騒然となる天空連盟の面々。
喧騒。
そんな中、ドラグヘイムの王子は誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「だから、言ったのに。」
「あいつら、本当にあの術式を解いてやがったのか。」
新たにパーティを組まされた黒装束の暗殺者ははるか遠くを見つめていた。
「行きますよ。勇者様。」
神官の男が言う。
神官の元には、すでに戦士、盗賊、魔法使いが立っている。
もちろん、今まで勇者一行を名乗っていた人物たちとは違う。
しかし、ニセの勇者一行というわけでもない。
彼らはすでに勇者一行なのだ。
「魔王か…。俺たちで相手に出来るような奴だといいんだが…。」
元暗殺者の勇者は澄みきった青空に疑問を投げかけた。
もちろん答えは返ってこなかった。
「反逆勇者の写し絵は各国に配布してあります。」
「精霊人国、獣人の国、竜人の国、天空連盟各国からの特化部隊の派遣準備完了しています。」
「呪術班による居場所の特定も進んでおります。」
天空連盟軍最高司令官であるガーネッツはかなりまいっていた。
どれだけ、戦力を集めてもあの反逆勇者一行には届かない。
山に剣を振るう。
それくらい無駄な労力だ。
反逆勇者一行が世界を滅ぼさないことだけを祈るガーネッツだった。
反逆勇者こと勇者は暇を持て余していた。
盗賊と魔法使い、戦士と神官は二組とも家を見つけるそうだ。
盗賊と魔法使いが組んだら金には困らないだろうし、戦士の土魔法なら、赤レンガの家からオリハルコンの城まで思いのままだ。
俺は平らで雨避けがあれば、それでいいから気楽なものなんだが…。
あんまり1人というのは経験していない。
なんだかんだで、いつもあいつらがいた。
これが、寂しいって言う感じかな。
嫉妬の魔王、可愛かったな。
そんなことを考えていると、空を赤く染める波が通過していった。
「連盟の人造フェニックスか。」
勇者の頭上を通過した後には大量の紙がばらまかれていた。
勇者はそれを一枚拾うと、笑った。
「…面白くなってきた。」
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