グスタボ・ムーンライト視点
※少し残酷な描写があります。
もし苦手な方はこの回を避けて下さい。
僕の体の中に、何かが入ってくる感覚がする事はよくあった。
朝のお祈りの最中に体が強張り、動かなくなった事もある。
自分では、そんな事は日常茶飯事だった。
ところが、父や母からすると、それは異常な事で、神様への愛が足りないからだと大騒ぎになった。
「なぜ、司祭を執り行う司祭長の息子のお前が、悪魔付きになってしまったのだ!」
「あなた、これも私の神様への愛が足りなかったのが原因です!」
そう言って父と母は、僕に〝聖水″と言われる冷たい水をかけては、よい匂いのする葉の束で、僕の背中を叩き続けた。
「痛い!冷たい!痛い!もうやだ!お父さん、お母さん、やめてよ。」
僕の声は父と母には届かず、代わりに僕の耳には二人の必死なお祈りの声だけが聞こえてきた。
「僕は悪魔付きじゃないよぉ。悪魔なんかいないよぉ。」
何度叫んでも、父と母は怖い顔で僕の背中を葉で叩いたり、冷たい水をかけて来た。誰も僕を信じてくれない。誰も僕の声を聞いてくれない。僕には、父と母こそが悪魔に取り憑かれているのではないかとすら思えた。
いつのまにか冷たさと痛みと絶望の中で、僕は気を失っていた。
気付くと、暴れて身体を傷つかないように、足枷と手錠をかけられて地下の牢獄のような部屋に入れられていた。
「怖いよ〜。助けてよ〜。」
叫んでも無駄だと知っていても、叫んでいた。暗くてじめっとした石造りの床には、時には蛇やムカデが出てきて、僕を驚かせた。
僕はあまりの恐怖で何度も気を失っていた。
僕は、暗闇の中で無になっていた。心も目も耳も閉ざして、暗闇と静けさの中に溶け込んでいた。
何日たったか分からないが、僕は地下から地上へ戻された。
もう悪魔は僕から出て行ったそうだ。
悪魔なんか最初からいないのに…。
僕を悪魔付きだと決めつけて、地下に閉じ込めたお前たちこそが悪魔だ!
そう叫んでやりたかった。けれどもまた閉じ込められてはたまらないので、彼ら大人に合わせて、僕は演技をするようになった。
神など信じてはいないが、神事にも積極的に参加して、父と母を安心させた。
何が悪魔だ!何が神だ!
僕の体には、相変わらず色々なものが入ってくる。時には僕の口や手を使って、何かを伝えてきたこともあった。
たいていは、彼らが生きていた頃の愚痴だった。
ボクの心はやさぐれていた。
背は子供に似つかわしくない位に伸びた。
おかげで、母ぐらいの歳の女性からも色目を使われた事もある。冗談じゃない!
それと、僕にはもうひとつの秘密がある。
それは、お洒落をすることだ。
普段、飾り気のない神官の服を着ていたし、私生活でも地味な服を強要されてる反動で、レースやビーズ、リボンにコサージュなどが大好きだった。
親にばれないように、部屋でこっそりと服や小物にレースを縫ったり、刺繍をしたりしていた。
そして、時にはお姫様や女神様をイメージして絵を描いたりもしていた。
僕はこうやって、心のバランスをとりながら、なんとかやってこれたのだと思う。
そんな日々が続いたある日、僕の教会で、学園入学前能力判定会なるものが開かれた。
そこで、僕は不思議な体験をした。教会全体の空気がピーンと張り詰めた中、何かが降りてきた。
とても小さな粒子のようなものが、服を通して肌の中にまで浸透してきた。
僕の周りはうっすら黄色の光で包まれた。
父もこちらを見て、何か気づいたようだった。
僕は、光により何か閃きのようなものを与えられた。
それは、チョコへの光からの祝福であった。
〝共感能力″
チョコの能力が光により僕の口を通して伝えられた。
正直、あの光が何なのかは分からない。神様だと父は言うが、神を知らない僕には分からなかった。
ただ、あの光の中で、今より少し大人になったチョコが、僕の描いた絵のついたカードを使って、悩んでる人達に何かを教えて励ましている未来が少しだけ見えた。
いつかチョコに、この話をしてあげられたらいいな。