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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
六人目 魔法少女ユズハちゃん
20/23

私の大魔法


 戦いのさなか。私は控え室に移動し、おにぎりを食べています。

 恐らく長期戦になれば、体力的に私が不利。その考えは初めからありました。

 だから、このように……食べ物や飲み物をいくつか用意していたのです。


(時間と場所を指定したのが、あの魔人の最大の悪手。準備する時間をくれるなんて。)

(でもあまり時間を掛けすぎるとバレますよ。)

(まあ、そのときはそのときで。)


 チョコレートを最後に口に入れ、また戦場へ。

 "転移"でいきなり現れるサービスを。


「んん?どこへ行っていた?」

「内緒。」


 控え室に"転移"して食事休憩をしていましたよ、とは言えない。

 魔人は……そのまま突進してきた。


「固有能力だけに頼るのは二流だ!」


 なるほど、近接戦をご所望で。


「"転移"」


 突進の反対側に移動。


「二流で構わない。良ければ三流でも。」


 私はラヴェールを前に掲げ……


「ラウド・ヴェール!」


 左斜め後ろに避ける魔人。


「ラウド・ヴェール!」


 右斜め後ろへ。


「ラウド・ヴェール!」


 今度は直進してくる。なるほど、回避の方向は、絞れませんか。


「"転移"!」

「しっかりしてくれ。そんな攻撃が当たるわけがないだろう。」


 確かに。詠唱付きの範囲指定型攻撃魔法、避けるにはうってつけ。

 でも、魔人の反応速度。前の時も思ってたけど、ラウド・ヴェールのラウド、の時点で既に回避に入ってる。

 ん?ということは、もしかして。


「ラウド・ヴェーナ!」


 当然魔法は発動しませんが。はい、避けましたね。


「ラウド・ヴェータ!」


 これも避けました。


「貴様、フェイントとは卑怯な!」

「あなたの反応速度の方がよっぽど卑怯。」


 たまに本命を織り交ぜながらフェイントで追いかける。


 楽しい。

 楽しい楽しい楽しい!

 おいかけっこの途中で体勢がぐらついた魔人!今!


「ラウド・ヴェール!」


 魔法は発動しませんでした。


(ユズハ様。基本的な事で申し訳ないのですが……殺意を込めないとダメです。)

(あっちゃー、千載一遇のチャンスが。)


 テヘペロしてる場合じゃない。


「ラウド・ヴェース!」


 またフェイントを……魔人は避けない。


「ラウド・ヴェール!」


 今度は本命……魔人は右に回避。

 何度か試してみたけど、フェイントの時は魔人は避けずに、本命だけを避けるように。


「フェイントには殺気がこもっていない。」


 あの短い時間で看破されるなんて!


「一つ聞く。名前を教えてくれないか?」


 まあ、こっちが一方的に名前を知っていて、向こうが知らないのはフェアじゃない。


「ユズハ。」


 そう私は一言答える。占いの時に使う名前は……きっと知ってるだろうから。


「そうか、ユズハと言うのか。」


 名前を知ってどうするつもりなのかはわかりませんが。


「ユズハ、私の妻とならないか?」


 どうやら……気に入られてしまったご様子。


「その強さ……尋常ではない。私が向こうの世界の王となる。ユズハはその次に偉い立場になる。どうだ?悪い話ではないだろう?」


 私は……


「ご冗談を。私はこの世界の事をそこそこ気に入ってますので。」

「そうか。殺すには忍びないと思ったのだが……」

「そう?ありがと。」


 戦闘再開としますか。


「"切断"!」

「"転移"!」


 これじゃ、キリがない。


(ユズハ様!前の魔人に使った手は使えないのですか?)

(あれをやるには高い位置にいないとだめだし……)


 もう一度やれ、と言われてもあんまりやりたくないです。


「"虚飾"」


 まあ、姿を消すくらいはやりましょうか。

 魔人は、体にひねりを加え……

 あれは、まずい!


「"切断"!」


 そのまま魔人は刀を水平に構え回転を始める。


「"転移"!」


 声の届かない観客席まで退避する。

 なるほど、無差別に周囲を斬るハタ迷惑な技。


 身体能力も上。

 固有能力の汎用性も上。

 何より、彼は戦い慣れしている。


(まずったなあ……今からでも命乞いして、あの人の妻になっちゃおうかなあ。)

(ユズハ様。今なんと言ったのか私には聞こえませんでした。もう一度お願いします。)

(弱音を吐いてる場合じゃない、って言ったの。)


 "切断"は"転移"で潰せる。しかし他の固有能力が今ひとつのところで潰されている感が否めません。

 考えろ……考えろ。


――!


 "虚飾"って確か……

 視覚または心理を騙す試み!

 そうだ、視覚だけじゃない。心理を騙す効果も、あった。

 考えろ……考えろ。

 ラウド・ヴェール……大魔法の為要詠唱。

 うん?大魔法?


 一つ、閃きました。

 "虚飾"を発動させて"転移"で魔人の近くまで。

 必殺技を披露し、疲労した魔人です。


「その武器……カタナって言うのは知ってる?」

「知っている。」

「じゃあそのカタナを使った人間の中で、一番強かった人は知ってる?」

「それは知らん。」


 ミヤモトムサシという剣豪だと答える。


「宮本武蔵ってね、二刀流の使い手だったの。」

「二刀流とは、一体?」

「ええ、両手に一本ずつ刀を持つ戦闘スタイルよ。」

「なるほど……面白い。」


 魔人は両手に刀を構える。


「かつてない力を感じる……ユズハ、感謝する。」

(ユズハ様!敵に塩を送ってどうするんですか!)

(もう少し……もう少しだから。)


 魔人は両手に持った刀を振り上げる。


「"切断"!」


 そして私は当然!


「"転移"!」


 からの!


「ラウド・ヴェール!」


 魔人は回避したように見えましたが……右足首、消滅しました。


「貴様、図ったな!」


 慣れない武器は使うものじゃないですね。

 初めての二刀流で体が大きくブレましたよ。


「まだだ!まだ!」


 魔人は立ち上がりました。

 ヒュー、痛くないんですか。


「"切断"!」


 私は……回避しない。


「む?どうした事だ。"切断"!」


 切断、と叫びながら刀を何度も振る魔人。

 ニヤリ……作戦は成功です。


「あなたのその固有能力、"切断"。大魔法化させちゃいました。」


 そう、切断の消費魔力、250。ダブルで使えば500。

 ラウド・ヴェールの消費が500だったから、恐らくその辺りが大魔法化の区切りだと思ったのです。


「だから、名前を付けてあげて。さっきの技に。」


 魔人は冷や汗びっしょり。


「に、二刀大切断と……名付ける。」


 さあ。


――最後の、攻防。


「二刀大切断!」


 軸足を失って、もうヨロヨロ。"転移"からの……


「ラウド・ヴェール!」


 もう魔人は避けられない。回避行動も虚しく……

 下半身、消滅しました。


「大魔法ってやっぱり使い勝手悪いわね。」

「くそ、こんな……こんなところで!私は……王に……王に……!」


――殺意の(とばり)


 ………………。


 終わりました。


 無人のはずの東京ドーム。最後に立っていたのは……私でした。


「"転移"」


 私は東京ドームを後にします。

 仮眠はとったけど……ちょっと眠いのです。家に帰ってぐっすりと眠りたい。


 お布団さまが、待ってます!

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