独身OLたちは言われたい!
「いいなぁ、利香ちゃん」
「ほんとよねぇ」
「まさかの一番乗りされちゃったよぉ」
私は小学校の頃から、なんと就職先まででずっと一緒という腐れ縁と言える美弥ちゃんと一緒に何度もため息を吐きつつ会社へと向かっていた。
「ついに3人一緒が崩れちゃったかぁ」
「ま。仕方ないよねぇ」
今まで十年以上も一緒に行動していて、3人一緒があたりまえだった私たちは2人になってしまった。
利香ちゃんが結婚してしまったから……いや、してしまった、と言う言い方は良くないけどさ。
「いいよねぇ、開発部の3年先輩だって?」
「格好いいもんね。私もお昼休みに誘ってくれる先輩が欲しいなぁ」
「いい男は売り切れか売約済みだしねぇ」
「利香ちゃん、毎日のようにお昼に誘われてたらしいし、こうなるの見えてたよねぇ」
利香ちゃんは申し訳なさそうに、でもすごく嬉しそうに私たちに婚約へ至る経緯を教えてくれた。
先輩のいる部署に配属されて、配属早々とんでもないミスをして、泣きながら残業してたら先輩が手伝ってくれて、一緒にお昼を食べるようになって、初めてデートに誘われて……遊園地の観覧車の夜景の中でプロポーズされた。
もう、羨ましいを通り越して、死ねばいいのに……って、まぁこれは長い付き合いだから許される冗談だからね?
例え、利香ちゃんがガクブルしてようとも、ええ冗談ですとも。
「でも、先輩も意外と情熱的だよね」
「どうかなぁ、結構てんぱって、思わず口に出ちゃったのかも」
「それありえるかも、あの先輩って全然女性慣れしてなさそうだったし
「私たちを利香ちゃんが紹介してくれたときも、メチャ緊張してたし」
そのときの様子を思い出して笑ってしまう。
ひとしきり笑った後、揃って深いため息をこぼし、空を見上げる。
青い空なんて、って叫びたくなる。
『僕の子供を孕んでください、かぁ……いいなぁ』
利香ちゃんが嬉しそうに教えてくれたプロポーズの言葉。
これ、女性がプロポーズで言って欲しい言葉の不動の第一位なのよね。
昔は『毎朝僕のためにみそ汁を作ってほしい』ってのもあったみたいだけど、今は時代が変わってあまり使われなくなった。
最近は朝食はパンって人も多いし、作ってもスープくらいだから、さすがにお湯注ぐだけのモノをプロポーズの言葉に使うのはどうかと思うし。
その結果、台頭してきたのが『僕の子供を産んで欲しい』というものだった。
元々、子育ては結婚してないといろいろ問題が多い。もちろん、結婚していないとダメというわけではないが、していないよりはしている方が負担は少ない。
要は『結婚して、一緒に子供を育てよう』が転じて、『結婚しよう』という意味で使われることになったわけ。
ただ、これもまたもう一捻りあって……。
数年前、ある野球選手の結婚発表の際、笑い話としてこんな話が紹介された。
定番の『プロポーズの言葉は?』という質問に、野球先取は顔を真っ赤にして黙り込んで、お相手の女子アナがくすくすと笑いだした。
レポーターたちが首を傾げていると、その女子アナが話し始めた。
「この人、女性に不器用でものすごく緊張してるのがすぐわかっちゃって、ああ、私プロポーズされるんだな、って予感したの」
彼女は幸せそうに笑う。
「だから、急かしたりしないでじっと待ってたんです……そうしたら、ますます緊張したんでしょうね」
横で真っ赤になっている彼に笑みを向ける。
「多分『僕の赤ちゃんを産んで欲しい』って定番を言おうとして、失敗したんでしょう。『ぼぼぼぼ、僕の赤ちゃんを、孕めっ』って……」
一瞬の沈黙の後、能レポーターたちと女子アナかから一斉に爆笑が起きる。
「今まで交際してきて、一度だって命令口調がなくて、いつも優しくて大事にしてくれる彼がまさかの命令口調でびっくりして、思わず『はい』って即答しちゃった」
ペロッと舌を出して笑う彼女は本当に幸せそうで。
翌日のスポーツ紙では『孕めっ!』の見出しが躍った。
多くの人が通常会話でも使うようになり、おかげでこの年の流行語大賞に選出されたほどだった。
その後『産んでくれ』よりも男らしいと、プロポーズの定番になってしまい、普通の会話にも混ざってくるようになった。
「うー、私にも『孕め』って言ってくれる彼氏が欲しいよぉ」
独身女、二人の叫びは青い空に消えていった。