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夢追い人の跳躍 3

 一体全体どうなっているんだ。

 うちにおいでよ、と少年に言われるがまま着いて来ている―――のだが。

 横を歩く青年を横目でちらちら見上げる。

 どう見ても水灰道理だ。何度見ても水灰道理だ。え? え? どうなっているの?

 それに、この―――この今いる世界。ここはどこだろう? 日本ではない。赤茶けた砂っぽい地面にどこまでも続く布を出店のように貼った布が強い日差しを遮る。寝巻きのタンクトップに七部丈のスウェットというのはこの湿度なく気温の高い環境に合ってはいたが、何とも心細かった。

 因みに靴は現場用のスニーカーだった。足元だけはきちっとしていたのでほっとする。何故だか靴下は履いていなかったけれど。

 微妙な不快感を感じつつも、けれどそれよりも強く、今現在の状況が謎だった。一体全体何がどうなればこのいきなりな世界で水灰道理と行動を共にするのだ。

(えっと……HDを読み込んで、ソフトを立ち上げて……)

 安達から預かったハードディスク。それをMacに繋ぎ、編集ソフトを立ち上げた。タイムライン上にデータを投げ、まだカット分けされてもいないデータを見て、……ああまだこれは編集前段階の荒編ですらされていないのだ……と理解し、

(つな……げた。そう。繋げたんだ、カットを……)

 職業病とも言える。だって仕方がないだろう、実際職業でこれで生活しているのだ。もう少し賃金を上げて欲しいことこの上ないがそれは誰しもが願うことだろう。昇給。なんていい響きだろう。でも今は昇給以前に誰か助けて。

 流れるように現実逃避しかけ、そんな場合ではないかと深く深く嘆息した。

「傷痛む?」

「え?」

「擦り剥いてる」

「え……」

 隣を歩く道理に話しかけられしどろもどろになった。彼の目線が下に向くのを感じ倣って視線を落とすと、言う通り確かに手のひらやサイドが擦り剥けていた。地面に着地した(……倒れ込んだ)時擦り剥いたのだろう。この状況にいっぱいいっぱいで気付いていなかったが現金なもので認識した瞬間ひりひりと痛み出した。

「あ。はい。へいき、です」

「そう」

 曖昧にうなずく。すぐに興味を失ったように道理は前を向いた。……会話終了。そりゃそうだ。

「名前は?」

「え?」

「名前。妖精?」

「や! えっと……紗陽、です」

「サヤ?」

「はい。サヤ……」

 何でだろう、道理が名前を口にした瞬間、その名前は頭の中で漢字ではなくカタカナに変換された。

「えっと……ドーリ、さん」

「ドーリでいいよ。サヤ」

「……ドーリ。……ここはどこですか?」

「地球のどこか」

「……」

「からかってるわけじゃない。俺もここがどこかよくわかってないんだ」

 ドーリはどこかの国名を口にしたようだった。が、それは何故かサヤの頭に残らない。ドーリの言う「わからない」は「この村小さ過ぎて地図に載ってないんだよな」というレベルの話のようだったが、サヤの「わからない」は本当に「わからない」だ。サヤの中にはきちんと、地方のあのホテルの一室で、Macを前に……

 前に?

(……ここ……)

 ……地道に、海外ロケをしていたのだろう。少しだけ見た撮影データは全て、海外のものだった。そう、こんな、荒野の真ん中に集まった集落のように―――

(ここは……)

 映画の、なか?

「まさか」

「何か言った?」

「……あの、ドーリさん」

「ドーリでいいって」

「ドーリ。あなたの―――」

 名字は何ですか。訊こうとした瞬間、少年が「ついた!」と声を上げた。

「ここだよ妖精さん! 入って入って!」

 サヤにとっては他と見分けの付かないくたびれたきなり色のシーツをくぐり、少年は中に入って行く。躊躇う様子もなくドーリも続いてしまうので、サヤはあたふたとした。今になって周りの様子が目に入って来る。同じようなくたびれたきなりや灰色の布の海、組み上げたその簡易テントのようなものの下、浅黒い肌をした人々が暮らしている―――

「サヤ?」

 ひょい、とドーリが顔を出した。

「え。あ」

「入って。じゃないとはじめられない」

 何を? とは訊けなかった。サヤは基本ノーと言えない日本人だ。しかもこの右も左もわからないようなこの状況、ぽいと放り出されたところでどうしようもない。悪意も(恐らく)なく呼ばれているのだから、これに乗るしか―――

「……は、はい」

 曖昧に答えて。

 サヤは布をくぐり、薄暗い中に入った。




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