うっかり告白してしまいました
あまり眠れぬまま朝を迎えました。眠たくてまだぼーっとしている私に、マリーはテキパキと身支度を整えていきます。
水色のワンピースを着せ、髪はハーフトップにしながらも、サイドの髪を少し垂らした清楚なお嬢様風の仕上がりになりました。
「マリー、こんなにも素敵にしてくれてありがとう。でも気合いを入れすぎかしら。」
「お嬢様、女たるもの気を抜いたら駄目です。常に人に見られている事を意識して立ち居振る舞いをして下さい。これも女子力アップの為、ピエンさんにファッションショーで打ち勝つ為に必要なレッスンなのですよ。」
「マリー、分かったわ。本当にありがとう。」
「フフ。お嬢様は可愛いんですから、もっと自信をお持ちになって下さいね!さあ、王子様がお待ちです。」
私はマカロン先輩の待つ応接間へ向かいました。
「マカロン先輩、お待たせしました。」
「チョコ、何だか制服の時と印象が違うから驚いたよ。可愛いね。」
「先輩こそ、シャツにスラックスだけの装いが爽やかで素敵です。」
オホン、
「チョコ令嬢、私はマカロン王子の従者兼護衛のオスカルと申します。」
マカロン先輩の従者兼護衛のオスカルさんは、青い髪を後ろで纏めたクールな印象の男性です。どことなく生徒会のノア先輩を彷彿とさせます。
「チョコやグスタボ君の本を見に行って、帰りはチョコの好きそうなケーキのあるお店に寄ろうと思う。じゃあ、行こうか。」
マカロン先輩はそう言うと、私の手をひいて馬車へ向かいました。馬車はマカロン先輩、私、それにオスカルさんとマリーを乗せて走り出しました。
マカロン先輩は私の手を掴んだままです。自分から離すべきか、このままにしておくべきか考えていると、オスカルさんとマリーの生温かい視線を感じました。
マカロン王子は、しれっとしています。マカロン先輩を意識してると思われるのが恥ずかしいので、私も平気を装いました。るなの時もチョコの時も、異性との関わりに慣れていないので、こういう時の反応に本当に困ります。
馬車は、アテナ商会へ着きました。前もってマカロン先輩が会長に連絡を入れていたようです。店内や事務所、印刷機など色々見せて貰えました。
「チョコ令嬢のタロットカードは、重版に次ぐ重版で大人気です。あと、チョコ令嬢の執筆したタロット占いの方法を書いた本も、間もなく出版予定です。」
「会長のおかげです。ありがとうございます。」
「いえ、私共の方こそ感謝しております。仕事をしていてこんなにワクワクした事はありませんでした。」
マカロン先輩は、会長が先輩に渡したタロットカードを手に取り、興味深々の様子でした。
「チョコ、ここで占いってできる?僕も占って欲しいんだ。」
「えっと、会長よろしいんでしょうか。」
「どうぞ。一度見てみたかったんです。」
会長やマカロン先輩の前で占いをする事になりました。
「何を占いますか?」
「僕の事を適当に占ってみて。」
「分かりました。簡単なスプレッドでおおまかに見ていきますね。」
私はテーブルの上に、持ち合わせの綺麗なクロスを敷いて、その上でカードをシャッフルしました。カードをまとめて、上から三枚を横並びにしました。
「私から見て左側から、過去、現在、未来となっています。
まず過去のカードは、〝女司祭″の正位置です。先輩は、真面目で何でも一人でこなしてしまう人なので、周りからしたら一見近づき難いイメージがあります。反面、ロマンチックで穢れのない面も持ち合わせています。恋愛経験はなく、あっても片思いだったと思います。
現在のカードは、〝魔術師″の正位置です。説得力のある説明で、交渉事や企画をどんどん成功させられると思います。自分に自信がついてきて、恋愛面でも積極的にアプローチしているようです。
未来のカードは、〝皇帝″の正位置です。リーダーとして手腕を発揮し、周りからも慕われます。恋愛面では、真面目に結婚を意識した交際が出来そうです。
おおまかに見てみましたがどうでしたか。」
先輩は両手で顔を覆って、固まってしまいました。
「チョコ、凄い。当たってるよ。‥‥でも、色々チョコに見透かされてるようで恥ずかしかったな。」
「大丈夫です。占いは先輩を知るきっかけに過ぎません。それが先輩の全てだとは思っていません。それに先輩の事は、もっと積極的に関わりながら自分の目で知っていきたいので。」
「チョコ、ありがとう。そうだね、お互いもっと積極的に関わっていくべきだよね。じゃあ夏休みの間にもたくさん会おう。そしてもっとお互いの事を知っていこう。」
マカロン先輩はそう言って私の手を両手で強く握り、私を見つめます。
「‥はい。」
私は不覚にも、マカロン先輩の押しの強さにキュンとしてしまいました。
でもマカロン先輩は王子様なのです。学園では先輩と後輩として、気安く接する事ができても、卒業すれば遠い存在なのです。
マカロン先輩は、いずれ婚約者を見つけて結婚される方なのです。
あっ、だめだめ。今はアテナ商会にいるんでした。気持ちを入れ替えなきゃ。
『‥‥。』
私とマカロン先輩は、アテナ商会の会長にお礼を言い、商会を後にしました。
マカロン先輩が予約したお店で美味しいケーキを食べて、紅茶を飲み、まるでデートのような一時を過ごしました。
そして、帰りの馬車の中でピエンさんの事や、学園祭でファッションショーに出る事を、マカロン先輩に報告しました。
『‥‥。』
「先輩?」
「もしかしてチョコも‥僕の事を好きなの?」
「なっ何でそう思うんですか?」
「ごめん。チョコって、もしかして僕がチョコの心の声が聞こえるって事忘れてた?」
「あっ!あの時の心の声、聞いてたんですね!迂闊でした。」
「チョコは、押しが強い僕が好きなんでしょ。」
「わぁ、先輩やめて!恥ずかしい。」
「ハハハハ。」
「‥‥先輩は嫌じゃないんですか?私に好かれても迷惑だとか、困るとか。」
「迷惑とかそんな事はないよ。僕が先にチョコを好きになったんだから。チョコは僕の特別だからね。それに身分とか言うけど、僕は優秀な兄や妹がいるから、チョコの家に婿入りする事だってできるよ。」
「先輩、本気で言ってますか。」
「僕は本気だよ。いつだって本気だ。僕は嘘をついたり誤魔化したり出来ない不器用な人間だから。」
「はい。じゃあ、えっと。」
「チョコ、僕と婚約と結婚を前提に清く正しくお付き合いして下さい。」
「へっ?」
「中等貴族学園と高等貴族学園を卒業するまでは、絶対にチョコに手を出さないようにするから。」
「あっ、はい。」
こうして、マカロン先輩と私はお付き合いをする事になりました。
馬車の向かいに座っていたオスカルさんとマリーの生温かい視線に見守られながら。




