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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第四章 機関の秘密
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第二話

 ファウンドは夢を見ていた。肉体は昏睡状態。精神も衰弱しきっている。そんな生死の境で見たのは、愛しの彼女との思い出だった。


ΨΨΨΨ


 はじめに見たのは、彼女との刺激的な日々の一つ。忘れもしない。彼女と自分の大切な日の記憶だった。


「ユウリ! 危ない!」


 純白のドレスを着飾った彼女と、漆黒の正装に身を包んでいるユウリ。

 二人は結婚式をあげようとしていた。だが、魔導具で武装した集団に襲われた。


「私は大丈夫です」


 ユウリは飛来した礫を避けると、彼女と背中を合わせる。二人は自分たちを囲んでいる敵に、視線を向ける。


「もう! 結婚式ぐらいゆっくりさせてよね!」

「お嬢、いつもの調子でさっさと片づけちゃいましょう」

「そうね。ってユウリ! お嬢って呼ぶのは無しって言ったでしょ!」

「そうでしたか?」

「そうよ! 今日くらい、ちゃんと名前で呼んで!」

「お戯れは、こいつらを片づけてからにしましょう」


 そう言うが早いか、ユウリは二振りの剣を抜き敵に向かって走った。しかし、ユウリの威勢を削ぐように、眼前で魔導具が跳ねた。それはすでに赤い光りを放ち、爆発しようとしている。

 しかし次の瞬間、ユウリの背後から白い魔力の波が押し寄せた。一瞬で魔導具が光りの粒となって消え去る。


「ごまかさないで! 今言って!」


 ユウリが振り返ると、そこには全身から魔力を漲らせた彼女がいた。彼女の髪が眩しい白髪から澄んだ青に変わっていく。白い魔力の波が彼女を中心に、螺旋状に渦巻いている。

 ユウリは彼女の幻想的で美しい姿に、戦闘中だということを忘れてみとれてしまう。

 そしてユウリは紡いだ。


「――」


 彼女の名前を。


ΨΨΨΨ


 場面は移る。曇天が空を覆い隠し、大粒の雨が降り注ぐ。


「私、知らなかった……」


 彼女は雨に濡れながら顔を覆い隠している。彼女とユウリの前には、一つの墓があった。それは、彼女の母のものだった。


「お母さんは、私のこと嫌いだと思ってた。なのに、なのに……」


 彼女は嘆く。自分の浅はかさを。

 彼女の母は、彼女の知らぬまに死んだ。しかし彼女の母の愛は、彼女の知るなかで最も深いものだった。


「私はお母さんに何もしてあげれなかった。すっごい、嫌な娘だった!」


 ユウリは自然と彼女を抱きしめた。彼女は涙で腫らした顔をユウリに向ける。


「私、どうしたらいいの?」

「生きてください。それが、お母様の望みです」

「でも、でも」


 ユウリは彼女を強く抱きしめる。


「私がお供します。例え、これから先、どんなことが待ち受けようとも、私があなたのそばにいる。そうすれば、お母様の願いは必ず叶えられます」

「ユウリ……」


 彼女がユウリを見上げる。二人は雨に濡れたまま、唇を重ねた。


ΨΨΨΨ


 記憶が流れる。時が瞬く間に過ぎていく。

 そこでは、二人がベットの中にいた。暖かい毛布にくるまれ、穏やかな時間を過ごしていた。


「ユウリと出会った時は、まさかこんな関係になるなんて想像もしてなかった」

「そうだな」

「あの時のユウリは、目をギラつかせて、とっても怖かったけど」


 ユウリの鼻を指でつつく。


「俺で遊ぶな」 


 そう言いつつ、ユウリは満更でもなさそうだった。彼女は微笑む。


「ふふ。今のユウリの姿を昔のあなたが見たら、どう思うかしら」

「失望するだろうな」

「双剣のユウリの名が泣くわね」

「もう、昔の話だ」

「そうね。もうはるか昔のよう」


 そして、彼女はユウリを見つめ、手を伸ばした。


「来て」

「ああ」


 ユウリは小さく頷くと彼女を抱き寄せようとした。

 その時、視界に激しいノイズが走り、世界が暗転した。


ΨΨΨΨ

 

 夢は続く。例え本人が拒絶しようと、必ず彼女のことを考えれば行き着く情景がある。

 仄暗い路地裏。散乱するゴミ。

 腐乱臭が漂うその場所は、常人なら近寄ることはないだろう。

 しかしそこへ、ローブを目深に被った男が歩いていた。男の顔はやつれ、生気がまるでない。覚束ない足取りで路地を歩いている。

 世界に雑音がよぎる。記憶の断片を繋いだように、場面が幾度も飛ぶ。

 いつの間にか、男はドアの前に立ち止まっていた。彼はドアノブを掴む。ひねると簡単に開いた。

 ノイズが走ったと同時に、男は室内にいた。周囲に視線を泳がせる。その家は長い間、人がいなかったのか、物がそこかしこに散乱していた。

 男は何かに気付き、隣接する部屋を開ける。すると、物音が聞こえてきた。男は音のする方へと進む。

 雑音がひどくなる。世界が男をそれ以上先に進ませないように妨害する。しかし、男は止まる様子がない。

 音は台所から聞こえるようだ。男からは死角になっており、音の元が何か分からない。

 周りこんで確認しようとする。雑音がさらにひどくなる。

 男の視線の先に、動く生物が映る。薄汚れたシャツに骨と皮しかない身体。地面まで伸びた青い髪。乞食の類だろうか。性別を判断することもできそうにない。

 そいつは台所の食べ物を漁っていた。男からは顔が見えない。

 男が口を開く。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 雑音で音がかき消される。すると、乞食が男の言葉に反応したのか、ゆっくりとした動作で振り向く。

 ノイズが荒ぶる。視界を斜線が埋め尽くす。

 そして、乞食が男と向き合った。その顔は黒く塗りつぶされていた。雑音が乞食の顔を覆い隠していた。

 しかし、男はその顔を見た途端、みるみる顔色を変えた。そして、顔を歪ませながら言葉を発した。


「シール」


 それを最後に、世界は暗闇に包まれた。

 

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