分からない
「‥‥。」
「‥‥。」
話し合いをしようと思い、グループ毎に別れて向き合ったものの、何も言葉が出ません。
それはどのグループも同じでした。
マイケル先生はしばらく私達の様子を見てから言いました。
「この国の問題点について分かった事があれば、誰でもいいので手をあげて発言して下さい。」
皆んな目が合えば、自分が発言をする事になるので下を向いたままです。張り詰めた空気に耐えられずに、私は思わず手をあげてしまいました。
「はい。」
「チョコさん、どうぞ。」
「全くわかりませんでした。」
クラス中が笑い声で一気に和やかな雰囲気に変わりました。
「そうです。それで良いんです。皆さんは、私の講義を聞いただけで理解した気になっていた。そして、自分達でこの国の問題点をあげなさいと私に言われても、自分にも出来る!と思ってしまった。でも、出来なかった。」
「‥‥。」
「皆さんを叱っている訳ではないですよ。ただ、皆さんに知ってもらいたかったのです。
教科書を読んだり学校の講義を聞いただけで、自分達が賢くなったのだと勘違いをしてはいけない事を。
人よりちょっと知識や変わった能力があるからといって、自分が特別な存在なのだと思ってはいけない事を。
自分が得た知識や能力は、自分の為だけに使うものではないのです。他人にひけらかすものでもないのです。」
「‥‥。」
「少し難しい話をしましたね。じゃあ、せっかくグループに分かれたのですから、残りの時間はそのままグループで好きな事を話して下さい。勿論授業に関係ない話でもいいですよ。」
マイケル先生の講義は分かりやすくて、まるで映画を見てるかのように映像が浮かんできて、とてもワクワクしました。
教科書の内容もどんどん頭に入ってきたので、私も自分が賢くなった気になってしまいました。
けれども先生のお言葉を聞いて、ハッとして何だかバツの悪い気持ちになってしまいました。
皆んなを見ると、やはり同じような様子でした。
「ほら、時間がもったいないじゃない!せっかくだし、5人でおしゃべりしましょうよ。」
グスタボ君がそう言ってくれたおかげで、サトル君が話し始めてくれました。
「グスタボ君、君の事は前から知ってたんだ。とても気になってて、だからこうして話せて嬉しいよ。」
「えー、ありがとう。サトル君のお父さんは魔力研究所の所長さんだよね。」
「うん。でも魔力って正直よく分からない。」
「あら、わたしだって神官やってるし、時々身体に誰かが入ってきて何か沢山話しかけてくるけど、神様の事ってよく分からないわよ〜。」
「「?!」」
グスタボ君が何か凄い事を言った気がしてびっくりしてたら、モアさんも話し始めました。
「私も、今まで沢山の本を読んできたけど、パッとページを見ただけで内容も頭にはいるけど、だから何なの?って思ってた。能力判定で、〝瞬間記憶力″って出たけど、何か分からないの。」
エリナさんも続きます。
「私も〝念力″の能力があるらしいの。確かに家のスプーンを曲がれ〜って言ったら曲がったけど、スプーン曲げが私の能力なのかと思うとがっかりしちゃう。〝念力″って何かよく分からない。」
これは私も話にのる流れね。チョコも続いて話します。
「私も、グスタボ君に降りてきた神様に、〝共感能力″があるって言われたけど、それで何ができるのか、よく分からないの。」
グループ分けがきっかけで、5人でお互いの能力について話すことができ、とても有意義な時間が過ごせました。
私達は、こうした機会をくれたマイケル先生に感謝しました。
この日以降、「分からない。」が黒組を発端に学園で流行しました。