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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第六章 衝突と共闘
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第二話

 下水道の出口に隣接している市場区画。ファウンドは迷宮の様に入り組んだ通路を、一切の躊躇なく走り抜けていた。彼は滝のように降る雨を諸ともせずに目的地へと進んでいる。

 ファウンドは考えていた。自分は真に最適な行動をとっているのかと。死んだ最愛の彼女のために最善をつくしているのかと。

 レイドに言われた事が頭をよぎる。お前の心に、新たな感情が芽生えつつある。彼女の為に命をかけると豪語しておきながら、お前はその実、彼女のための最適な行動をとっていない。

 レイドが言おうとしていたことは何だろうか。自分の心に芽生えた感情が、復讐を阻害しているとでも言うのだろうか。

 ファウンドは自然と背後に眠るミリアを見た。凛とした顔立ちに、まばゆいほどの金髪。普段はただそこにいるだけで、息をのむほどの輝きと覇気を纏っている少女。しかし、今はそれは見る影もなく、頬をファウンドの背中に押しつけたまま完全に無防備な状態を晒していた。どうしてここまで熟睡できるのだろうか。ファウンドの背中はそんなにも安心できるものだろうか。

 ファウンドはすっと視線を戻す。ミリアがレイドの言う、新たな感情の元凶だろうか。確かに彼女に力を割いてはいる。だが、それは最愛の彼女に対する、それこそ《《免罪符》》のようなものだ。守れなかった約束の代替の一つにすぎない。相変わらず自分の思考には反吐がでる。そんなもの、やったところで意味がないと分かっているのに、やらずにはいられない。その感情が不快極まりなかった。

 ファウンドはそこまで考えてから頭を振るう。レイドの思惑に引っかかるな。彼は自分を思い悩ませ苦しめる事が狙いだ。わざわざそれにのってやる事はない。


 ファウンドは視線を上げ、目下考えるべき事に思考を回す。

 デミラのアニム。奴の効果範囲は一キロ程度。奴の射程から抜けさえすれば、姿を隠すのは容易だ。

 先にデミラを殺す事も考えた。だが、ミリアを引き連れていては、やれることに制限がある。それにデミラの居場所もつかめない。現状で奴を殺すのは難しい。まずは隠れ家まで、逃げることを考えたほうがいい。

 ファウンドは進む足に力を入れ加速する。

 本来、石畳の街路を走れば音が反響し、すぐに追っ手に感づかれるだろう。だが、雨の叩きつける音の方がよっぽど大きい。足音に関しては問題ないだろう。だから当分、自分達が見つかることはないと思っていた。しかし、ファウンドは歴戦の経験から感じ取っていた。背筋を刺すような冷たい殺気が、市街の至る所から発せられているのを。

 ファウンドが周囲に視線を巡らせていると、振動で目が覚めたのか、ファウンドの背中でミリアがもぞもぞと動いた。


「わたし……もしかして寝てた?」

「ああ、それもぐっすりな」

「それは、えっと……」


 彼女はばつが悪そうにしている。彼女は目をこすり正面を見ると、目を剥いた。唐突にファウンドの肩を思い切り掴んだ。


「右!」


 ファウンドは咄嗟に左に跳びのける。彼の頬を何かが掠めた。ミリアを支える手に力が入るが、気にしていられない。正面には仮面の男が立っていた。


「あいつ! 私の家に勝手に入ってきたやつ!」


 ミリアを襲った刺客。機関の追っ手。ミリアの言葉に対してファウンドは呟く。


「暗部か……」


 仮面の男はナイフを回転させながら、こちらの様子を伺っている。


「やっかいな……奴らだ!」


 ファウンドは背後に蹴りを放つ。すると、背後から迫っていたもう一人の暗部が、ファウンドの蹴りをもろに受けて吹き飛んだ。密かにファウンドへ接近していたようだが、簡単に看破され反撃をくらった。

 ファウンドの隙を狙って、正面の暗部が飛び込んでくる。だが、その動きもファウンドは分かっている。暗部の顔面にファウンドの肘鉄が叩き込まれた。

 ファウンドは元暗部だ。暗部の戦闘様式はファウンドの体に叩き込まれている。だからこそ、彼らの行動は手に取るように分かった。

 二人の暗部はファウンドを挟むように左右に立つ。背後のミリアは、掴む手に力を入れ、事の成り行きを見守っている。

 ファウンドは推察する。次も挟撃を仕掛けてくるだろう。こちらはミリアを担いでいる。とはいえ、片手だけなら使うことができそうだ。

 ファウンドは聖剣の柄を握る。ミリアは彼のその仕草に眉をひそめた。

 その時、暗部は同時に動いた。それに呼応するようにファウンドは聖剣を抜刀する。


「ダメ!」


 ミリアの叫びと共に、聖剣が煌めく。

 飛び散る血しぶき。二つの頭部が宙を舞う。ただの黒い木偶のように、二つの死体が地面に倒れた。

 ファウンドは暗部の死体を一瞥すると眉一つ動かさず、すぐさま走り始めようとする。しかし、それを彼女は許さなかった。


「降ろして!」


 ファウンドの背中をミリアが叩く。


「じっとしてろ。隠れ家まではかなり距離がある」

「いいから降ろして!」


 ミリアはもがくと、無理やりファウンドから離れた。

 ファウンドは目を細め振り返る。ミリアは険しい表情でファウンドを見ていた。


「あなた今、何をしたか分かる?」


 ミリアはファウンドを問いつめるように言った。

 ファウンドは答える。


「障害を排除したまでだ」

「排除……あなたにとってはそうなのね。でも、あなたは殺したのよ。人間を二人も」

「おい、まさかお前。この期に及んで、殺すなとでも言うんじゃないだろうな」

「そのまさかよ」


 ファウンドは眉をつり上げる。


「正気か?」

「私は正気よ。あなたは間違ってる。例え、機関に属してようと、彼らは騙されているだけ。彼らに罪は無いわ」


 ファウンドは舌打ちをしてから、ミリアに近づいた。


「来ないで!」


 ミリアはファウンドに向けて、右手を掲げ威嚇する。だが、ファウンドはそれに構わずミリアに近づくと、彼女の腕を掴んだ。彼は額をつけるほど間近でミリアの目を直視する。


「今の状況を分かってるか? お前の信念につき合っている暇はない。すぐにでも、機関の手先がここに集まる。早くここから逃げるんだ」

「分かってないのはあなたよ。どんな理由があれ、簡単に人を殺していい訳がないわ! それをはっきりさせるまで、あなたには従えない」

「相手は俺たちを殺しにきたんだぞ! こっちが襲われた。殺さなければ、こっちが殺される。善悪の問題じゃない。生きるためには必要なことだ。お前のように戦いを全く経験していない人間は、そんな理想をいつも口にする。冗談じゃない!」


 ファウンドはミリアの腕を乱暴に引く。だが、ミリアは動かない。


「あなたにはできたはずよ。殺さない選択肢。正直、あなたにとっては余裕であしらえる相手よ。それでもあなたは殺すことを選択した」

「戦いに絶対はない。あの状況では殺すのがベストだ。奴らをここで殺さなかった結果、再度奴らに襲われるかもしれない。その僅かな可能性もつみ取るべきだ。でなければ、自分の命も……大切な人の命をも失う事になる」


 ファウンドの瞳に暗い陰が射す。


「全ての人間を救うことはできない。それこそ傲慢な考えだ。俺だって救い……」 


 ファウンドはそれから先の言葉を話そうとして、口を紡ぐんだ。自分は何を言おうとしたのだろう。全ての人を救いたかったとでも言うつもりか。それこそ、幼稚極まりない。

 ファウンドはミリアから目をそらし、舌打ちをする。雨は未だ止む気配はない。

 ミリアは目を細める。


「今、あなたにとって、守るべき人がいるの?」


 彼女の問いかけに対し、ファウンドはミリアを直視した。

 一瞬の沈黙。お互い見つめ合い続ける。そして、ファウンドが視線を外した。

 ファウンドは呟く。


「頑固な所もそっくりだな」


 それは雨にかき消され、ミリアには届かない。ファウンドは大声で言う。


「分かった。極力配慮しよう。だが、危険だと思えば容赦はしない。そもそも、暗部も勇者も命を救ってやるほど、真っ当な人間性の奴はほとんどいない。お前もそのうち分かる」


 ミリアは答えずに、ファウンドを見続けている。彼女は必死に考えているようだった。


「もう、一人で歩けるか?」

「ええ、大丈夫。私があなたの枷になって、誰かを殺さないといけなくなったら嫌だし。もう、おんぶは結構」

「ならいい、立ち止まっているのは危険だ。行くぞ」


 そして、ファウンドが前を向いた瞬間……


「こんにちは。勇者殺しさん? お話中ごめんなさいね」


 ファウンドの頭上から声が聞こえてきた。

 二人は咄嗟に身構えた。ファウンドは顔を上げると、屋根の上に一人の女を見つけた。


「やっぱり勇者殺しさんね」


 すると女の後から、もう二人姿を現す。


「あらあら、もしかして当たり?」

「当たりかも? やった! でも隣の女は?」

「付き添いがいるって言ってなかった?」

「言ってた言ってた」

「じゃあ、そいつも殺そう」

「そうしよう」


 三人の女は白い甲冑に赤と黄と青の剣をそれぞれ帯剣している。胸には天満と竜の刺繍を付けていた。勇者だろう。


「知ってる? 今、勇者殺しさんには懸賞金がついてるの」

「そうそう」

「だから勇者殺しさんを殺せば、お金がゲットできちゃうわけ」

「うんうん」

「オーライ?」


 ファウンドは三人から視線を外さずに、ミリアに話しかける。


「動けるか?」

「大丈夫」

「奴らと正面から殺りあう必要はない。逃げることを第一に考えろ」

「それは賛成」


 その時、ファウンドの背後からナイフが飛んできた。ミリアがそれを打ち払う。


「新手ね……」

「完全に囲まれたな」


 仮面を被った奴らが四、五人顔を出す。まだ、潜んでいるかもしれない。

 ミリアはファウンドと背中をくっつけ言い放つ。


『「後ろは任せて」』


 ファウンドの思い出の中にいる最愛の人の声とミリアの声がシンクロする。どうしてだろう。ミリアは彼女とまるで違うタイプの人間だ。なのにミリアといると、どうしても彼女の事を思い出す。

 ファウンドは妙な懐かしさを胸に、軽く微笑した。


「分かった。任せる」


 すると、正面の三人が屋根から飛び降りた。


「暗部なんかに!」

「先を越されて!」

「たまるもんか!」


 エリクマリアの市街地にて、再び死闘が始まった。


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