ぼくのつくったさいこうのはーれむ
ハーレムものが嫌いだ。主人公が何の努力もしてないじゃないか。それなのに、沢山の女のコに囲まれるなんて、けしからん。実にけしからん。まだぶっ飛んだチートパウワーでモンスターを蹴散らす、異世界転生ものの方がまだましだ。てか何だ妹にすらモテるってデタラメにも程があるだろ。俺一人っ子だし。だが...
とうとう俺にも春が来た。
「ゆうや、今からあーそーぼっ」
と、後ろから抱きついてきたのは同級生の真理。1年前に両親と妹を火事で失ってから僕の家に居候している。
「だめっ、先輩は私と今からデートなんです!」
と、やや強引に手を繋いできたのは後輩の春香。2年前に彼女の居ない間に、強盗に襲われた。で、彼女も居候。
「ゆうやはモテモテだねえ、まあゆうやくんは私のこと選ぶよね。ねー、ゆうや?」
と、前面から抱きついてくる、幼馴染の灯莉。半年前に、両親が突然失踪した。もはや当然のように居候。
「ねえ!」
「先輩は!」
「誰選ぶの!?」
一斉にこっちを見る。これぞ嬉しい悲鳴。3人の女のコに睨みつけられるなんて、まさしく春。
「う、うーん、そんな決めきれないよ...」
「そんなこと言ってると、嫌いになっちゃうわよ!」
「そうです!早く私に決めてください!」
「ほらー、悩んでると他の子がどっか行っちゃうぞー。ま、私は行かないけど」
「行かないわよ!」「行かないです!」
と、こんなのが毎日、毎日続く。正直、幸せとしか言いようがない。やってよかった。
肉を焦がす匂いと撒いたガソリンの甘い匂い。炎の中で悶える3つの人影。隣りで怯えた顔をした真理。
包丁で刺しても刺しても蠢く肉塊。死体を沈めるほどの赤い液。声が出ないほど絶望して家に駆け込む春香。
灯莉のことを愛していたあの2人は、彼女の危機と聞いて疑いもしなかった。2つの声はダム湖に木霊して、消えた。死んだような目でただただ涙を流す灯莉。
あの日、心を失った彼女らも今では僕を取りあって喧嘩している。小説やアニメの出来事じゃない、僕自身のハーレムだ。