1話 初めまして神様
思えば、子供の頃から二面性というか裏表のある生活を送っていたような気がする。
幼稚園の時から、一日中家の中で遊んでる日もあれば、朝から夜まで外で遊んでる日もあった。
小学生になって、女の子とばっかり遊んでる時期もあれば、男子連中とエロ本探しに夢中になってたりもした。
誉められた話ではないが、俺が中心になって一定の子をいじめてた事もあった。
その後しばらく俺がいじめられる対象にもなった時期もある。
中学生になって、部活でラグビーを始めた。
部の先輩は町では中々の不良だったようで、先輩に気に入られた俺は一緒に酒を飲んだり煙草を吸わされたりしていた。
そんな中で、中学生のくせにSNSのオフ会に行って遊んでたりもした。
キャプテンとなり日々ラグビーの練習で汗を流しながら、アニメや漫画にハマり出したのもこの頃だ。
コミケも行った。
高校は県内で一番のラグビーの名門に入り、全国大会目指してほぼ休みなく練習の日々を送った。
そんな中でもお盆は数少ない休みだったので、夏コミは行ってた。
3年連続で冬の全国大会に行ったので冬コミは行けなかったが、オフ会で知り合った友達に薄い本を代わりに買って貰ったりしてた。
この後も卒業して、就職して…と話は続くのだが、とりあえず俺が裏表のある暮らしを送っていたことは伝わっただろう。
さて、何故今こんな事を思い出しているかというと………
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「なにここ」
思わず間抜けなリアクションをしてしまった。
目が覚めたら真っ黒だった。真っ暗じゃなくて真っ黒。夜中に目が覚めたとしてももうちょっと何か見える筈だ。
しかも不思議なことに自分の体ははっきり見えている。
夢を見ているにしては意識はやたらはっきりしている気がする。明晰夢とかは体験したことないからそれかも知れんけど。
「あ、携帯はある」
枕元に置いてあった携帯とついでにタブレットは発見した。一応画面を確認してみたが圏外だった。
どうしたもんか。
「………んん?」
困ってぼーっとしていると、前方斜め上から白い光が降り注いできた。そして光と共に、やたら神々しい格好をした金髪イケメンがふわーっと降りてきた。
いやマジでなんなのこの状況。
着地(地面あんのかこれ?)した金髪は、滑らかな日本語で喋りだした。
「目が覚めたようだね。すまない、いきなりのことで驚いただろう。初めまして、大室 亨くん」
「僕が出てきて余計驚いてしまったかな?僕の名前はルシャナ。君に分かりやすくざっくり言うと、君がいた世界とは違う世界の神だ。僕が君をここに連れてこさせてもらった」
「ここは、君の世界でも僕たち神の世界でもない場所。これもざっくり言うと、次元の狭間、といったところかな。神の力を使えば、どの世界からでもここに来れて、ここからどの世界にも行ける、そんな場所さ」
「僕が君をここに連れてきたのは、ある頼みがあってね。頼みと言っても、きっと君も喜んで引き受けてくれると思う。君の世界にいる多くの君のような若者たちが望んでいることだ」
「ずばり、君に、世界を救ってほしい」
「ごめん、これだけだとなに言ってんだお前って感じだよね。細かい説明は今は省くけど、君にとっては聞き覚えのある話さ。ある世界に魔王が誕生し、魔王を倒す勇者として君が召喚されるって話だ。わかるでしょ?」
「だからまずは落ち着いて僕の話を聞いてほしいんだけど…………ごめん、せめて返事とか相づちとかしてくれない?ちゃんと聞いてるのかわかんないし一人で喋ってるのすごく虚しい!」
「西洋ファンタジーな見た目なのに仏様みたいな名前ですね」
「最初にそれ言う!?」
あ、思ったことそのまま言っちゃった。
「いや、なんつーか、唐突過ぎて名前くらいしか理解できなかったんですいません」
「だとしてもまず言うことがそれって…割と気にしてるのに…」
気にしてんのかよ。つーか違う世界の神様の癖に仏様知ってんのかい。
「とりあえず、ちゃんと聞いてるみたいだから話を続けてもいいかな?」
「その前にちょっといいですか」
今の説明で気になるところがあった。いや気になる所しかないけど。
「なんだい?」
「俺が喜ぶ話とか、魔王とか勇者に聞き覚えがあるだろうとか……俺、そんなものと無縁の世界にいたはずですけど」
「え?だって君、ネット小説とかよく読んでるでしょ?」
………………え、こいつ本気か?
「君、よく異世界モノってやつ?読んでるみたいだからさ、憧れてるんだろうなーと、ちょうどいいやと思って君を選びました!」
マジみたい。いや確かにそういう設定の小説も読んでるけども!
「別に憧れてはないです」
「そうだよね!自分もこんな世界に行きたいと!いろんなスキルやら魔法やら知識で無双したいと!そう思って…………え、憧れてないの?」
「全く」
「よく読んでるのに?」
「手軽に読めるから読んでるだけですし」
「……………マジで?」
「はい」
「」
黙っちゃった。
いや、でも本当に行きたいとかは思ってないし。
よく読んでるっつってもあんまり集中して読んでないし。
「……いや、でも今からちゃんと説明するから、その上で行くかどうか決めてくれないかな?いいことばっかりだから!」
説得して納得させる方向にシフトしたようだ。
つーかこれ本当に夢じゃないのか?まだ半信半疑だけど、かなり意識も感覚もはっきりしてるから…やっぱり現実なのか…
とりあえず、話だけでも聞いてみるか…
「じゃあ、とりあえず何もわかんないんで説明お願いします」
分かりやすく顔が明るくなった自称神様。
まあ異世界ものでいいことって大体予想つくけど……
「まず、君の全ての能力にかなりの成長補正が入る。行った先の世界で天才と言われるような人たちの何倍も早く強くなれる。努力すればするだけすぐに効果が現れるってことさ。そしてレベルもステータスにも上限はない。」
うん、成長補正に青天井ね。あるだろうね。
「発現するスキルも世界で君だけが持つユニークスキルとなる。もちろん君が欲しければ一般的な他のスキルも覚えられる。更に、1人が持てるスキルの数は通常その人の素質次第で決まるが、君の場合はそれも上限がない。」
うん、唯一の能力にスキルの大量保持ね。あるある。
「そして、君が望んだ効果のスキルを創作することもできる。もし何も思い浮かばなければ、こちらで強いものを用意しよう。」
スキル創作に神から貰えるスキルね。はいはい。
「何より君好みのかわいい女の子がたくさんいる。もちろん全員ではないけど…」
まあ、それはそうだろうな。
「全員ではないけど、君が持つことになる主人公補正によって、かわいい子はみんな君への好感度が上がりやすくなる!もちろん悪いことをすれば下がるけど、よっぽどの事をしない限り大体良い方に解釈してくれるよ!」
身も蓋もない言い方すんなあ。まあありがちだけども。
「更に、赤ん坊から始める転生か、今の年齢のままで召喚されるか選ばせてあげよう。転生だと間違いなく美男子に育つし、召喚の場合でもある程度見目良くしてから送ってあげよう。かわいい系美少年でも、スマートなハンサムでも、ワイルドなイケメンでも思い通りにしてあげるよ!今の君はその……普通だからね」
ほっとけ。自分がイケメンだからって気を使うな。
普通というかどちらかと言うと女受け悪い顔してるの自覚してるわ。
「これだけのメリットがあるんだ、努力次第で必ず魔王を倒すだけの強さまで成長できる。そうなれば君は英雄だ。イケメンになり、かわいい女の子とも仲良くなれる。結婚だって、やりようによっちゃハーレムだって作れるだろう。」
確かに、今聞いた話はいいことだらけだ。最初にある程度努力して成長補正で能力を爆上げし、チートスキルでも持ってればすぐにその世界で無双できるのだろう。
魔王を倒すのにも十分な能力を得ることができるだろうし、かわいい女の子がいて好かれやすくなるってのも魅力的だ。
「うん……確かに得が多そうですね。もちろん強敵も出てくるんだろうけど、ちゃんと努力すればそいつらにも必ず勝てるってことですよね?」
自称神様の顔が更に明るくなった。食いついた!と思ったんだろう。
「そうそう!君は世界一、というか無限の可能性を持つことになる!必ず魔王を倒せるようになるよ!」
青い瞳をキラキラさせている。ずいぶんチョロそうな神様だな。
「なるほど、確かに良い話ですね。なかなか出来ない体験もできそうだ」
「うんうん。協力……してくれるね?」
そういうと彼は優しく微笑み、その右手を差し出してきた。
俺は笑顔を返して、力強く神の右手を握り返した。
「お断りします。」