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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第四章 機関の秘密
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第七話

 ミリアは無我夢中で走る。もう考える事はできそうにない。恐怖が彼女の脳を汚染し、思考を妨げている。

 迷路のような裏道をひたすら走り続ける。彼女は本能的に、狙撃されないような場所を選択していた。

 もう、魔導人形がついてきているか確認する余裕もない。後ろを振り向くと、追っ手が背後にいそうで恐ろしかった。

 ミリアは水たまりに足を滑らせながら、勢いよく路地を曲がる。すると、出会い頭に人とぶつかった。


「すいません!」


 ミリアはすぐさま謝って、走り去ろうとする。しかし、すれ違いざま、きつく腕を捕まれた。

 咄嗟にミリアは振り返る。長髪に頬のこけた男がミリアをじっと見ていた。雨に濡れたその顔は怪訝な表情を浮かべている。何かを疑う目だ。


「大丈夫かい?」

「え、っと」


 ミリアは視線を彷徨わせる。すると偶然、彼の胸に竜と天満の刺繍があることに気づいた。彼は機関の人間だ。彼女の心臓が跳ね上がる。


「君も機関員だな。こんなところで何をしているんだ? この区画は、勇者殺しが逃走中だという話だ。君にも通達がいっているだろう? さあ、早くここから離脱するんだ」


 彼は、ミリアの手を強引に引っ張る。すると、彼の目の前に遅れてやってきた魔導人形が現れた。それの上にはもちろん、ファウンドが乗っている。

 彼は訝しげに眉をよせると、魔導人形に手を伸ばした。


「君は……」


 咄嗟にミリアはグローブに魔力を注いだ。『斥力』が発動し、男を吹き飛ばす。男は不意をつかれたせいか、まるで反応できずにそのまま街路の壁に叩きつけられた。街路は砕け、男の低いうめき声が響く。男はそのまま崩れ落ち、動かなくなった。

 ミリアにはその光景がゆっくりと再生されているように感じた。雨も男の倒れ行く様子も、恐ろしく遅い。静止するかの如く速度で男が倒れていく様を彼女は見つめていた。

 ミリアの心臓が早鐘を打つ。自分は恐ろしいことをしてしまった。彼は悪人でもなんでもない、ただの機関員。気が動転していたとはいえ、やってはならないことをした。

 彼女は倒れ伏している男を見つめる。彼はまるで動く気配がない。死んでしまったのではないかという妄想に憑りつかれる。

 男の額から血が流れているのか、水たまりが薄く赤みを帯びている。彼女は一層恐怖し、足を震わせる。

 そんな時、彼女の肩口にレンガの欠片が落下した。彼女が反射的に頭上を見上げると、屋上に影が見えた。それは両眼を光らせながら、ミリアを見ていた。


「いやっっっ!」


 彼女は『斥力』で地面を弾き、即座にその場から離脱する。コンマ数秒違いで光線が彼女の残像を射貫く。彼女は街路の砕ける音を背後に聞きながら、一心不乱に走った。罪悪感も、正義も、置き去りにして。

 ミリアは思わず天を仰ぐ。何故、自分は走っているのか。一体何から逃げているのか。もう、分からなくなっていた。彼女の感情はごちゃまぜだった。

 ミリアは涙か雨か分からない物を必死に拭いながら、ひたすら走り続けた。


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