つがい
俺たちは、何となく満足したので、四天王クラリスの城を後にした。
「…楽しかった。」
ニンフらしい長い水色の髪を揺らしながら歩く神官は満足気に言った。
もちろん蛇の下半身ではなくふつうの足だ。
「…人が屈服させてるのを見るのもいい。…いい趣向。」
「俺としては、もっと搦め手で、相手を挑発してからの方が良かったな。」
火の体ではなく、文様の刻まれた普通の体の盗賊は言った。
「及第点。」
「王気の読み合いは楽しかったっすね。」
戦士の腕は大きくない。
というか、本人いわく、あの姿になれることにはなれるが、腕が大きいことにあまり意味はないのだそうだ。
「まあ、勇者さん相手じゃ、どう読んでもやられる所しか思い浮かばないんすけどね。」
「私としては、もっと時間をかけて無力感を叩き込みたかった所だけどね。」
魔法使いは、気に入ったのかまだ、羽を出したままだ。
俺たちは、各々魔王化できる。
盗賊は、単純に火の大精霊を食べて精霊としての体も手に入れ、いつか盗んで忘れていた魔王化の宝玉で魔王化。
戦士は、昔、暴れまわっていたころ巨人の魔王を吸収して魔王化、普段は魔王の力を抑え込んでいるそうだ。
魔法使いは、研究してたら魔王にもなれるようになったと言っていた。
神官は、自分の配下の魔王の力を自在に使えるんだそうだ。
俺は、ある朝寝て起きたら王気に目覚めていた。
王気を使っている時は、瞳が赤くなって牙が生えるのは、よくわからない。
「じゃあ、私は盗賊とペアね。」
魔法使いは言う。
「…戦士。」
神官は戦士の服の袖を持った。
まあ、風を操るエルフと土を操るドワーフは相性が悪い。
同じく、水を操るニンフと火を操るサラマンダーも相性が悪い。
この4人ならこの組み合わせしかない。
「ところで、つがいって何をするものなんだろう?」
「とりあえず、一緒にいればいいんじゃない?」
「それって、あんまり今までと変わらないんじゃないか?」
「…。」
「わかんねえっすね。」
「なあ、イリス。嫉妬の魔王の目が無くなったんだが…。」
強欲の魔王は自身の四天王の無のイリスに問いかける。
「…。」
「イリス。答えてくれ。なんで、嫉妬の魔王の目が無くなったんだ?アレは、異常だが、俺のものだぞ!」
「…。」
「イリス。…そうか。答えるまでもないってことだな。」
「…。」
「ああ、そうだ。全て持っていないと気がすまないんだ。」
「…。」
「イリスは何もないから本当にいい。お前からは何も奪う必要がないからな。」
「…。」
「…本当に変だ。イリスとこれだけ、話していたらいつもなら無理矢理、持っていかれるのに。様子を見にいくか。」
強欲の魔王は、裏の世界から抜け出す。
目指すは、嫉妬の魔王の城。
嫉妬の魔王は、1人旅だった自称魔王こと勇者を見ていた。
嫉妬の魔王は、全ての目を投入しても、勇者の姿が見えなかった時は、かなりいらだった。
しかし、今日になって、勇者の姿が見えるようになったので、いらだちは無くなった。
勇者が、声をだす。
「見てんだろ?今から行っていいか?」
嫉妬の魔王は勇者の力に嫉妬している。
自分にはない力。
勇者の王気を浴びてから自身の王気も強くなったが、そんなことは重要じゃない。
勇者がうらやましい。
消してしまいたいほどに。
「ダメだな。また今度な。」