2話 帰りたい 帰れない
「な ん で ! ?」
声が大きい。いや、だって…
「最初に行きたくないって言いましたよね?説明を聞いた上で決めろって言われて、説明されても心が変わらなかった。それだけの話です。」
「行きたくないとは言ってなかったじゃん!憧れてないってだけだったじゃん!え、マジで行きたくないの!?」
「マジですねー」
「軽いよ!ギリ敬語だけどだんだん態度が緩くなってるし!」
だってなんか話してるうちにこの神様全然威厳無くなってきてんだもん。ていうか最初からあんま威厳があるって感じはしなかったけど。
「なんで!?良いことばっかりだってことわかったよね?ちなみに嘘はついてないけどまだ隠してることがあって、実は君を騙してるとかそういうのも無いからね!?」
それはあんたが自分で言ってもしょうがないだろうに。そう言われたからって信じられる事じゃないし。
「そこは別に疑ってる訳じゃないんですけども」
「じゃあなんで!」
ここは普通に本当の事を言おう。
「明日ラグビーの試合なんで」
「…………へ?」
キョトンとしちゃった。
でも本当のことだし。
「………それだけ?」
「はい。俺が行かないと人数足りなくて試合できなくなっちゃうんで」
「スポーツの試合が、異世界に行けるより大事?」
「そうなりますね」
その辺の価値観は人の勝手だろうに。
あれだけの条件が確定してればそりゃ行きたい人は多いだろうけど、俺はそうじゃないってだけの話だ。
ちなみにプロじゃないよ。趣味でやってるクラブチームだよ。
「………おかしい!君おかしいよ!!何個も条件に合致してるのに!複数合致してれば喜んで引き受けてくれるって聞いてたのに!」
なんか今気になる事言ったな。条件?俺がいくつも当てはまってるって?
「ちょっと文句言ってくる!」
そう言うとルシャナは飛び上がり、来た時の光の中に戻っていった。
光がゆっくりと消え、また周りが真っ黒になる。
1人にされても困るんだけど……
はっきり断ったんだから早く帰らせてくんないかな。
することもなくしばらく待っていると、再び光が差した。
光の中から金髪イケメンが………すごい勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐげぇっ!!」
神様とは思えない呻き声を上げ、そのまま動かなくなった。
だいぶボコボコにされているが、おそらくさっきのルシャナだろう。
状況が飲み込めないでいると、光の中からもう1人降りてきた。
そこで倒れてる金髪と違い、威厳に満ち溢れた、いかにも神様という感じのでかい老人だった。
ちょんまげ頭に胸までには伸びた立派な髭、顔年齢に似合わぬ筋骨隆々の肉体。
どっしりとした風格があり、そこに転がってる神様(笑)より上位の神様であることが見ただけでわかった。
その神様は俺を見るなり、
「この度は、弟子がご迷惑をお掛けして誠に申し訳ない!この者に代わって謝罪する!」
と、頭を下げてきた。
え、そこまで謝るほどの事なのか?帰してもらえばそれでいいんだけど。
「あ、いや、そこまで謝らなくてもいいですよ。帰らせてくれれば」
と言うと、師匠であるらしいこの神様は、非常に神妙というか、申し訳なさそうというか、困ったというか…色々合わせた複雑な表情になった。
え、何?連れてきたんだから帰せるでしょ?
「その事なんだが…」
「いっっっったい!あそこまでやることないじゃないですか!才能溢れる一番弟子ですよ!!」
さっきそこで転がってた金髪が急に起き上がった。さっきまでのボロボロだった外見が怪我も含め治っている。なるほど、その回復力は神かもしれん。
「るっさいわ馬鹿弟子が!お前も謝らんか!」
「せ、説得しましょうよ!もうそれしかないんだから!」
なんか不穏な空気を感じる。これ、もしかして……
「……………戻れないんですか?」
「え、ちょ、マジで!?なんか答えてくださいよ師匠さん!!」
「すまん……本当にすまん………」
俺が……俺が何をしたっていうんだ…………