勇者をやめる
よろしくお願いします。
「これでとどめだ!鉄槍の魔王ゼスト!」
泥だらけの勇者はそれでも剣を構える。
対峙する異形の魔王は、勇者一行を憎々しげに見て言った。
「くそお。俺の鉄雨をしのぐとは、さすがは勇者!しかし、俺も魔王の一角ただでは死なん!鉄龍変化!」
魔王の体にエネルギーがたまっていくのがわかる。
しかし、勇者の剣ではもう間に合わない間合い。
「させねえぜ。強奪の極意!」
この戦いで、唯一魔王へ攻撃せず援護に回っていたサラマンダーの盗賊が、自身の能力を使い、鉄龍変化を奪う。
と、同時に勇者とドワーフの戦士が魔王に斬りかかる。
魔王は2か所に深手を負い、後ろに倒れ込む。
魔王は必死で回復の魔法を唱えるが、それも無駄に終わる。
深い傷は、治ることはなかった。
「そりゃ、そうよ。あなたにはもう魔法の知識も経験も魔力回路さえも残っていないんだから。」
魔法使いのエルフは、宙に浮かぶ12の杖を操りながら、あくび混じりに魔王をあおる。
「…コレクト。」
最後にニンフの神官が一言つぶやくと、魔王は鋼鉄の鱗を持つ蛇になり、頭を垂れた。
「ふう。俺、勇者やめるわ。」
「俺も盗賊らしいことしたい。」
「自分も戦士の心躍る戦いがしたいっすね。」
「私に至っては、魔法とか言ってなんだってできるわ。」
「…もう、普通の神官には戻れない。」
「あと、残ってるのって…。」
勇者の質問に戦士が答える。
「野良魔王126に、28の災害魔王と7の災厄魔王、後ろに隠れてる災厄魔王級90体とそれより強いのが22体ですね。」
「はあ。面倒くさい。長い。嫌、嫌。」
「…つまんない。」
「俺もごめんだね。」
「やっぱりそうだよな。戦士も嫌だろ?」
「そうっすね。」
「って言うわけで、俺ら勝手にやらせてもらうから。連盟にもそう伝えてくれる?」
勇者は、そう言って腰の聖剣エリアルドを木陰に投げた。
剣は空中で止まる。
そして、剣からだんだんと輪郭が見えていき、そこにいたのは、黒一色の装束に身を包んだ男だった。
「さすがは勇者、気づいていたのか?」
「いや、みんな気づいてたよ。」
いっせいに、魔聖剣カカナト、星糸の隠れマント、精霊王のティアラ、聖杖ワールを投げた。
黒の男は焦らず、全て空中に浮かせて、キャッチし、次元収納にしまった。
「これは、敵対の意志ととっていいのか?言っておくが、お前らの心臓に呪印をしかけてある。敵対する意思を見せれば、心臓を締め上げ破裂させられるぞ!」
「ああ、それね。うん。もう3年くらい前に魔法使いが解除したよ。…じゃあ、いくからな。」