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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第六章 衝突と共闘
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第三話

 曇天から射す赤い光。激しく降っていた雨は少しづつ勢いを弱め始めていた。

 ライエン邸の客室。雨に濡れる芝生を窓越しに眺めるのは、ライエン家君主ルドルフ。彼の顔は異様なほどやつれ、彼の本来の威厳や風格は消え去っていた。

 ルドルフは外を眺めながら考える。ミリアがいなくなってから、二日が経とうとしている。もう、彼女の生存は絶望的かもしれない。彼女が生きていると期待するには時間が経ちすぎた。

 ルドルフは目を伏せ呟く。


「遂に一人になってしまった……」


 彼の家族はミリア一人だけだった。去年までは妻ともう一人娘がいた。だが、次期を同じくして立て続けに死んでしまった。

 彼は後悔していた。家族を大切にして来なかったことを。仕事に注力しすぎていたことを。

 だからこそ、ミリアへ過保護すぎるくらいの愛情を注いだ。最後に残った家族に対して愛を注ぐことが、死んだ彼女達への免罪符になると思っていたのかもしれない。それとも、自分はただ辛かっただけかもしれない。寂しさに苛まれ、それを紛らわすために、娘を拠り所にしていただけかもしれない。

 どちらにせよ、彼女達は帰ってこない。そして、ミリアも帰ってこないかもしれない。

 正面玄関前に馬車が止まるのが見えた。そろそろ出発の時間だ。ミリアが監禁されているだろう座標位置へ行くためだ。勇者機関に任せて手を拱いているよりずっといい。

 ルドルフは振り返る。豪奢な客室にはルドルフの栄華を象徴する品々が陳列している。

 どれもくだらない。とるにたらないものだ。ルドルフはそう感じる。

 室内は清潔で整っている。それこそ、人が今まで立ち入った事がないかと思うほど。


 そう、その部屋は平常時と比べあまりに綺麗に過ぎた。いつものルドルフなら、それに気づいたであろう。だが、彼には余裕がなかった。だから、部屋全体が半壊し、無理矢理にそれを魔法で修正したとはつゆも思わなかった。

 ルドルフは悲しみに暮れ、漠然と嗜好品の数々を眺めていく。自分の幸せとはなんだろう。金、栄誉。そんなものではない。娘が生きていること、それが親にとって最も幸せなことなのではないだろうか。

 ルドルフの目に、一つの置物が目に入る。麦と杖が交差する像。ミリアの贈ってくれた、ルドルフの一番の宝物だ。

 この一見ただの置物は、贈り物としては実に気の利いた魔法を有している。これを手に取った後では、全ての贈り物が味気なく感じるだろう。それほど、この置物は一線を画す品だった。だからこそ、ルドルフはこれをいたく気に入っていた。最近では寂しくなるとこの魔導具に触れ、心の平穏を保つようになっていた。

 ルドルフはいつものようにそれを手に取り眺めていると、階下からルドルフを呼ぶ声が聞こえた。


「ルドルフ様。準備が整いましたよ」


 執事の一人だ。彼の階段を上がる足音が、ルドルフを急かす。


「すぐに行く! 下で待っておれ」


 彼が叫ぶと執事は承知しましたとだけ言って、そのまま階段を降りていった。

 ルドルフは置物を未練がましく見つめ、それからゆっくりとした動作でそれを棚に戻した。過去に思いを馳せてもどうにもならない。ミリアが帰ってくるわけではない。

 ルドルフは後ろ髪を引かれながら部屋を出ようとした。

 しかし、その時ふわりとルドルフの頬を、金の魔力が過ぎ去った気がした。

 ルドルフは振り返る。今のは何だ。あれはミリアの魔力の残り香か。いや、そんなはずはない。ミリアがここに来るはずがない。彼女は今、捕まっているのだ。

 ルドルフは頭を振るう。遂に幻覚まで見るようになったか。もう、自分も限界なのかもしれない。


「行かねば」


 しかし、その言葉と裏腹にルドルフはその場から動けない。何故か置物から目が離せなくなっていた。


「少しだけだ。ほんの少しだけ思い出に浸るだけだ」


 ルドルフは自分に言い訳するように呟くと、その置物に手を置き、魔力を流した。



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