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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
六人目 魔法少女ユズハちゃん
19/23

開戦の狼煙


 激しくぶつかり合う魔法……この戦いは、そういう戦いじゃない。

 お互いが一撃必殺の(すべ)を持っているなら、回避が全て。

 この感じは、うん。またそういう戦いになりそうです……


 まず、どこから説明していいかが、わからないのですが。

 まゆみさんが召喚してしまった、三人の魔人。

 一人目はちどりさんが倒しました。

 二人目は私が倒しました。

 残る三人目も、私が倒す予定なのですが。


「ユズハ様、手掛かりは無いのですか?」

「ラヴェール。実は、全く無くて……」


 そう、三人目の魔人は恐らく、この社会に完全に溶け込んでいる様子。

 二人目の魔人を倒してから一ヶ月が過ぎようとしていますが、何もおかしい事が起こっていないのです。


「人間社会に溶け込んでいるなら、わざわざ討伐する必要はないのでは?」


 私もそう思ってます。出来れば戦いは回避したい。


「でも、種族が違うの。何らかの手違いで百、千、万単位の死者が出るのは避けたいの。」


 それに……


「あの人達の目的はこの宝石(ラヴェール)。もし最後の一人の魔人が元の世界に戻って、この世界の事が明るみに出れば……軍隊規模の魔人が押し寄せてくる。」


 そうなったら私一人の力では対処できない。あっとういう間に人類は「餌」に。


「なるほど。つまりは意見の相違ですね。」

「そういうこと。戦う理由はそれだけ。」


 嫌だなあ、汚れ役だなあ。


 と、いうことで。

 向こうから尻尾は絶対出さない。こちらからメッセージを送る必要があります。

 私の今操作しているスマホの、LINEの相手は超大物芸能人。

 私は……肩書きを利用して生放送のお昼のバラエティ番組に潜りこみました。


「それで、お客様の一人から宝石を買ったんですけど……まるでこの世界の物とは思えないほど綺麗で……」

「いくらしたんですか?」

「五億円。」


 裏方のスタッフからは「えー!」という反応。


「小学五年生が、五億円をポンッですよ。信じられないですね。」


 などとやり取りを交わします。

 私は小学生だから、特別面白い事言わなくても周りがフォローしてくれるの。


 家に帰る途中確認すると……オーケー。動画共有サイトにあがってますね。


(ユズハ様。かなり乱暴な手を使いましたね。)

(ええ。出来れば使いたくなかったけど。)


 ゲーノーカイって、怖いから。


 その三日後。並んでいるお客様の中に、未来が視えない方がいらっしゃいました。魔人です。

 律儀に三時間待つだけの心のゆとりがあるみたい。


「私も是非占って欲しい。」

「魔人様の未来は範疇の外です。」

「なるほど。しかし、無碍にする必要もないだろう。」


 魔人は席に座り一万円札を十枚並べました。


「やるだけやってみます。しかしあなたは、この世界の(ことわり)から外れた存在。」

「それはわかっている。」

「名前がわかれば、精度は上がりますがいかが致しましょう。」

「名前は教えん。」


 一ヵ月分の方でいっか。使うのは小アルカナ(トランプ)


「一週間後に病気で死にます。その三日後に結婚して、その更に五日後に離婚。その三日後に宝くじに当たったあと、自殺するでしょう。」


 なんだろう、このデタラメな占い結果は。


「なるほど。やはり無理か……」

「ごめんなさい、ご期待に添えませんでした。」

「それでは本命の要件を伝える。」


 次の午前二時、無人の東京ドーム内で待ち合わせ。


(ラヴェール、私の固有能力、"既知"のことだけど。)

(ユズハ様、私も確認しました。人の頭上に名前が表示されていますね。)


 通常では、人の頭上に名前を表示するだけの能力。

 もちろんあの魔人にも。アレス……アレス、か。


(不意打ちされて、"解析"を忘れていたわ。)

(まあ、それは今夜にでもわかるでしょう?)


 午前二時。"転移"でドーム内に入ると……グラウンド中央に魔人の姿が。

 なるほど、一般人に危害は加えない……そういうことね。

 ん、東京ドームって結構広い。


「"虚飾"」


 通用しないだろうけど、"虚飾"で自身を透明化させる。

 正確には、透明のビジョンを作り出す、か。


 魔人の10メートル真後ろに立つ。そして小さな声で。


「"解析"」


(登録名、アレス。魔力量、9999。状態、正常。固有能力、切断。)


「固有能力、"切断"を"解析"します。」


(消費魔力、250。効果、万物全てを斬る。射程、声の届く範囲。使用条件、斬属性の武器を使用。備考、射程に応じて追加で魔力を消費。)


 斬属性の武器。日本には、結構ある。魔人の腰には、二本の刀。


「もうよろしいか?」


 !やはりバレて……いや、私がどこにいるかはわからないみたい。


「"解析"を常時解放!対象は"切断"!」

「そこか!"切断"!」


 魔人は刀を私の方に振ると……想定より速い!


「"転移"!」


 何とか避けられた。


(ラヴェール!今の、わかった!?)

(見えました!攻撃範囲があらかじめ赤色で視覚化されていました!)


 そう、それが"既知"の真骨頂。正確には、"既知"と"解析"の合わせ技だけど。

 衝撃波の後に音が聴こえたから、音速以上。あれに触れれば真っ二つ。しかも、射程も長いだなんて。


(ユズハ様!まさかラウド・ヴェールと同じ射程ですか!?)

(私の声の方が小さい。同じ声の届く範囲でも、私の方が射程で劣るわ。)


 可能な限り、隙を突くまで使用は控えたい。

 上から降り注ぐ力だという事は、知られないほうがいいから。


 私は"虚飾"を解除する。


「待っていた。」

「それは、どうも。」

「あの二人を退けたのは、お前か?連絡が取れない。」

「"使役"の方は私が。"破壊"の方は、別の人が。」

「そうか。」


 魔人はクックと笑い出す。


「あの二人、魔人の中でもかなり強い方なのだが……」

「へえ、サインでも貰っておけばよかったわ。」

「楽しみだ、どんな戦いになるのか。」


 魔人は刀を構える。


「"切断"!」

「"転移"!」


 攻撃範囲の視覚化で、最小限の"転移"で回避可能。

 今度はその移動先に!


「"切断"!」

「"転移"!」


 ……回避は恐らく完璧。


「そうか、これも避けるか。面白い。少しばかり、我々の話をするとしよう。」


 魔人は目をつぶる。


「その宝石は、絶大な力を持ち、王位継承の証だ。」


 魔人はくるりと後ろを向く。


「我々の食事は、主に人間なのだが……人間を食らうと、魂がそこに残る。」


 魔人は手を広げる。


「その魂を吸うのが、その宝石の役目。それがないと我々の世界は人間の魂に汚染されてしまうのだ。」


 魔人はこちらを向く。


「王が死ぬと、宝石は野に放たれる。そして最初に拾い上げた者が王だ。」


 魔人は腕組みをする。


「今回は、まさか異世界……今この世界に居るわけだが。」


 魔人は組んだ腕を解き放つ。


「本当に、それだけなのだ。その宝石さえ渡してくれれば、これ以上この世界に関与しない。」


 魔人はそう提案する。


「悪いけど……その秩序が向こうの人間たちを苦しめるのでしょう?」


 私の答えは、渡さないこと。


「気が進まぬが、やはり殺す他ないのか。いや、足でも切断すれば観念するだろうか。」


 魔人は大きく息を吸い込む。

 私も、同じく。


「"切断"!」

「"転移"!」


 どっち?どっちがアドバンテージをとってる?


(ユズハ様。"切断"の消費魔力、250。対してこちらの"転移"は、"節制"の効果もあり消費魔力1です。)

(総魔力が同じならこっちが断然有利だけど……)


 持久戦になったら、大人の体力と、子どもの体力の差。

 それに、魔人の総魔力も測定不能ときたもの。


「"切断"!」

「"転移"!」


 ラヴェールは私に問う。


(ユズハ様、先ほどから短い距離しか"転移"していませんが?)

(ラヴェール。これは、餌なの。餌を撒いているの。)


 私は魔人に問う。


「あなたの名前、教えてくださる?」


 魔人は私に問う。


「名前を知ることで発動する固有能力もある。誰が教えると思うか?」

「ふうん、アレスっていうのね。」

「!貴様、一体!」


 そう、ここらあたりで「心が読めますよ」的なアピールでも。


「"切断"!」

「"転移"!」


 またギリギリ避けるショートワープ。もう少し……もう少しで。次の一回、賭けてみましょう。


「"切断"!」

「"転移"!」


 私は魔人の後ろに転移し……


――殺意の(とばり)


「ラウド・ヴェール!」


 上から降り注ぐ力。何度もショートワープを重ね、"転移"の射程を「手の届く範囲」くらいに誤認させた後の……ロングワープ。"転移"の射程は……無限!

 果たして、結果は……


「敵が視界から消えたら背後を疑え。」


 あ、ダメでした。


「戦いの鉄則の話だ。それに……なるほど。範囲指定型の大魔法。」


 あ、バレました。


 さて、次の一手。どうしましょう?

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