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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第四章 機関の秘密
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第一話

 早朝、街路に埋め尽くされた死骸の山に、街の住人だけでなく勇者達も驚愕した。

 これだけの死体を一人の人間が築いたのだと誰が信じるだろう。もしそうだとすれば、その人間は圧倒的な暴力を持っていることになる。勇者達が、勇者殺しの真の恐ろしさを肌に感じた瞬間だった。

 そして、その様相はある事実を示していた。機関の人間なら誰もが知る奇人――フロイラが負けたのだと。案の定、肉片に埋もれてフロイラの死体は発見された。

 これで一日にして、トップクラスの勇者が二人も死んだことになる。さすがに、勇者達も動揺を隠しきれないでいた。

 エリクマリアから離れていく機関員も増えている。機関が危機に晒されている。機関の人間はみな少なくともそう思っていた。一人の男を除いて。

 


 機関本部の最深部。魔力の満たされた聖堂にてクアラムは、能面な表情で球体を眺めていた。

 フロイラが死んだ事は、機関にとって大きな痛手だった。彼女にはアニムの製造を担ってもらっていた。彼女がいないとなると、アニムの質が今までより大きく落ちるだろう。アニム作りは彼女のセンスに依るところが大きかった。

 そんな重要な存在だったからこそ、彼女の蛮行にも目を瞑っていた。そうでなければ、エリムスが勇者になれる訳がない。とっくに捕縛し《《廃人》》にしていただろう。

 しかしフロイラが死してなお、クアラムの表情は揺るがない。そう、今のところ事態は彼の予想の範疇に収まっている。なにもかも、想定の範囲内に状況は推移していた。むしろ、猶予すべきは……


 クアラムは銀の球体を見上げる。

 銀球体――エターナルはアニムを制御する役目を担っていた。このエターナルから魔力を供給することで、アニムは強大な力を使用することができる。つまり、このエターナル無しではアニムは《《使えない》》はずだった。少なくともファウンドが現れるまでは。

 ファウンドが脅威な点は、他の勇者を凌駕する戦闘力でも魔法を打ち消すアニムでもない。アニムをエターナル無しで運用しているという事実そのものが脅威なのだ。

 クアラムは思慮する。ファウンドを野放しにすれば、いずれその事実が露見する。となれば、早急に処理することに越したことは無い。だが、ライエン家の事もある。表だって行動するのは忍ばれる。これは繊細な案件だ。

 クアラムが今後の事を憂いていると、外から慌ただしく駆けてくる足音が響く。それはそのまま、この『選別の間』まで入ってきた。


「あれはなんだ」


 レイドがいきりたった目つきで、クアラムに怒声を浴びせた。レイドは恐ろしい剣幕で、クアラムに詰め寄る。


「あれは何だと言っている」


 レイドが何を指して怒っているのか、クアラムは察する。どこから聞きつけたのか。もしかすれば、一人か二人、死体が発見されるかもしれない。そう思い至ったってなお、彼は涼しい顔で言い放つ。


「暗部のことか? 彼らには重要な任務を与えている。貴様には関係ないことだ」


 クアラムは機関の暗部に指令を出していた。ファウンドを殺せと。暗部は隠密行動に特化した部隊。勇者と機関員で組織された混成部隊だ。皮肉なことに、ファウンドの昔所属していた部隊だ。


「貴様、思ってもいないことをぬけぬけと。タヌキめ」

「ふんっ」

「あいつは俺の獲物だ。誰にも渡さない」

「好きにするといい」


 レイドはクアラムの胸ぐらを掴む。クアラムはレイドの腕を握る。


「聞いたぞ? ファウンドを殺し損ねたそうだな」


 レイドの拳に力が入る。クアラムは蔑むような目つきでレイドを見る。


「先を越されたくなかったら、今すぐ行け」


 レイドは振り払うように腕を放した。


「貴様に言われるまでもない。お前の下僕共に会ったら容赦なく殺す。覚えておけ。俺が暗部を嫌っている事は知っているだろ?」

「ふん」


 クアラムは乱れた礼服を直すと、レイドに背を向ける。


「早く行け。私はお前の相手をしているほど、暇じゃない」


 その言葉を最後まで聞かずに、レイドは外に出て行った。


「精々、躍起になるといい」


 クアラムはレイドの背に向けてそう呟いた。


『おーい。クアラムの爺さん』


 唐突に間延びした声が響いた。通信用の魔導具から音声は聞こえている。


「なんだ?」

『おいおい、随分とご立腹じゃねぇか? フロイラが死んだのがそんなに悲しかったかぁ?』


 声の主はデミラだ。相変わらず挑発するような物言いだった。


「そんなことは些末さまつなことだ。早く用件を言え」

『見つけたんだよ』

「何をだ」

『奴らの隠れ家さ』

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