6話 賽は投げられた
さて、冒険者ギルドに入ってみた。
すると、中にはいかにも荒くれ者な感じのオッサンから、ウキウキと掲示板らしきものを見ている若者まで、多くの人で賑わっていた。
ルシャナに話しかける。
「あの掲示板で依頼を確認するのか?」
「そうみたいだよ。でもとりあえず先に登録を……って聞いてよ!」
「ちょっと見るだけだって」
受付をスルーし掲示板の方に向かう。
すると、さっき見たいかにも荒くれ者なおっさんが話しかけてきた。
「よお兄ちゃん。あんま見かけねえ顔だな」
まずい、これはテンプレの予感。
お約束なら、『お前みたいな奴が冒険者になるとか嘗めてんのか?』と因縁つけられる流れだ。もしくは先輩として色々教えてやるとか言われて騙されるパターン。
ここは波風を立てないようにしよう。
「はい、たった今この町に来たところです。よくわからずに入っちゃったんですけど、ここ冒険者ギルドなんですか?」
冒険者になりにきた訳じゃないアピール。さすがに一般人に手を出しては来ないだろう。
「なんだ、入り口の看板見なかったのか?てっきり新入りかと思ったぜ。」
成功。
「気付きませんでした。入ったらあなたみたいな屈強な人ばかりで少し驚きましたよ」
「ハハハ!まあ気取ってるだけのひょろい若造も多いけどな!俺を見てそう思ったんなら兄ちゃんも見る目があるぜ」
よし、現実でも有効な俺の「とりあえず友好的に接してすぐに少し仲良くなる作戦」はここでも通じるようだ。
これのおかげで俺は不良や権力者相手にもある程度良好な関係を築いてきた。
「見ると兄ちゃん、結構鍛えてるじゃねえか。そこらの若造と比べたら兄ちゃんの方が見込みもありそうだけどな。旅行か何かか?」
「ええ。連れと二人でちょっと立ち寄ってみただけなんです」
「へえ。まさか女か?」
「いやいや、女だったら良かったんですけどね。男なんですよ」
しかもそいつ救世神様なんですよー。とは言えない。
冒険者と話しているとその連れも話に入ってきた。
「なに?もうこっちの人と仲良くなったの?」
威厳の欠片もない神が気安く話しかけてくる。
あれ?そういえば威厳がないと思ってるの俺だけで、この世界の人は相手が神だってわかるのか?
教皇達もすぐに恭しい態度になってたし……
「なんだ、連れの方は随分優男だな。確かにこっちは冒険者なんか無理そうだな。」
そんなこと無かった。教皇達は自分達で神を呼ぶ儀式をしてたからすぐに信じただけか。
そういえばダーナ様も言ってたな。基本的に、信仰の少ないうちは救世神も勇者も周りから見れば一般人と変わらないらしい。
それで自分から神とか名乗っても頭のおかしい奴としか見られないだろうな。
「……………………」
……あれ?ルシャナさん?何ちょっとイライラしてんの?
「兄ちゃん達、観光なら早いとここっから出た方がいいぜ。冒険者連中は変態も多いからな。金髪の兄ちゃんなんかすぐにケツ掘られちまうぞ!それとも兄ちゃん達が既にそういう関係か?」
ガハハハハ!と荒くれ者の笑い声が響く。
「ははは!怖いこと言わないでくださいよー!ていうか俺とこいつがそんな関係なんて考えただけで吐いちゃいますって!」
下ネタの笑い話にはノリ良く返すのがいい。
だからルシャナ、その顔やめろ。なんか眉がピクピクしてるぞ。
「悪い悪い!とりあえず、ホントに気を付けな。その辺の変態どもが金髪の兄ちゃんのを嘗め回すように見てるぜ!」
「恐ろしいですね!」
あはははは……
「君、誰に向かってものを言っているかわかってるのかい?」
はは……ハ?
「……あ?」
「僕たちが誰だかわかってるのかと聞いているんだ。頭だけじゃなく耳までお粗末なのか?」
おいアホ神、何を言い出す気だ?
「……なあ兄ちゃん、あんたの連れはもしかして俺に喧嘩売ってるのか?」
ほら!荒くれ者さん一気に機嫌悪くなっちゃった!
せっかく俺が第一印象良くしたのに台無しにすんな!
「い、いや~…どうしたんでしょうね?」
おい!変なこと言わずに謝っとけ!
「わかってないようだから教えてやる。僕は魔王を討ち滅ぼす為に世界に降り立った救世神。そして彼は、神である僕の使いであり魔王を倒す勇者だ!!口の聞き方に気を付けろ!!」
「………は?」
……………やりやがったこの馬鹿。