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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第八章 少女の正義
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第一話

 静謐で広大な神殿に埋め尽くされる魔力。勇者機関本部、『選別の間』にて銀髪紅の勇者はとりつかれたようにエターナルを見上げていた。


「レイド! 何をしておる!」


 静かな神殿に響く、老人の嗄れた声。クアラムは癇癪を起こしながらレイドに近寄ってきた。

 レイドは恐ろしく冷たい声色で答える。


「何だ?」


 その得も言えぬ雰囲気に圧倒されてか、クアラムは一瞬たじろぐ。だが、すぐに思い出したかのように怒鳴り始めた。


「何だとは何だ! こんな所で油を売る暇があったら、ファウンドを探さんか! 貴様以外の勇者は全員、奴を探しておるぞ」

「ああ、分かっている」

「何も分かっておらん! 一度ならず二度までも、奴を仕止め損なっておきながら、よくもまあそんな態度がとれるな!」


 明らかに切迫した様子のクアラムに対して、レイドは余裕の笑みを浮かべる。


「何をそんなに焦っているんだ?」

「機関が全精力を上げて調査しているにも関わらず、奴は未だに捕まらないでいる。昨日の夕べに貴様と戦った後から、まるで消息がつかめない。これを焦らないでいられるか! このままもたつけば、いずれルドルフに事の真相がばれてしまう。そうなれば、機関の存続が危ぶまれる」

「それは一大事だ」


 レイドはまるで他人事のように呟いた。レイドは興味が無かった。クアラムの事も、機関の事も。どうなろうと、知ったことでは無かった。彼が興味があるのはファウンドの事。それだけだ。

 クアラムはレイドの終始落ち着いた様子に、目を細めた。


「貴様、もしや何か知っているな?」

「知っているとも。現状が全て、ファウンドの思惑通りだということも、それが同時に俺の思惑通りでもあるとな」

「教えろ! ファウンドは一体何を企んでいる!」


 クアラムがレイドの胸ぐらを掴もうとした瞬間、深紅の光が煌めいた。レイドは瞬く速度で紅刀を抜刀すると、クアラムにつきつける。


「俺と殺りあう気か? 俺は一向に構わんぞ?」


 クアラムは歯噛みしながら、レイドを睨む。


「貴様の我が儘で機関が窮するなら、今ここで貴様を排除するのも、一つの選択肢じゃろう」


 だが、言葉とは裏腹にクアラムは振り返り、レイドに背を向ける。


「しかし、貴様との戦闘で生じる被害は多大じゃろう。不愉快だが、ここは折れるしかなかろう」


 レイドは静かに刀を鞘に戻す。


「安心しろ。必ずファウンドは俺が殺す」

「それは頼もしい限りだ」


 クアラムは最後にレイドを嘲笑すると、『選別の間』から出て行った。

 レイドはクアラムが消えるのを見届けてから、エターナルへと視線を戻す。

 レイドは知っていた。ファウンドの目的が何かを。どこへ向かい、何をしようとしているのかも。だが、それを機関に教えてしまえば、レイドはファウンドと戦う機会を失ってしまう。だから、レイドは黙秘した。

 ファウンドの計画をレイドが全て知っていることくらい、ファウンドは分かっているだろう。しかも、レイドが機関にそれを言わない事まで織り込み済みだろう。

 つまり、ファウンドはレイドが待ち受けている事を承知で来る。


「ふっふふふふふふふふふふふ」


 レイドの笑いが静かな室内に反響する。

 遂に、奴の喉笛をかっきれる時がきた。奴の脳髄を潰す事ができる時がきた。想像するだけで、興奮が体中を駆けめぐる。

 エミリアが負った痛み。数倍にして返そう。

 レイドは目を見開きながら、手を掲げた。


「お前は全てが上手く運んでいる。そう思っているだろうな。だが、そうはさせない。俺がそれをくい止める。貴様は最後の最後に絶望するのだ。復讐を果たせなかったと、怨嗟の叫びを上げながら死ぬのだ。ああ! 心が踊る! 貴様の歪んだ表情が手に取るように見えるぞ! ファウンド!」


 レイドは狂気の祝詞を刻みながら、永遠と思えるほど長い間笑い続けた。

 そして彼は最後に、エターナルにそっと触れた。


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