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軍師・高橋現る

 

「山梨さん、ちょっといいかな」


 来た。


 来た来たきたキタ。これが伝説の「学園の王子様にちょっかいかけられた上に、取り巻きの女子から呼び出されてリンチされる」パターンだ。『調子に乗ってんじゃないわよ、このブス!』とか言われるやつだ。絶対にそうに違いない。


「なあに?」


 私は平静を装って振り向いた。知らない女子だ。ひい、ふう、みい……4人もいるじゃないか。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど……」


 ついて来てくれないか、と先頭の女子は言った。やっぱり知らない人だな。


「ここじゃできない話?」

 わざわざ人気のない所に行くつもりはない。


「……あのね」

 派手顔の女子が、ためらいがちに口を開いた。



「山梨さん、最近梶田君とよく話してるよね」



「ああ、それ?」

 私は脳内からカンペを引っ張り出す。イメトレは完璧だ。


『私のお父さん、大学で爬虫類の研究をしてるんだけど』


『梶田君、爬虫類とか南米の環境に興味があるみたいで』


『それで色々話しかけられたの』


 嘘は言っていない。梶田よ、爬虫類、好きだろ?


「あ、そうなんだ」

 団体さんは、ものすごく納得顔になった。わかってくれて、何よりである。


「うん。なんかすっごいこだわりがあるみたいよ」

 自分でもびっくりするほど棒読みになってしまったが、まあ大丈夫だろう。嘘は言っていないし。


「そうなんだ」

「うん」


 私は全力全開の愛想笑いをした。


「でも」

 一番背の高い、モデル体系の女子が口を開いた。


「水泳の大会に応援しに来たって」


 ええ、ええ。それについても対策済みだとも。

「3組の田中君とは家族ぐるみの付き合いだって、お惣菜とかお菓子とか人数分買って来てくれたよ」


 その後もいくつかの質疑応答を繰り返した後、女子たちは納得して去っていった。危ない危ない。民度の高い学校で良かった。


「山梨君」


「ひゃい」


 ほっとした所に、突然背後から話しかけられてびっくりしてしまった。縁もゆかりもなさそうな、学年一位の秀才、高橋君である。


「今の女子と、梶田の話をしていたか?」


 高橋君のメガネはちょっと傾いている。「あ、うん」と軽く返事をすると、彼は去っていった彼女たちの名前を聞いてきた。私も知らないよ。


「高橋君……もしかしなくても、梶田の手の者?」

「いかにも」


 メガネがくいっと上げられる。やっぱり傾きは直らなかった。


「どこまで知っているの?」

「君が監禁された話か?それともアマゾン川での出会いの話か?」


「なんでも知ってるね」


 こいつらはグルだ。前世の話までしているとは、相当深い関係と見た。確かに、よくよく梶田の事を思い返すと、高橋君とつるんでいる……ような気がする。うろ覚えだけど。


「梶田の奇行の事……どう思う?」


「俺としては梶田に肩入れしているので、構ってやってほしいのはやまやまなんだが、君がどうしても『梶田は非常に気色悪い、唾棄すべき醜悪な犯罪者予備軍である』と言うのなら、何とかして梶田を君から隔離しよう」


「そこまでではないけどさ」

「そこまでではないのか」


 高橋君は向かいに腰掛け、メモを取り始めた。

「俺も色々考えて、助言をしてみた。それについて君がどう思ったのかヒアリングさせてほしい」


「えっ、ヤダ。梶田、そんな事相談してんの。ひとりでやれや」

 ついつい高橋君に暴言を吐いてしまった。どうりで、週末は若干まともだと思った。まさかブレーンがついていたとは。


「俺は梶田に『犯罪行為を想起させるような発言は慎め』と助言した。これについてはどうだった?」


「……確かに、言ってない!あの時、パンツの色とか聞いてきてもおかしくなかったのに!」

「お揃いの赤パンツってどう思う?と言われたので全力で止めておいた」


 勉強ロボットみたいな高橋くんが思いのほか的確な恋愛?アドバイスをしていた事に、正直かなり驚いた。すげーよ。恋愛とか1ミリも興味なさそうな顔してるのに。ちょっと作戦通りに絆されちゃう所だったよ。切れ物すぎるだろ高橋。


「前世は軍師か何かだったの?」

「いや?」


 高橋君には前世はないらしい。いや、私にもないんだけどさ。私は梶田のどの辺がキモいのか、熱く語った。彼が言うところによると、「梶田は国語が苦手なので、言葉選びの段階で齟齬があったのではないか」との事だった。あのセンスは帰国子女とか文化の違いを超えてると思うんだが。


 恐るべき軍師・高橋との会合を終え、帰宅するとまたもやメッセージが届いていた。


『このパン見て』


 梶田が送ってきたのは緑のツルッとした物体が皿の上に乗っている写真だ。どうでもいいけどこの皿、うちにもあるな。パンについてるシールを集めてもらえる例の皿じゃないか。金持ちもパンのシール集めるんだ……と妙な感動があった。


『知ってる』

『そうなの?地元でも知る人ぞ知る、って感じみたいなんだけど』


 私が注目していたのは皿だけど、まあそんなことは教えてやらなくていいか。永遠に勘違いしていればよいのだ。


『これ、北陸のお土産にもらったパンなんだ。カエルのつるっとした感じがよく再現されているよね』


 これパンだったのか。緑の和菓子にしか見えないんだけど。梶田曰く、あんぱんの上に翡翠をイメージした羊羹がコーティングされているらしい。カエル関係ないじゃん。


『賞味期限が今日までだったからさ、さっき食べちゃった』

『それはよかったね』


 と言うかお前、緑色でカエルっぽければ何でもいいのかよ。お前が「前世」だと言い張っているのは赤と青のカエルだっただろ、と毒づく。それを言ってしまうと話が広がりそうなので言わないけれど。


 なんだか若干イラッとしたので、「おやすみ」とだけ送信して、スマホの電源を切った。



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