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アンチヴレイブ  作者: 出壊鉄屑
第三章 屍山血河
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第六話

 ファウンドは魔物を切り払い、死体を踏み荒らしながら道を作る。多くの魔物を消し去ってきた。だが、まだ魔物の数は衰える様子がない。

 フロイラに至るまでの道のりは、近いようで遠い。魔物がひしめき、ファウンドの行く手を阻む。あれから、三分あまり。時間はほとんどない。

 光の粒子を浴びながら、ファウンドは突き進む。だが、間断無く魔物が襲ってくるため、先に進めない。

 その時、上空から巨躯な魔物が降ってきた。肉の鎧を纏い、サーベルを手にしている。鎧の奥には真っ赤な瞳が輝いていた。

 ファウンドは足を止め、眼前の魔物に注意を払う。今までの魔物と、明らかに違う雰囲気をかもし出している。不用意に隙は見せれない。ファウンドは慎重にその魔物の出方を伺った。


ΨΨΨ


 サーベルを操る魔物――ミッシェルは僅かに残った意識で敵を観察する。筋肉の動きから、重心の位置。身体に染み着いた経験が、魔物になってなお、彼に敵の動きを理解させる。

 ミッシェルはサーベルを構えながら、路面の血溜まりに肥大した足を踏み入れる。ファウンドはミッシェルの足下に一瞬、視線を向けた。

 その瞬間、ミッシェルは轟音を鳴らしながら突進した。ファウンドが注意を反らしたのが運の尽き。ファウンドの虚を突く最大のタイミングで、刺突を繰り出した。音速を越える銀のサーベルが虚空を切り裂きファウンドに達する。

 しかし、サーベルはファウンドを捉えることはなかった。サーベルは空しく宙を泳ぐ。ミッシェルの意識がざわつく。外れるはずはない。それだけ、確信をもてミッシェルは攻撃を放っていた。

 彼が動揺していると、彼の膝あたりの低い位置から斬撃が飛んできた。咄嗟にサーベルで防ごうとするが、間に合わない。

 金属の掠れる音が鳴った。ミッシェルの身体に辛うじて残っていた銀のプレートが、代わりに攻撃を受けた。プレートはひしゃげ弾け飛ぶ。

 間一髪で攻撃を防いだミッシェルは、再度体勢を立て直す。

 ミッシェルはファウンドを直視する。至る所から流血している痩躯の男。死人に等しいこの男は、予想以上に俊敏な動きを見せる。

 彼はより速く動く必要があると考えた。その瞬間、彼の全身を這う筋肉の鎧が彼の意志に答えようと独立して動き出す。同時に彼の意識はより深く埋没していった。


ΨΨΨ


 ファウンドは目の前で変異する化け物に危機感を覚える。何か得体の知れない脅威を感じる。彼の直感が早々に始末するべきだと語っている。

 ファウンドは先手を打つべく、変異の最中の魔物に飛びかかった。青白い魔力のベールを伴った聖剣を横一線に薙ぐ。

 眼前の魔物は周囲に散開する魔物共々、消滅するはずだった。しかし、数匹の魔物が光に変わった時点で、聖剣が弾かれた。ミッシェルの体重を乗せた斬撃が聖剣を打ち返したのだ。衝撃がファウンドの全身に伝わる。全身の傷口から血が吹き出る。

 だが、ファウンドは苦痛に顔を歪めながらも、怯むことなく回転切りを放った。瞬く速度で放たれた斬撃に巨躯の魔物も咄嗟に反応できない。聖剣は魔物の頭部を浅く切り裂いた。

 肉の兜が光と消え、顔が露わになる。

 そこにはミッシェルの顔があった。弛緩した顔に、だらりと垂れた舌。目からは血の涙が流れている。あまりに変わり果てた姿に、ファウンドは一瞬だけミッシェルを哀れむ。

 数秒経つと彼の身体は震え、肉が彼の顔を再度覆ってしまった。そして、またも全身の肉鎧が脈動し始める。

 この魔物はどうやら、己の足りない部分を理解し、それを補うように身体を最適化するようだ。剣を交えれば交えるほど、殺しにくくなる。

 ファウンドは額に汗を滲ませる。時間をかけてはいられない。魔力も体力も限界に近い。

 そこでファウンドは偶然、ミッシェルの持つサーベルに亀裂が入っていることに気づいた。先ほどの打ち合いでできた傷だろうか。少なくとも、数度打ち合えば折れる程度に広がっている。

 ファウンドは目を細める。一か八かやってみよう。ファウンドは集中しタイミングを測り始めた。


ΨΨΨ


 ミッシェルは変異を終え、サーベルを構える。もはや、彼の意識は完全に消し飛び、フロイラの指令だけが彼の身体を支配している。

 目の前の男の四肢をもいで、主人に提供する。それがミシェルに課せられている命令である。

 ミッシェルはファウンドの肩に狙いをつける。周囲の魔物達は騒ぎながらもファウンドに襲いかかる様子はない。ミッシェルの邪魔をしないようにと、フロイラが指示しているのだろう。

 そんな時、ファウンドが前傾姿勢をとった。ミッシェルはすぐさま反応する。地面を砕き、猛烈な速度をもって突進した。ファウンドにサーベルを突き立てる。

 しかし、サーベルはファウンドの肉体を抉る寸前で湾曲した。

 ミッシェルは目を剥く。サーベルを湾曲させたのはファウンドの拳だ。ファウンドは魔導石の腕で、サーベルの腹に裏拳をたたき込んだのだ。

 そして、湾曲したサーベルは亀裂が広がり砕け散った。折れた剣が、ファウンドの頬を撫でるように通過する。

 ミッシェルは折れたサーベルの柄で殴りつけようとする。だが、ファウンドはそれを巧みにかわすと、がら空きになったミッシェルの身体に聖剣を突き刺した。

 光が舞い、青白い魔力が噴出する。ミシェルの身体がみるみる元に戻っていった。

 ミシェルが薄れゆく視界の中で最後に見たのは、ファウンドの感情のない瞳だった。


ΨΨΨ


 ファウンドはミッシェルを見下ろす。ミッシェルはぴくりとも動かない。彼は完全に死んでいた。彼の虚ろな瞳がファウンドを凝視する。

 すると、今まで沈黙していた魔物達が奇声を上げ、ファウンドに向かって突進してきた。聖剣で魔物達を薙ぎ払う。

 魔物の猛攻が途切れるた瞬間、ファウンドはミッシェルの死体に再度目を向けた。彼の身につけていた銀のプレートを、ファウンドはじっと見つめた。


ΨΨΨ


 フロイラはファウンドの戦闘に熱視線を送りながら、一人ファウンドの殺気を堪能していた。


「はぁはぁぁぁはぁ」


 全身から汗が伝う。身体を振るった瞬間、髪の毛の先端から汗が飛散する。

 輝く粒子の飛ぶ様がもう目前まで迫っている。だが、フロイラは自分の身体をむさぼる事を止めない。


「ああぁ、ああぁっああぁ」


 唐突に光の粒が見えなくなった。どうやら、ファウンドの魔力が尽きたようだ。だが、魔物の断末魔は途絶えない。

 フロイラは魔物の死骸に身体を押しつけながら、さらに快感を高揚させていく。


「もうぉぉ。ああぁ。だめぇぇぇぇぇ」


 そして魔物の陰から、ファウンドの冷酷な瞳がフロイラを貫いた。


「ああぁぁん。いくぅぅぅぅぅぅぅん」


 フロイラは白目を向き、痙攣しながら絶頂した。

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