2話 触手震える
お約束ですねー。
ジャンヌの森 森の広場
今日も森の中から太鼓ペコペコと触手のシャウトが聞こえてくる。今の時刻は大体お昼頃。いつもこのくらいの時刻に触手のステージが始まる。
「ぐへへへ。ここか? ここがエエんか? どや? どないや? ぬへへへ」
ごめん。間違えた。ステージじゃなくて変態さんの独り言だった。
「おうおう! ゆるゆるやないかい。ゆるっゆるやで? こら自慢の触手でキュッキュッせなな?」
まるでチンピラの様な物言いで攻め立てる触手さん。
あの触手さん?
「ほれほれ。強情やなー。ほれええ音出しぃや? 我慢は身体に毒やでー。ほ~れ。ほ~れ」
今度は一転して、ものすごく優しい声で語り掛ける。あまりの甘さに触手も淡く震えています。
あのこれ全年齢対象なので……あの……その……。
その時突然辺りにブチッ! と大きな音が響きました。
ちょっ! 触手さん! ナニしてんのあなた!
そして絶叫が休憩所に鳴り響く。
「ギィヤァー! イヤー! ちょっ?! マジで?!」
なっ!?
「あーやりすぎたー。あはは。……どうしよう」
触手さん?! 貴方って人は、なんて事をしてるんですか! どうしよう? ではありません!!
ちゃんとお相手の責任を……を? そういえばこの場には触手さんしか生き物がいません。始めから聞こえてくるのは触手さんの声。絶叫も触手さんの声。変声期前の男の子の可愛い声でプリチーラブリーな。
「うーやっちゃった。強く張りすぎたー。……やっちゃったよ。どうしよう、つなぐ? いやいや無理っすよ、道具もないし。む~とりあえず破けた皮で、もう一個作ってみますか~?」
そうです、この声です……って、えーと、つまり?
「うむ。太鼓次郎の完成だ~。どうかな~いい音出るかな~」
ぷるぷる震えながら太鼓を叩く触手さん。
てしってしっ。
「………うん。駄目だね」
深くため息をつく触手さん。全身の触手が、へにょりとして地面に垂れていきます。でろーんと。溶けてないのが不思議なぐらいですね。
……ええ、わたしは、触手さんをシンジテマシタヨ。バッチリです。ええ。
「どうしよう。皮……どっかに落ちてないかなー? 森に入るの嫌だな~」
何で関西弁なんですか?! 何でどエスモードなんですか! ドキドキが止まりませんよ! キュンキュンですよ!
「もともと拾い物だからなー。自力でなんて無理だし。ぬぅ~仕方ない。こっそり見て回るか? いや、また奴に見つかったらひどい目に遭うしー」
触手さんが悩む。触手も悩ましげにうねっています。うにょるん? にょる? あえて音をつけるとこんな感じですね。
可愛い声であんな風に言われたら、もう……もぉう……もぉおー! 辛抱たまらん! ぜーはーぜーはー。
ピキーン!
「ん? 何だろう? 殺気? いや、そんなん分かんないし。ん~邪気? なんか身体がピリッとする?」
はっ! いけない。ちゃんと触手さんの日々の生活を記録しないと。しっかりと……うん……しっとりと……うん……じっくりとね? じゅるり。
デローリ!
「はうっ! なんか来た! 何かビクンと来た! ヤバい。とりあえず逃げよう! 何か知らんがヤバい!」
わたわたと触手を振りながら逃げ出す触手さん。紅珊瑚の様な色のボディーが触手をふりふり、一番近くの木を目指します。よいしょよいしょと聞こえてきそうです。
「ふんぬ~。ふんぬっ!」
意外と男臭かった。掛け声は男前だが、見た目がヤバかった。いろんな意味で。
ぶはっ! ダメ! ダメよ! そんな透け透けぷるぷるボディーでえっちらおっちら動くなんて! はっ!? それは誘っているの?! もう鼻血がフリーフォールよ! 限界越えてるのよ! むしろ私の鼻血が貴方の着色料なのよ! 貴方に染まった私の鼻血で、貴方を染めて欲しいのね!? ガロンでいけるわよ!
「ピィ! ヤバい。マジ。ヤバい」
尋常ではなく怯える触手さん。震えが止まらず、全身がぶるぶるするので移動もままなりません。頭を抱える様に触手がまとまり動けずにいます。
何とかして動こうとしますが、上手くいかず横倒しになってしまいます。コロリンと。
うふふ。くふふ。ぬふふへへほふぅ。もう! ソンナニタベラレタイなんて! 仕方ナイデス! いただきますよ! イタダカセテモライマスヨ! ソレデワ……ん? ん~?
交代の時間です。速やかにお帰りなさい。この変態。
なぁ! なんですか! まだ私は仕事中ですよ! マイハニーのあっ……ちょっと! ……接続解除完了。これでよし。
「短い人生だったなぁ。………次は、ローパー以外がいいかなぁ」
全然良くなかった。もはや諦めている触手さん。ですが、まだ今世は続きますよ?
ガロンは液体の単位で、1ガロン大体3.8リットルです。バレルと迷ったけど、バレルはちょっと多いのでガロンです。