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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
三人目 魔法少女エリザちゃん
8/23

今までのツケ

三人目 魔法少女エリザちゃん



 どうしよう……どうしよう……


 お姉ちゃんに怒られる。きっと怒られる。こっぴどく怒られる。

 どうしよう……どうしよう……

 なんで「ここ」にいるんだろう……早く帰りたい。

 でも帰ったらお姉ちゃんに怒られる……どうしよう……どうし――

「わお!あなた、これで100回目ですよ!」

 !?、誰!?周りに人はたくさん。でもこの声の感じ……どう考えても……

「どうしよう……そう思ってますね。思ってましたね。」

 いきなり手元に重みを感じたから、その手を持ち上げて見ると。……何のアクセサリーだろう。

「私はラヴェールと申します。あなたのお名前は?」

 アクセサリーが喋った!形からして、多分ブローチかな。とにかくブローチが喋った!

「あなたのお名前を教えてください!」

 名前、名前……

「えっと……えり……ザ?エリザです。」

 そう自己紹介した。もちろん偽名。

「お、通り名で来ましたか。さすが若者の街ですね!……条件が整いましたので契約成立です。エリザ様は今から魔法少女です。魔力を少々頂きますが、不思議な力が使えるようになりますよ!」

 え?

 えええええええええええええええええええええ!?

「取り消して!」

 そうお願いする。

「取り消せませんよ。」

 そんな、でも食い下がらない!

「いいから取り消して!」

「無理です。」

 そんな、何てことに……

「しかしエリザ様、あなたで三人目ですが、エリザ様が一番可愛らしいですよ!」

 そう褒められたけど特別嬉しくない。

「魔法少女と言っても、特別やらなければいけない事は無いので大丈夫です。」

 そうブローチ、いや、名前はラヴェールか。ラヴェールはそう言うけれど……

「今からでも取り消せない?」

「ふっふっふ、往生際が悪いですよ!」

「どうしても取り消せない?」

「取り消せません。契約は絶対なんです。」

 契約は絶対っていうのは大体わかるけど、自己紹介しただけで契約成立って……おかしくない?

「念話みたいなことも出来ます。今のままだとエリザ様はブローチに向かって喋る変人になりますので。」

 あ、注目を引くのはちょっとまずいか。

「ん?あれ……あれ?エリザ様、聞こえてますか?」

「念話?って、どうやるの?」

「心の中で私に語りかけてください。」

 まあやってみようかな。

(ラヴェール?ラヴェール、聞こえる?)

 返事が無い。

「エリザ様、ちゃんとやってます?」

「やってるよ!」

(ラヴェール、ラヴェール?)

 しばらく心の中で語りかける。

「どうやら駄目みたいですね、女性には魔力があって、それを共鳴させるだけなんですが。」

「……あ、じゃあ原因わかったかも。」

「お、わかりましたか?最初の仮説は否定されるんですよ。軽めの仮説でお願いします。」

「僕、女の子じゃないから。」

「え?」

「うん。僕、男なんだ……」

「ええええええええええええええええええええええ!?」


 念話?テレパシー?が使えないらしいので、ラヴェールをほっぺたに当てて電話をしているフリをする。

「それで、お姉ちゃんの服を勝手に着ちゃって、よくわかんないテンションになっちゃってさ。そのノリで原頭(はらがしら)に繰り出してみたけど……足がスースーする。」

 と、これまでのイキサツを説明する。

「エリザ様。」

「なに?」

「私今、すごく契約を取り消したい気分です……」

「だから、言ったじゃん!どうすんのさ!」

「帰って、お姉様にごめんなさいしましょうか。」

「うう……ユーウツだよ……」

 お姉ちゃんはもう帰ってきてるはず。そしてお気に入りの服がない事くらい、すぐ気がつくだろう。帰りの電車でも僕のテンションは下がりっぱなしだ。でも……

「そんなばかなそんなばかなそんなばかな……」

 ラヴェールのテンションの下がり方の方が心配なんだよ。40分くらい掛けて家に戻ると、足音がドタドタと階段を下りてくる音。この足音の若さを考えると……お姉ちゃんで間違いない。

「たかしー。一応聞くけど、私の服知らない?」

 そしてその足音が階段を下る音から床を踏む音に変わった瞬間、お姉ちゃんと目が合う。

「……?」

 お姉ちゃんは無言で僕の頭から足元までをゆっくり確認する。その視線が三往復したくらいで、何が起こっているかを理解したみたいだ。

「私より……たかしのほうが可愛い……」

「ごめん!お姉ちゃん!」

 靴を脱ぎ廊下で土下座をする。お姉ちゃんは滅多に怒らないけど、喜怒哀楽の差が激しくて、怒りのスイッチが一度入るとものすごい暴力的になるんだ。

「いいのよ、たかし。服っていうのはね、より可愛い子が着た方が喜ぶの……」

 オトコとしての何かが失われていくような気がして、ショックを隠し切れない。あ、お姉ちゃんもショック受けてるから、ダブルショック。いや、ラヴェールもショック受けてるからトリプルショックか。とにかく玄関はそんな状態。そのまま階段を上り、自分の部屋に入ってラヴェールといくつか今の状況を確認する。

「"解析"……登録者名、エリザ。魔力量、0。心身状態、正常。固有能力、不明。」

「ええと、魔法少女になった人は、今までの持ち主が発現させた魔法……固有能力を使える。」

「はい。その上で新しい持ち主が固有能力を発現させるまでが契約期間となります。」

「どんどん強くなるんだ。」

「はい。どんどん強くなりますね。」

「目的はなんなの?」

「はっきりとした目的はありませんが、今はある人を助ける。それが私の目的です。」

「なるほど、発現させる固有能力によってはその人は助かるんだね?」

「はい。しかしまさか殿方と契約が可能だったとは、うかつでした。」

「契約できる、って事は僕でも固有能力が発現するってこと?」

「そうでなければ殿方と契約した時点で全てが途切れてしまいます。恐らく発現します。」

「発現の条件みたいなのは?」

「強い意志が必要でしたり、願望なども影響します。その方の、個性次第。」

 なるほど、大体わかったよ。

「たかし。」

 部屋の入り口にはお姉ちゃんが。いつの間に!

「そのブローチ、何で喋ってるの……?」

「え、喋らないでしょ、普通ブローチは。」

 とっさに僕はしらばっくれる。これってバレたらまずい様な気がして。

「お姉様、お邪魔しております。ラヴェールと申します。」

 って、ラヴェール、それはまずいって!

「あら、礼儀正しいブローチですね。私は、えりと申します。この春から大学生よ。」

「エリザ様。一応やってみましたが、ダメでした。」

「ラヴェール……そもそもだよ。」

 そういいかけた途端お姉ちゃんが笑い出す。

「たかし!エリザ、エリザって……プクク、エリザは流石に無いって!アハハハハハ!」

 大爆笑を始めるお姉ちゃんをそれなりに無視してラヴェールに目を向ける。

「自己紹介だけで契約成立、っていうガバガバな契約。それどうにかしたほうがいいよ。」

「私としては、それなりに譲歩したのですが?」

「譲歩、ってなんだよ。誰とだよ。」

「……?私は誰に何を譲歩したのでしょうか?」

 いや、知らないから。

「私の記憶は失われています。記憶の断片がほんの少し残っているのですが……」

 まあ、それはいいんだ。

「せめて、魔法少女になりませんか?って聞いて、OKもらったところからの方がいいと思う。」

「なるほど、では次からそうします。私は嘘はつきませんよ?」

 ……記憶喪失っていう時点で、結果的に嘘でしたー、って事になると思うんだけど。

「え、たかし、魔法少女なの?魔法少女なの!?ヒッ、おなかが!ヒーッ、おなかがよじれる!ヒー、ヒー!!」

 お姉ちゃんは10分くらい大爆笑を続けた。


「それで、お姉ちゃんは何の用で僕の部屋に?」

「ああ、それなんだけど、今から二人をお姉ちゃんの部屋に案内します。」

 お姉ちゃんの部屋に招待されるのは、一年以上ぶりだな。なんか、嫌な予感が。

「冬物をしまう前に、私の服を着てみなさい!」

 そんな感じで、10着くらい試着した。

「やっぱり私より可愛い……これも一つの才能ね……」

 お姉ちゃんは喜んでるんだか落ち込んでるんだかわからない声を出す。

「エリザ様!可愛かったですよ!特に四番目のが。」

「え、エ、エリザ!やめて笑わせないで。もう私の腹筋は限界なの。」

 そういえば、ラヴェールに聞きたい事があったんだ。

「ラヴェール。魔法少女って、専用の衣――

「ありませんよ。」

「ラヴェール、最後まで聞いて。魔法少女の専用の衣装――

「ありませんよ。」

「……この質問は僕で何人目?」

「……三人目です……」


「閑話休題。たかしはなんで私の服を盗み出したの?」

 お姉ちゃんが問いただす。

「いや、それがわからなくて。お姉ちゃんが昨日持って行ったハサミを返してもらおうと思って、呼びかけたら返事がなくて、部屋に入ったらなぜかクローゼットが目に入って……うん、衝動的に。」

「たかし、お前はこの春から中学生なんだぞ。しっかり男の子にならないと。」

 いやそれはわかってる。

「女の子になりたい、とかそういうんじゃなくて……」

 平凡な毎日に退屈していたんだ。

「初恋の相手は女の子?」

「うん。」

「じゃあ特に気にする事無いか。多分たかしの中に棲む、ケモノが悪さしたのね。」

 お姉ちゃんは続ける。

「初恋の相手が男の子だったりしたらお医者さんに診てもらう必要あったけど。」

 いや、多分それはないと思う、とだけ加えた。

「でもね、たかし。今度は私の中のケモノが悪さしそうだわ。」

 !?

「今度の春休み、私の買い物に付き合いなさい。とびっきり可愛くしてあげるから。」

 僕とお姉ちゃんは六歳違いだ。僕がこの春から中学生で、お姉ちゃんが同じくこの春から大学生。つまり、こういう事。


――二人とも春休みが、長い。

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