夢追い人の跳躍 11
「結構喋れるんだな」
「……え?」
「いつも言葉に困ってる印象だった」
「……」
それは間違いではない。この世界でも現実でも、いつもサヤは言葉に困る。
「……その通りだよ。私、人付き合いに向いてない」
「ふうん」
「喋るのも苦手。説明が大嫌いなの」
「確かに説明は下手そうだ」
「下手だよ。だから嫌いなわけじゃないけど。……きっと嫌いだから上手くならないんだね」
小さく苦笑する。本当に、苦い笑みだった。
「……『黒』は人攫いなんだね。口減らしだ……昔からきっと、こんな風にこの村は動いていたんだ」
仕方なしかもしれない。やむにやまれずなのかもしれない。
けれど、『黒』は確かに存在した。
「……マルクは、寝た?」
「泣き疲れて、そのまま」
「……そっか」
そう、か。
「……」
辛い現実を。
「吞み込め」
「え?」
「吞み込め、って、私は言ったんだね」
吞み込め、吞み干せ。
絶望に打ちひしがれる少年に、サヤはそう言ったのだ。
「――――――――――――なんて、ひどい」
ぼろりと涙が伝って―――サヤは膝を折った。
「ひどい。ひどい。ひどい。ひどい。ひどい。ひどい。ひどい。ひどい。―――こんなにひどいこと、ない」
そんなにひどいことなのに、サヤは言った。
「こんなの、誰が見た夢でもない。世界じゃない。誰も望んでない。なのに―――どうして私は、こんな世界しか繋げられないの」
混乱しつつもきっとどこかで期待していた。
編集で映画は変えられるのだと。―――結末さえも、変えられるのだと。
自分の描いた夢通りに出来るのではないかと思った。―――そんなわけ、ないのに。
「幸せにしたかった。幸せな世界にしたかった。そんな世界を、作りたかった―――」
なのに。―――なのに。
「―――そう?」
しかし。―――ドーリは短くそう言うと。
サヤの目の前に膝を折った。
暗い夜の下でもわかる、澄んだ眼がサヤを見る。
「サヤが早く気付いたおかげで出来たことがある」
「は……」
「これでも旅人なんでね。村の様子はぐるっと回って何度も見てる。うしろ暗い奴らがたむろする辺りだって知ってる」
「……」
「ここから先は、誰にも言えないことだな」
そう言うと、ドーリは小さく笑った。