4話 いい日旅立ち
「そんなに何度も殴ることないだろ!僕から言わせればこんなに良い待遇で断る方がおかしいんだ!」
このアホ、口が減らねえ。
そりゃ、あの待遇ならいじめられっ子やら引きこもりやらでも異世界に行くだろうけど…
もし現状に満足してるんだったら行かない奴もいるだろう。俺は彼女はいないがそれなりにリア充している。異世界なんて別に行かなくても間に合ってる。
あ、そうだ。この場にはもっと頼りになりそうな神様がいるじゃないか。
「ダーナ様は管理神なんですよね?こいつの代わりに道を開いて俺を帰してもらうことはできないんですか?」
かなりの力を持っているみたいだし、そのくらい楽勝だろう。迷惑をかけるが仕方ない、ダーナ様に頼ろう。
「確かに儂の力ならいくらでも世界を繋げられるし、そうしてやりたいのは山々なんだが……」
あれ?雲行き怪しい?
「何か問題があるんですか?」
「先ほどの決裁の話でも出てきたが、管理神の中でも最終決定権を持つ、神界長というのがいてな……決定権を持つ代わりに、自らの力で人間の世界移動に関与することはできなくなるのだ」
へえ、そうなんだ。
でも、それがどうしたんだ?
「神界長の座は持ち回りでな、大体100年を任期に交代しておるのだが…」
…………え、まさか、
「………一週間ほど前に、儂が新たな神界長となった。引き継ぎ作業で忙しかった間に、この馬鹿が暴走して今に至る」
「いやー、僕才能あるから!管理神に頼まなくもここへ繋げられちゃってさ!ついでに契約前に異世界へも繋げられるかやってみたら、これまたできちゃったんだよね!そのせいでもうすっからかんだけど」
もっかい殴り飛ばす。
「そんな……じゃあ、どうやって帰れば……」
「無言どころか無感情で殴るのやめて!!恨むなら僕の才能を恨んで!!」
アホ神がまた騒ぐのを見て、中二能力とか要らないと思ってたけど今は神を殺せる力が欲しくなった。
しかし、マジでどうやって帰ればいいんだ…
しばらく沈黙が続く。俺とダーナ様が深刻に悩んでいるのに対して、元凶のアホは何故か一番不機嫌そうにしている。いつか泣かそう。
「……今すぐに思い浮かぶ方法は一つだけある」
ダーナ様が何か思い付いたらしい。
「どうすればいいですか?」
「気は乗らないだろうが……まず、そこの馬鹿と通常通り契約を結んでもらう。」
その時点でなかなか絶望的な提案である。
「えぇ……マジですか……」
「すまんな……とっさにはこれしか思い付かん」
さっきまで不機嫌そうにしていた奴がなんかドヤ顔でこっちを見ている。いや、全然お前と契約なんかしたくないからね?
「通常の手順で異世界に召喚された後、これまた通常の手順で信仰を集めてもらう。そして、ある程度の力が集まった所で、スキルを継承せずに、帰り道だけを創るのだ。この方法なら、魔王を倒すまでに至らなくても、早く帰れるだろう」
「結局異世界には行かなきゃなんですか……」
「多少時間がかかって面倒だろうが、さっき説明された各種ボーナスはちゃんと授けるから安心してくれ。序盤ならそれらのスキル等があれば簡単に活躍できるだろう」
うーん……暇潰しに読んでる分にはいいけど、自分がそんなチート主人公になるってなるとな……
なんつーか気が滅入る。
俺がわりと本気で憂いていると、またアホが調子にのり始めてきた。
「まあどっちみちやるしかないんだったら?すぐに帰ると言わずに?ズバァーンと魔王でも倒して英雄になっちゃえばいいんじゃない?なんせ勇者だよ勇者!どうせ実はまんざらでもないんでしょ?」
すげえキラキラしながら訴えてくる。
なんでそんなに俺を勇者とか英雄にしたがるんだ…
「………帰れるようになったら即帰る。はっきり言って人選ミスだから。俺は諦めて違うやつを呼んでくれ」
「えー!何でだよ!どうせ行くなら最後までやってよ!君にやって欲しいんだよ!!」
「こっちが何でだよ!?俺じゃなきゃいけない訳じゃねーだろ!」
「僕は君がいいの!」
思ったよりこだわるなコイツ。条件以外にも何か俺を選んだ理由があるのか?
「あの条件に当てはまる人って大体ヒョロかったりコミュ障だったり根暗な感じだったりでいまいち頼り無さそうだからさー、いくらチートボーナス与えるって言ってもなんか不安なんだよねー。その点君なら現時点で結構充実してるみたいだし、身体もガッチリしてるし、君なら早めにクリアして僕も早く昇格できそうじゃん?」
顔面に前蹴り。
「足はやめよう!!手ならまだしも神様を足蹴はやめよう!!」
「結局てめえの都合じゃねえか!しかも俺が普通に満足してるってわかってて連れてきたのかよ!!」
「男なら早く出世したいじゃん!」
「うるせえ!絶対すぐに帰るからな!俺の現実を返せ!」
本当に冗談じゃない。なるべく早くコイツと離れたいからもうさっさと行こう。そしてさっさと帰ろう。
「じゃあダーナ様すいません、早く行ってすぐ帰りたいです」
「う、うむ。では儂が代行してルシャナとの契約を結ぼう。その方が君の気分もマシだろう」
「そうしてくれると助かります」
「僕だって契約くらいは普通にやるのに……」
できるだろうが、気分的にお前に任せたくないんだよ。
「では、スキルや能力はどんなものにしようか……君の希望をできるだけ叶えよう」
あー、そうか…自分である程度自分の能力を設定できるのか……
あ、そうだ。
「すいません、じゃあその代わりにというか、ちょっと相談があるんですけど……あのアホには内緒で」
「うん?」
「いくつかあるんですけど……」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
目の前の空間に人が通れるくらいの穴が開く。穴の中はドラ○もんのタイムマシンにのってる時の風景みたいになっている。
「さて、あとはこの穴に入れば異世界に召喚される訳だが……本当にさっき言った条件でいいのか?もっとわかりやすく強い能力の方が……」
ダーナ様が心配そうに声をかけてくる。
「いいんです。性に合わないし。それに、ある意味安全でしょう?」
「それはそうだが……」
「ねーどんなスキルにしたの?どんな俺tueeeeeeするの?僕だけには秘密なんて寂しいじゃないか。教えてよー」
いちいちうるさいなこのアホ神は。
「いいだろ別に。どうせすぐわかるんだから」
「えー。けちー」
とりあえずコイツの思ってるような事には絶対ならんようにした。俺もその方がいいし。
「とにかくさっさと行くぞ。とりあえず本気出してお前の信仰とやら集めてやるから」
「でもすぐ帰るんでしょ?」
「当たり前だろ、次の人の目星つけとけよ」
「へーい……」
こうして、行きたくもない異世界でやりたくもない勇者をやることになった。
途中で消える予定だけどな。
覚悟を決め、俺は穴の中に入った。