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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
六人目 魔法少女ユズハちゃん
18/23

最弱の固有能力


 私は、考えの甘さを認識していた……していました。

 魔人は強かった。まさかここまで長引くとは思ってもいなかった……いませんでした。

 ラヴェールも同じ事を思っていたみたい。


「最初の一人は、たまたま上手く行っただけのようです。」

「うん、しかも固有能力、"使役"。戦闘向きの能力じゃなくて、指揮官向きの能力だよね。」


 そう。私が戦った魔人の固有能力は、"使役"。戦闘向けじゃない。


「最初の魔人の固有能力は、"破壊"でした。」

「なんでそんな戦闘向けの固有能力持ちが、ラウド・ヴェールを避けられなかったの?」

「ものすごく油断していました。」


 最初の一人が、平隊員。そして私が今日戦ったのが、隊長クラスといったところでしょうか。

 となるとその二人を纏めていた残りの一人は……将軍クラス!


「最後の一人は……」

「ええ、恐らくガチガチの戦闘向け固有能力だと思います。」


 そうなると、今の固有能力だけじゃ、心許ないです。


 私の固有能力を、発現させないと。


「ラヴェール。私の固有能力を……」

「ユズハ様、確かにそれは必要だと思われます。」


 具体的には何をすればいいんだろ?

 わからないけど、とりあえずは元の日常に戻りましょう。


 仕事を少しだけ遅刻した私に、容赦の無い行列、行列、行列。

 それでも一人に掛かる時間はいつも通り。


「ん、今年の9月14日に……あなた飲酒運転しますね。通行人を一人殺害。その日は禁酒。」


「15日後に転んで軽く怪我します。それくらいですね。あとは全体的に、仕事が充実するでしょう。」


「意中の相手と近づくチャンスです。でも喫茶店はダメ。意表をついてラーメンが吉。」


「今年の9月14日に飲酒運転の車に轢かれて死にます。外出は極力控えて。」


 本当のところを言えば、もっと細かく占えるけど。

 あんまり詳しい内容を伝えると……ほら、引かれるので。


 それにしても、人の未来を視るというものが……

 こんなに楽しいものだったなんて!

 いままで気がつかなかった。もったいないことしたな。


(ユズハ様、学校には行かないので?)

(学校行っても……お金はもらえないでしょ?)


 あの狭い空間に40人詰められて、全員の未来が視えてる状況を想像してください。

 正直どうにかなっちゃいそう。


 仕事が終わり、晩御飯食べて、部屋に戻ってきました。


「~♪」

「ユズハ様、随分ご機嫌ですね!」

「うん、あんなに楽しくお仕事したのは初めて。」

「最初は……正直言うと感情が乏しいと思ったのですが。」

「うん、だって無かったもの、感情。ラヴェールのおかげね。」


 そんなことを言われて多分照れてるラヴェール。


「ラヴェールって可愛いよね。」

「え、あ、そ、う……」


 こういうと戸惑うところが可愛い。ラヴェールの方が年上なんだけど。


 そして……

 私はくる日もくる日も、占いをこなす。一件10万円とかなり強気の値段設定なのに……

 客足が途絶えない。休日だと最大三時間待ち。

 お客様の未来を視ているうちに、私の中でこんな考えが。


(この人は今、どんな考えでここにいるんだろう?)


(この人は、過去にどんな事があったんだろう?)


 視えない部分が知りたい。私が視えるのは、未来だけ。


 知りたい、知りたい。もっと、もっと。

 好奇心が止まらない。


(ユズハ様。それ、固有能力発現のフラグです。)

(ふうん、こういうのでいいのね。)


 そういえば、私が戦った魔人がこんな事を言っていた気がする。


(ラヴェール。固有能力って、一人一つって言ってたよね。)

(それが基本ルールみたいですね。)


 そうなると……ちどりさん。あの人は何も役に立たない固有能力を発現させていたことに。

 なるほど、そういう固有能力でも、今の固有能力との相乗効果で強力な効果になるという事。

 一人で複数の固有能力を使えることを、魔人は「危険な存在」だとも言っていた。


(だとしたら、私の固有能力は……アレでいきましょう。)

(ユズハ様!?)


 そう、恐らく固有能力の発現、それはある程度変更を加える事が可能。

 私のベースである未来予知に、アレンジを加えるような。そんな能力にしましょう。

 そうなると……うん、今のままでいっか。

 知りたい、もっと知りたい。


「ユズ、たまには釣りでもどうだー。」


 そういえば今日は、あの日から26日。

 私の占いの館は月に数回、お休みがある。そんなオフの日に、お父さんはよく私を釣りに誘う。


「釣り?お父さんの釣果は15匹で、私は6匹。まだまだお父さんには勝てないな。」

「ちょっと、釣果の予知はやめて欲しかったな。」

「あっ、ごめん。」


 24時間以内の出来事なら、肉眼でもわかってしまう。

 でも一つ言うなら、何度も観て結末を知っている映画でも、十分楽しめると言いたい。

 問題なのは何匹釣ったかという結果ではなく、釣れた時何を思うかが大切なの。


 なんて言ってみる。


 結局、お父さんの釣果は15匹、私は6匹でした。


「やっぱりお父さんには敵わないよ。」

「いや、俺もユズには敵わない。」


 敵わない同士だね、なんていって一緒に笑う。今回の休日は楽しかった。


「ユズ、大分表情が豊かになった。」

「ん?そう?」

「今まではなんていうか……人形みたいだったからさ。」

「ふふっ、なにそれ。」


 やっぱりお父さんには、敵わない。


「ユズー、学校からプリントがいっぱい。」

「あ、また小テスト!」


 お母さんからぱっと受け取ってぱぱっと解く。

 占いに比べれば、お茶を沸かせるくらいには簡単。

 100点を連発するとまた面倒なので、いつも70点から80点をとっているという、設定です。


「ユズ、あなたは女の子なんだから、料理くらいできないとだめよ。」


 お母さんの口癖。私の料理の腕は……壊滅的です。


「得意種目で勝負するの!私の年収ならイケメン男性を何人も飼えるよ。」

「その発想が怖いわ。」

「私は包丁が怖い。」


 怖い同士だね、なんていうとお母さんは心配そうにする。


「悪い男には気をつけないとだめよ。」


 人格の良し悪しは占いでわかりますよ。


「その発想が怖いわ。」

「私は冷凍庫が怖い。」


 そのまま自室に戻る。

 お母さんには心配かけてばかりだ。この間も私の口座にあった五億円が消失して慌ててた。

 でも。私が稼いだお金だから、どう使おうと自由でしょう?


 ちどりさんの未来を占って……死因、凍死。

 周辺の占い結果を見て驚いたけど、かなりの貧困生活を送っていたみたい。

 家賃が払えなくて家を追い出されて……一月のある雪の日に、橋の下で凍死。

 そんな未来が視えて、反射的にラヴェールを買い取ったけど。

 思えばあの時からか、感情らしい感情が生まれたのって。


 私はちどりさんを救えたのかな?助かるといいけど。

 ちどりさんの固有能力は、節制。多分無駄遣いはしないでしょう。


「本当にごめんなさい。本来は最低でも百億円は払わないといけないのに。」

「ユズハ様?」

「あ、ごめん独り言。」


 ちどりさんはどんな人生を送って……ラヴェールを私に渡す時何を思って……

 別れる時、どんな思いだったか……


 あかねさんも。一体どんな境遇で、殺意の大魔法なんかが発現するの?

 めぐみさん。転移……転移、か。何を思っていたのでしょう?

 まゆみさん……どこで人格が歪んでしまったのでしょう?

 エリザさんの虚飾は、はい。ラヴェールから聞きました。


 みんなはどんな思いで……そして私は、どんな思いで……

 知りたい。


 何となく、予感はしていたけど、魔道具(ラヴェール)から小さな小さな共鳴音が。


「ユズハ様。発現の合図です。しかもこれは……ちどり様の時と同じ!」

「そうでしょう。私の知覚を補う常在型能力。」


 私は魔道具(ラヴェール)に手をかざす。

 といっても、特に光を放つわけでもない。

 常在型能力の発現は、どうやらかなり地味。


 ラヴェールに"解析"をお願いする。


「"解析"。登録者名、ユズハ。魔力量、9999。心身状態、正常。固有能力、既知。」


 既知!やっぱり予想通り!


「この固有能力、"既知"の概要を"解析"……消費魔力、0。効果、対象の現在を視覚化。射程、目の届く範囲。使用条件、なし。備考、常在型能力。」


 私は深呼吸をする。


「ユズハちゃん、お手柄。」


 ラヴェールは……


「ユズハ様!?この固有能力、一体どこで使えるんですか?」


 私は答える。


「単体では何も意味の無い、最弱にして最強の固有能力。きっと役に立つから。」

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