3話 触手飛ぶ
改稿するっすー! 少しだけ。
ジャンヌの森 木の枝上
朝日が木々の隙間から露に濡れる草花に降り注ぐ。辺りに濃い草と土の匂いが立ち込め、そよそよと葉を揺らす微風に乗って森の外へと流れていく。
「うっふっふーん。ぼくはローパ~。みんなのローパ~。触手がうねうねするのですー。ボディーはぷるぷる、触手はうねうねするのですー。ぬっふんふ~」
今日も触手さんはノリノリです。先日、大切にしていた太鼓が破けて、さらに良く分からない内に金縛りに掛かり、死を覚悟した触手さん。今ではすっかり元気です。
「にょろ~? にょろー。にょろ~? にょろー。うにうに~のヘイ!」
歌と共に触手も踊る。ルビーの様な色合いのボディーと触手が、くにくに、くねくねと前後左右にお辞儀する様に振られています。ペニョリペニョリと。
ファンタジー丸だしの不思議生物触手さん、ボディーと触手は共に水晶の如く透き通り、まるで宝石の様です。触手さんの体内には、異物等は一切無くその魅惑の肢体は、ぷるぷるする最高品質のルビーでありました。あっ、粘体ではありますけど、粘液は出していませんよ。
ほぼ粘体生物の触手さんは、触手うねうねだけではなく、ぷるぷるもしていて、正に一石二鳥な生き物である。ちなみにローパーとして進化していくと、ボディーと触手が粘体ではなくなるので、初期キャラならぬ、初期ローパーの限定特性である。実はレア。
今ではマスコットの座をウサギ系魔物に譲っているが、もともとは、ローパーがマスコットになる予定であった。もっとも最初から無理な話ではあったのだが。
ことの始まりは神々が世界創造の際に、マスコット的キャラの魔物デザインを募集した事にある。大量に集まったデザインは、どれも似たり寄ったりで、何処かで見たようなものばかりだった。悩みに悩んだ魔物作成担当の神は禁断の手段に頼る事にした。
禁断魔法「混ぜちゃえ」である。
スライムに触手を埋めたこの姿は、「デザイン面倒だからって、色々パクって混ぜやがった!」と多くの神の突っ込みを誘った。
当然としてその可愛いさは理解されず、しかも実際に産まれ、育つ過程で直ぐに粘体から卒業してしまい、イソギンチャクそっくりになると、今度は「なんか普通」と言われる始末。
更に悪いことにイソギンチャク(正式名ローパー)からいくら進化しても、もう粘体には成らない上に、でかく、太く成長していくので、
「エロ魔物やん(笑)」
としてネタ魔物扱いされていく。実際のところ、ローパー属は腐肉しか食べず、粘液とか出さないし、生き物を襲ったりしない植物系の魔物で自然界の掃除屋として重大な役割を持つが、他の世界のイメージがあまりにも悪すぎた。
そして魔物作成担当が激務による過労で倒れたので修正が入ることなく、そのままネタ魔物になってしまった。
ぷるぷる生物は他にもいるが、ローパーの反省を踏まえ、皆無難なデザインに落ち着いた。これら一連の騒動をまとめて、「ローパー事変」と呼ばれている。
そんな悲しい歴史を気にすることもなく、触手さんは今日も元気です。あっスクワットしてる。
「よーし! 現実逃避もこの辺にしますか~」
餅つきに見えるスクワットを止めてから、今度は触手をあっちこっちに伸ばしては、ボディーごと、ひねる触手さん。スライムっぽい土台を中心にでんでん太鼓の様に触手が舞う。巻きつき、震える全身が朝日に照らされ輝いていた。
「くくくっ。まさか木登りもハードモードだとはなぁ。くっくっくっ。はっはっはっ。ヌワッハッハッハ~。………どうやって降りよう?」
『奥義、触手でんでん』を終わらせ、乾いた笑いとため息をつく触手さん。まるで猫みたいです。
「う~~。滑り落ち? しかないよね~。紐無しバンジーは怖いし。ベチャルだけで死なない可能性が高いけど。む~。そこまで勇者じゃないし。むしろ魔物だし」
触手を艶かしく動かしながら悩む触手さん。今いる場所は地上から大体12メートル上の枝の上。触手さんオンザブランチである。今は、そこそこに太い枝に乗っかっているが、真下には、地面まで足場となる枝が無い。
「うん。調子に乗って登り過ぎたね。うん。だけど! 後悔は……してる。うん。めっちゃしてるから神様ヘルプ! ギブミーロォーーープゥ!!」
凹んでいて力無く垂れていた触手が今度は一転してカウボーイの縄の様に振り回される。神は干渉禁止なので自力で頑張ってください、触手さん。
「ぬおぉぉ~。何であの時『行ける所まで行っちゃえ、テヘペロ』なんて考えたんだー」
触手で足もとの枝をペチペチ叩く触手さん。その姿はギャンブルに負けて崩れ落ち、地面を拳で叩く駄目な大人を彷彿とさせた。
「よしっ! 降りるぞ~。降りるんだぞー。擦りきれそうだけど………痛いかな? やっぱり。痛いの嫌だなぁ。でも二泊は流石に……ねぇ?」
既に枝の上で一泊していた触手さん。今なら朝帰りですか。気を取り直した様ですが、まだ踏ん切りがつかない様子。触手も、うにょる、うにょるんと、くねっています。
「いくぜ! 何故なら僕は! 坊や! だからさ~! とうっ!」
テンションがおかしくなった触手さん。あまりの切り替えの早さにびっくりです。まぁ赤色だし。ギリギリ有りかな? 勢いで飛び出し、木の幹に張り付いて落下し始める紅色ぷるぷるボディー。触手で幹を抱える様に、つつーっと降り始めたのですが。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ! ぐおお~? 削れてる! 削れてるよ! 腕が! 腕がぁぁ!」
木の皮は優しくなかった。
少しだけ弄ったっすー! でも気にしなくていいっすよー!