最弱の固有能力
三
私は、考えの甘さを認識していた……していました。
魔人は強かった。まさかここまで長引くとは思ってもいなかった……いませんでした。
ラヴェールも同じ事を思っていたみたい。
「最初の一人は、たまたま上手く行っただけのようです。」
「うん、しかも固有能力、"使役"。戦闘向きの能力じゃなくて、指揮官向きの能力だよね。」
そう。私が戦った魔人の固有能力は、"使役"。戦闘向けじゃない。
「最初の魔人の固有能力は、"破壊"でした。」
「なんでそんな戦闘向けの固有能力持ちが、ラウド・ヴェールを避けられなかったの?」
「ものすごく油断していました。」
最初の一人が、平隊員。そして私が今日戦ったのが、隊長クラスといったところでしょうか。
となるとその二人を纏めていた残りの一人は……将軍クラス!
「最後の一人は……」
「ええ、恐らくガチガチの戦闘向け固有能力だと思います。」
そうなると、今の固有能力だけじゃ、心許ないです。
私の固有能力を、発現させないと。
「ラヴェール。私の固有能力を……」
「ユズハ様、確かにそれは必要だと思われます。」
具体的には何をすればいいんだろ?
わからないけど、とりあえずは元の日常に戻りましょう。
仕事を少しだけ遅刻した私に、容赦の無い行列、行列、行列。
それでも一人に掛かる時間はいつも通り。
「ん、今年の9月14日に……あなた飲酒運転しますね。通行人を一人殺害。その日は禁酒。」
「15日後に転んで軽く怪我します。それくらいですね。あとは全体的に、仕事が充実するでしょう。」
「意中の相手と近づくチャンスです。でも喫茶店はダメ。意表をついてラーメンが吉。」
「今年の9月14日に飲酒運転の車に轢かれて死にます。外出は極力控えて。」
本当のところを言えば、もっと細かく占えるけど。
あんまり詳しい内容を伝えると……ほら、引かれるので。
それにしても、人の未来を視るというものが……
こんなに楽しいものだったなんて!
いままで気がつかなかった。もったいないことしたな。
(ユズハ様、学校には行かないので?)
(学校行っても……お金はもらえないでしょ?)
あの狭い空間に40人詰められて、全員の未来が視えてる状況を想像してください。
正直どうにかなっちゃいそう。
仕事が終わり、晩御飯食べて、部屋に戻ってきました。
「~♪」
「ユズハ様、随分ご機嫌ですね!」
「うん、あんなに楽しくお仕事したのは初めて。」
「最初は……正直言うと感情が乏しいと思ったのですが。」
「うん、だって無かったもの、感情。ラヴェールのおかげね。」
そんなことを言われて多分照れてるラヴェール。
「ラヴェールって可愛いよね。」
「え、あ、そ、う……」
こういうと戸惑うところが可愛い。ラヴェールの方が年上なんだけど。
そして……
私はくる日もくる日も、占いをこなす。一件10万円とかなり強気の値段設定なのに……
客足が途絶えない。休日だと最大三時間待ち。
お客様の未来を視ているうちに、私の中でこんな考えが。
(この人は今、どんな考えでここにいるんだろう?)
(この人は、過去にどんな事があったんだろう?)
視えない部分が知りたい。私が視えるのは、未来だけ。
知りたい、知りたい。もっと、もっと。
好奇心が止まらない。
(ユズハ様。それ、固有能力発現のフラグです。)
(ふうん、こういうのでいいのね。)
そういえば、私が戦った魔人がこんな事を言っていた気がする。
(ラヴェール。固有能力って、一人一つって言ってたよね。)
(それが基本ルールみたいですね。)
そうなると……ちどりさん。あの人は何も役に立たない固有能力を発現させていたことに。
なるほど、そういう固有能力でも、今の固有能力との相乗効果で強力な効果になるという事。
一人で複数の固有能力を使えることを、魔人は「危険な存在」だとも言っていた。
(だとしたら、私の固有能力は……アレでいきましょう。)
(ユズハ様!?)
そう、恐らく固有能力の発現、それはある程度変更を加える事が可能。
私のベースである未来予知に、アレンジを加えるような。そんな能力にしましょう。
そうなると……うん、今のままでいっか。
知りたい、もっと知りたい。
「ユズ、たまには釣りでもどうだー。」
そういえば今日は、あの日から26日。
私の占いの館は月に数回、お休みがある。そんなオフの日に、お父さんはよく私を釣りに誘う。
「釣り?お父さんの釣果は15匹で、私は6匹。まだまだお父さんには勝てないな。」
「ちょっと、釣果の予知はやめて欲しかったな。」
「あっ、ごめん。」
24時間以内の出来事なら、肉眼でもわかってしまう。
でも一つ言うなら、何度も観て結末を知っている映画でも、十分楽しめると言いたい。
問題なのは何匹釣ったかという結果ではなく、釣れた時何を思うかが大切なの。
なんて言ってみる。
結局、お父さんの釣果は15匹、私は6匹でした。
「やっぱりお父さんには敵わないよ。」
「いや、俺もユズには敵わない。」
敵わない同士だね、なんていって一緒に笑う。今回の休日は楽しかった。
「ユズ、大分表情が豊かになった。」
「ん?そう?」
「今まではなんていうか……人形みたいだったからさ。」
「ふふっ、なにそれ。」
やっぱりお父さんには、敵わない。
「ユズー、学校からプリントがいっぱい。」
「あ、また小テスト!」
お母さんからぱっと受け取ってぱぱっと解く。
占いに比べれば、お茶を沸かせるくらいには簡単。
100点を連発するとまた面倒なので、いつも70点から80点をとっているという、設定です。
「ユズ、あなたは女の子なんだから、料理くらいできないとだめよ。」
お母さんの口癖。私の料理の腕は……壊滅的です。
「得意種目で勝負するの!私の年収ならイケメン男性を何人も飼えるよ。」
「その発想が怖いわ。」
「私は包丁が怖い。」
怖い同士だね、なんていうとお母さんは心配そうにする。
「悪い男には気をつけないとだめよ。」
人格の良し悪しは占いでわかりますよ。
「その発想が怖いわ。」
「私は冷凍庫が怖い。」
そのまま自室に戻る。
お母さんには心配かけてばかりだ。この間も私の口座にあった五億円が消失して慌ててた。
でも。私が稼いだお金だから、どう使おうと自由でしょう?
ちどりさんの未来を占って……死因、凍死。
周辺の占い結果を見て驚いたけど、かなりの貧困生活を送っていたみたい。
家賃が払えなくて家を追い出されて……一月のある雪の日に、橋の下で凍死。
そんな未来が視えて、反射的にラヴェールを買い取ったけど。
思えばあの時からか、感情らしい感情が生まれたのって。
私はちどりさんを救えたのかな?助かるといいけど。
ちどりさんの固有能力は、節制。多分無駄遣いはしないでしょう。
「本当にごめんなさい。本来は最低でも百億円は払わないといけないのに。」
「ユズハ様?」
「あ、ごめん独り言。」
ちどりさんはどんな人生を送って……ラヴェールを私に渡す時何を思って……
別れる時、どんな思いだったか……
あかねさんも。一体どんな境遇で、殺意の大魔法なんかが発現するの?
めぐみさん。転移……転移、か。何を思っていたのでしょう?
まゆみさん……どこで人格が歪んでしまったのでしょう?
エリザさんの虚飾は、はい。ラヴェールから聞きました。
みんなはどんな思いで……そして私は、どんな思いで……
知りたい。
何となく、予感はしていたけど、魔道具から小さな小さな共鳴音が。
「ユズハ様。発現の合図です。しかもこれは……ちどり様の時と同じ!」
「そうでしょう。私の知覚を補う常在型能力。」
私は魔道具に手をかざす。
といっても、特に光を放つわけでもない。
常在型能力の発現は、どうやらかなり地味。
ラヴェールに"解析"をお願いする。
「"解析"。登録者名、ユズハ。魔力量、9999。心身状態、正常。固有能力、既知。」
既知!やっぱり予想通り!
「この固有能力、"既知"の概要を"解析"……消費魔力、0。効果、対象の現在を視覚化。射程、目の届く範囲。使用条件、なし。備考、常在型能力。」
私は深呼吸をする。
「ユズハちゃん、お手柄。」
ラヴェールは……
「ユズハ様!?この固有能力、一体どこで使えるんですか?」
私は答える。
「単体では何も意味の無い、最弱にして最強の固有能力。きっと役に立つから。」