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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
一人目 魔法少女あかねちゃん
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私の結末


 あれが、魔法の力だったのだろうか。あの三人は昼休みの後から行方不明になった。私は気分の不調を訴え早退し、自室で状況を整理する。

「あかね様、過ぎた事は仕方ありません。」

「ラヴェール、あなたは何が起こったかわかるの?」

「その前に……"解析"。登録者名、あかね。魔力量、12。心身状態、正常。固有能力、殺意。」

「殺意の固有能力?」

「この固有能力、"殺意"の概要を"解析"……消費魔力、500。効果、指定した一定範囲内の生命体の消滅。射程、声の届く範囲。使用条件、殺意を込めて対象に向けて魔道具をかざす。備考、大魔法の為要詠唱。……なるほど。」

「何かわかった?」

「はい、あれはあかね様の殺意が魔法となって発現したものです。あの三人はチリ一つ残さずこの世から消滅しました。人間だけに対する純粋な感情なので、人間以外……例えば建物等には何も影響を与えません。服と手荷物は消滅しましたが。」

「……私がやったの?」

「……紛れも無くあかね様の意思です。」

 そうか、私が。私がやったんだ。

「あかね様、この魔法は……大魔法です。詠唱用の呪文を設定してください。」

「呪文?」

「はい。短いもので結構ですので、この魔法に名前を付けてください。」

 うーん、責任重大だ。ここはラヴェールの名前を貰うことにしよう。

「……殺意の(とばり)、ラウド・ヴェール。」

「ラウド・ヴェール。良い名前ですね、ではそれで登録します。」

 それにしても、だ。私は人を殺した。そのはずなのに、私の心に罪悪感は、全く無い。代わりに――

――なんと、晴れやかな気分だろう!私の世界には光が戻り、小鳥たちがさえずり、空から大挙押し寄せてきた天使の集団が賛美歌を歌い始める。人々は朝の到来に歓喜し、河原でバーベキューを始める。遥か彼方から続くその川の河原はバーベキューの参加者で埋め尽くされ、もっと肉をよこせと奪い合いを始めるのだ。

「……ラヴェール。私、ちょっと混乱してるかも。」

「あかね様、無理もありません。今日はもうお休みになってください。」


 翌日。私はラヴェールに解析をお願いする。

「"解析"ですか?別に構いませんが。……"解析"。登録者名、あかね。魔力量、12。心身状態、正常。固有能力、殺意。」

――!

 どうして。

「どうして魔力が回復していないの!ちゃんと一晩寝たじゃない!」

「魔力が回復?一体どこの世界の話ですか……?」

 一晩睡眠をとれば、MPは全回復する。常識だ。……そう、ゲームの世界では。

「フィクションの世界の話ね……よく考えてみれば。じゃあ何の為に魔法に名前を付けたの?明らかに今後使う事を想定してるじゃない?」

「そこなんですが……はい、私の次の持ち主が使うことになります。」

 それって……もしかして……

「最初に私は言いました。あかね様はしばらくの間、魔法少女になる、と。しばらくの間、というのがいつまでかとはあの時は覚えていませんでしたが……あかね様が固有能力を発現させた時、思い出しました。」

 嫌。そんなの嫌。

「私は、主人を次々と乗り継いで、固有能力を引き出して引き継ぎ、成長していく"魔道具"なのです。」

 私は――

「ラヴェールと別れるなんて、そんなの嫌だよ……」

 涙がボロボロと溢れてくる。

「あかね様……私も嫌です。でも別れはいつか必ず訪れるものなのです。」

 ラヴェールと交わしたいくつかの言葉を思い出していく。そして一つの思考に辿り着き、涙を拭う。

「ねえラヴェール。別にこの世界全体に危機が迫っているわけじゃないんでしょう?」

「はい、その通りです。」

「魔法少女として戦うべき敵も、存在しない。」

「存在しません。」

「だから、私があなたを手放さなくても、不都合は無いんじゃない?」

 ラヴェールは十秒ほど考え込む。

「それもそうですね。わざわざあかね様から別の主人に乗り換える必要性は、確かにありません。」

「でも、ラヴェールの言うとおり、別れは必ず、やってくる。」

「寿命でも、そうですからね。」

「だから、私が高校を卒業するまで。それまでは友達でいてくれる?」

「わかりました。主従契約はこの際抜きにして、あかね様と私は友人。あかね様が高校を卒業するまで、ご一緒いたしましょう。もちろん、卒業後も友人ですよ?物理的には離れ離れになりますが。」

「よかった。」

 学校へ行く支度をし、玄関から外に出る。冬の太陽の精一杯の煌きを全身に受ける。今日も最悪?いいえ、多分もう大丈夫。


 学校は、あの事件の噂で持ちきりだった。あの三人が、行方不明になったという噂だ。

「ねえ、知ってる?」

 知ってるとも。

「あの三人が、三人とも。」

 そう、あの三人が、三人とも。

「行方不明になったって、マジ?」

 正確には行方不明じゃなくて、殺害されたの間違い。

「警察が血眼になって……」

 見つかるわけが無い。この世から消えたんだ。

「ただの家出じゃない?」

 ちょっとこの世からサヨナラしただけ。

「ねえ知ってる?」

 ああ、知ってるとも。

「連れ去り事件?犯人は?」

 犯人は、私だ。

「まだわからないみたい……怖いわ。」

 大丈夫、あなたには危害は加えない……教室に着くまだけでここまで話題になっている。教室に入ると、いつも通り私の机には夥しい数の"死ね"という文字があったが、ロッカー内に虫の類はいなかった。

 教室内は想像以上に静かで、着席している生徒はほぼ全員スマホを操作している。恐らく……あの三人が行方不明になったという噂の続きだろう。

――私抜きで、わかる筈が……ないでしょう?

 そんな、ただ一人真相を知っているが故の優越感が私を包む。可能ならば、おなかを抱えて大笑いしたい。

 その日の夕方、テレビのニュースが報じる。遥ヶ見区内のとある学校で女子生徒三人が行方をくらまし、警察は懸命な捜索をしているが、未だ発見されていない、との内容。あの三人の父親が順々に映し出される。顔を真っ赤に、目には涙を浮かべて。無様な姿。そう、無様な。

「アハハ、アハハハハハハハハハハ!!!」

 私以外誰もいないリビングに私の笑い声が響く。そうだ、お前らの娘は殺してやったよ。私の魔法で!


 冬休みが終わっても、あの三人に関する続報は、無かった。学校内では、"行方不明"から"もう死んでいるのでは?"という風説に変わっていく。変わって行くのは風説だけではなかった。私の机の死ね、という文字は大方消され、中央に「いままでごめん」と小さな文字で一筆添えられていた。私に対する少しばかりの嫌がらせも、目に見えて少なくなった。よかった、これで学校でも落ち着いて本が読める。そうだ、桐生さんはどうしているだろう。

《桐生さん、元気?》

 そうメッセージを飛ばすとしばらく経った後に返信が。

《ん?どうしたあかねっち。》

 よかった、桐生さんはいつも通りだ。そう安堵すると桐生さんから追伸が入る。

《放課後さ、あの病院のカフェに行こうぜ。カツサンドがすげー美味くてさ、まさに穴場!ってやつだった。》

 彼女はあの入院もどきも、この際楽しむか、確かにそう言っていたが。ここまで前向きで行動力がある人間なのだ。私が快諾の返事を入れたところでホームルームが始まる。放課後、あの病院のカフェで待ち合わせか。

「放課後が暇になるなんて珍しいのね。」

「今度大会があるからよ、調整中なんだ。」

「ん……このカツサンド、味は普通ね。」

「ああ、笑っちゃうくらい普通だろ?実はあかねっちに用があるのはそれじゃないんだ。」

「んむぐ?」

 口の中のカツサンドで上手に発音できなかった。このカツサンドはどうやらただの口実らしい。桐生さんは私に近づき、耳元でささやく。


「あの三人を殺したの、あかねっちだろ?」


――!!!どうして桐生さんが!?まさか――

 証拠は残ってない。だとすると、あの現場を、見られた……?

「いやさ、あの三人が殺されたとするなら、やったのはあかねっちだと思ってさ。」

 桐生さんはその情報を手に入れて、どうするつもりだろう。

 これをネタにゆする?いいえ、桐生さんはそんな人間じゃない、正義感が強いから。……桐生さんは正義感が強いから、私に自首を促すつもりだ。私は悪くないのに。あの三人が、あの三人が全部悪いのに。そう、あの三人が……

「オモッテモジッコウデキルヤツナンテ、ソウハイナイダロ?アカネッチハスゲエヨナ。」

 私は何一つ悪くない。もし私が桐生さんに罪を償え、などと言われたとしても、断固拒否する。しかし、友達として彼女に嘘はつきたくない。ならば、どうする――


――殺せばいい。


 そうだ、簡単な事だ。殺せばいいんだ。

「テンバツミタイナモンダ。」

 殺せ。

「ワタシモアノサンニンノコトハダイキライダッタ。」

 殺せ!

「オヤノナナヒカリデ、」

 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!

「ヘイキデタニンヲキズツケル。」

 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!

「アカネッチノシタコトハ、タダシイ。」

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!

「いやー、だからさ。どうやってブッ殺したのかだけ気になるんだよな。こっそり教えてくんね?」

 ふざけやがって。お前も、死ぬんだよ。

「わかった。見せてあげる。」

 胸ポケットのブローチが輝きを放つ。私は立ち上がり、ブローチを取り出す。使い方は、殺意を込めて、対象にこのブローチをかざす。そして、名前……私が付けたお前の――


――お前の、名前は――


――殺意の(とばり)――


「ラウド!ヴェール!!!」


 あの時のような光は出なかった。逆に……真っ暗で何も見えない。身体の感覚が……無い。

 どさっ、と私の体が倒れこむ音が聞こえた。

(ラヴェール、聞こえてる!?)

 返事が無い。

(桐生さん、聞こえてる!?)

 返事が無い。

 意識が急速に遠のいて行く。

 そうか、私、死ぬんだ。

 ごめんね、ラヴェール。高校を卒業するまで、一緒だって言ったのに。

 ごめんね、桐生さん。たった一人味方になってくれたのに。

 私もあの三人みたいに、バケモノになっちゃったのかな。


 ラヴェール……私の、ワガママ……聞いて……くれる?

 いつか、私を……いつか、私を……


 いつかわたしを たすけにきて

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